キヤノン電子を立ち直した酒巻久社長の著作は、多くのビジネスパーソンに読まれている

 キヤノン電子の酒巻久社長が書いた著作物がビジネスパーソンに受けている。『椅子とパソコンをなくせば会社は伸びる! 』『キヤノンの仕事術』(ともに祥伝社)といった酒巻社長の本は売れ行きがよく、100冊まとめ買いして幹部研修のテキストに使う企業や、中国や韓国といった海外拠点での現地社員の教育資料にしている企業もある。

 酒巻社長に直接教えを請いたいと、同社に願い出る企業も後を絶たないという。最近はセミナーの講師にも引っ張りだこだ。キヤノン電子の秩父工場には、今も見学者が引っ切りなしに訪れる。

 酒巻社長は赤字同然だったキヤノン電子を立て直した秘けつを聞かれると必ず、「工場は最高のセールスマン。いらないものを全部捨て、残したものはきちんと整理・整とんして、ゴミ1つ落ちていない工場を取引先に見てもらえば、自然に注文は増えます。当社の営業担当者が取引先に当社の強みを100回説明するよりも、きれいな工場を1回見てもらうほうが営業効果は高いですね。工場がきれいになると、そこで働く人まで光って見えてくるからでしょう」と答えているという。

 しかも酒巻社長が有名になったことで、キヤノン電子の社名も広く知られるようになった。今までは営業に行くと「キヤノン電子はキヤノンの子会社で電子部品を製造している会社です」といった会社の説明から始めなければならなかったが、今ではキヤノン電子の名前を出すだけで、「あの酒巻社長の会社ですね」と言われ、会社の説明をしなくても商談に入れるケースが増えたという。

よく、椅子とパソコンをなくせましたね


キヤノン電子の立ち会議の様子
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 『椅子とパソコンをなくせば会社は伸びる! 』を読んだ他社の経営者や幹部からは、酒巻社長にいつも同じ質問が来る。

 「よく、こういうことができましたね?」

 この本の中で酒巻社長は、パソコンが社員の「怠惰の隠れみの」になっていると指摘する。椅子に座ってだらだら会議をするのも生産性が悪いと一喝。そこから生まれたのが、今やキヤノン電子の代名詞にもなっている「立ち会議」だ。立ったままなら、時間を区切って、ぱっぱと会議が進むという。キヤノン電子流の生産性向上策だ。

 質問に対する酒巻社長の答えは明快だ。「やるか、やらないかは経営者の考え1つ。会社をよくするためにはやるしかないと思えば、経営者が実行に移すまでです。担当役員などに任せず、社長が自分で陣頭指揮を執るべきです」

 業績好調のキヤノングループがここまでやっているとなれば、「当社もやるしかない」と思えてくるのが、酒巻社長の考えを支持する読者の総意なのだろう。