ガイドラインの改正でMVNOの参入促進を図る総務省に対し,携帯電話事業者は「なすすべなし」の状況だ。改正に先立って実施した意見募集では,NTTドコモが「MVNOだけに著しく有利となるような制度は適切ではない」と苦言を呈したのが精一杯。他の2社は「Win-Winの関係」(KDDI)や「市場原理に基づく自由な競争」(ソフトバンクモバイル)を主張するにとどまった(図1)。

図1 ガイドラインの改正案に対する大手3社の意見(パブリック・コメントから引用)
図1 ガイドラインの改正案に対する大手3社の意見(パブリック・コメントから引用)
あくまでもWin-Winの関係を強調した上で,MVNOを受け入れる姿勢を示す。ガイドラインの内容に関しては,接続形態や接続条件に異議を唱える意見が多かった。
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携帯電話事業者は条件闘争へ

 ガイドラインの方向性を覆すのは難しいと判断した各事業者は,細部に修正を求める“条件闘争”に出た。中でも修正の要望が多かったのは,接続形態や接続条件の部分。改正案では「具体的な接続形態,接続に当たってMVNOが取得する情報その他の接続条件については,“一義的には”MVNOが判断すべきものであり,携帯電話事業者はこれを踏まえて接続に応じる必要がある」と記述されている。

 この“一義的には”という記述へ各社が敏感に反応。「MVNOの一方的な判断で決定できるという意味であれば,著しく公平性を欠く」(KDDI),「具体的な接続形態は事業者間の個別協議で決定されるべき。MVNOの判断で決定されると誤解を招く恐れがある」(ソフトバンクモバイル)といった意見が集中した。

 ガイドラインに脚注として例示された接続形態や接続条件の内容についても「接続に当たってMVNOが取得する情報は最低限に限定すべきで,不適切」(NTTドコモ),「例示内容は何の問題もなく実現または取得できると誤解を招く可能性があり,削除すべき」(KDDI)と強く反発している。KDDIにいたっては,MVNOの接続要求を拒否できる理由として例示された内容についてまでも「誤解を招く」と削除を要求した。

 これら改正案に寄せられた要望は,ガイドラインの確定時に受け入れられる可能性も残っている。しかし,総務省の基本方針は「大幅な修正はなし」。方向性を保ったまま,文言の修正にとどまるのが濃厚だ。

NTTドコモも遂に重い腰を上げた

 今回のガイドライン改正を先取りする形で,MVNOは既に動き始めている。MVNOの先駆けである日本通信は2006年10月,携帯電話事業者から設備を借りる合意を得ないまま新サービス「ドッチーカ」を発表する強攻策に出た。通常は携帯電話事業者の合意を前提として発表するのが一般的だが,合意を得る前にあえて計画中のサービスを公表したのだ。

 ドッチーカ発表の2カ月後となる2006年12月には,総務省がガイドラインの改正案を公表。これを機に日本通信はNTTドコモに無線設備の貸し出しを申し入れた。これまで設備の貸し出しに難色を示していたNTTドコモも,ガイドライン改正案の大幅な修正は不可能との判断からか,遂に重い腰を上げて日本通信と協議を開始した。日本通信の三田聖二社長は「2007年4月にもドッチーカのサービスを開始したい」と意気込む。

 日本通信だけでなく,他のMVNOも追随していくはずだ。MVNOのビジネスやシステムを支援するMVNE(mobile virtual network enabler)によると,「具体的に話を進めているMVNOは10社程度」(インフォニックスの藤田聡敏・常務取締役),「数社が本格的に検討している状況」(アクセンチュア通信・ハイテク本部の武田智和エグゼクティブ・パートナー)と,その兆しは既に見えている。