新ガイドラインにはMVNOが携帯電話事業者と交渉を円滑に進められるよう,実務レベルでの規定も至る所に散りばめられている(表1)。「電話番号の扱いや端末の調達など,MVNOが事業を展開するのに必要な事項がすべて凝縮してある」(日本通信の三田聖二社長)。

表1 「MVNOに係る電気通信事業法及び電波法の適用関係に関するガイドライン」の改正案の
表1 「MVNOに係る電気通信事業法及び電波法の適用関係に関するガイドライン」の改正案の ポイント [画像のクリックで拡大表示]

携帯電話事業者と対等な交渉が可能に

 まず,端末シェアで25%以上を占めるNTTドコモとKDDIに対しては,接続料や接続条件を接続約款として公表する必要があるとした。もともとNTTドコモとKDDIには接続約款の公表が義務付けられている。しかし,これまでは「事業者間接続」の概念が存在しなかったため,MVNO向けの接続料や接続条件は記述されていなかった。今後はMVNO向けの接続料や接続条件が接続約款に明記されることになるので,これを基にMVNOは交渉できるようになる。

 さらに接続形態や接続条件はMVNOが判断すべきもので,携帯電話事業者はこれを踏まえて接続に応じる必要があるとした。従来は接続形態や接続条件に関する希望があったとしても,MVNOは携帯電話事業者が出す条件に従うしかなかった。しかし,今後はMVNOが主導権を握って接続条件などを提示できる。拒否する場合の説明責任は携帯電話事業者側に生じる。

 具体的な論点となりそうなのが,「レイヤー2」か「レイヤー3」のいずれで接続するかなどだ。MVNOの多くはデータ通信系のサービスを予定している。データ通信系のサービスを設計するには,レイヤー2で接続した方が自由度が高い。レイヤー3の場合は利用形態が携帯電話事業者のエンドユーザーと同じ条件になるので,付加価値を出しにくい。

 レイヤー2であれば,レイヤー3と同じことが実現できるのはもちろん,IPアドレスによるアクセス制御やセッションのリアルタイム監視などが可能になる。ユーザーのIPアドレスに応じて利用できる機能を変えたり,あらかじめ設定した利用時間を超過したユーザーの通信をリアルタイムに遮断したりするなど,携帯電話事業者の既存サービスとは違った独自色を打ち出せる。

 そこで,MVNOの多くはレイヤー2での接続を望むと思われる。しかし,「国内の携帯電話事業者の設備はレイヤー2の接続を前提とした作りになっていない」(日本通信の福田尚久・常務取締役CFO)。MVNO協議会がNTTドコモとKDDIに問い合わせた結果,レイヤー2の接続には設備の改修に膨大な費用と時間がかかる旨の回答があったという。

 ガイドラインの改正前なら,MVNOは「レイヤー2接続が不可能なため,レイヤー3接続しかできない」という携帯電話事業者の主張を受け入れざるを得なかった。しかし,今後はレイヤー2接続を求め,場合によっては設備の改修コストの負担についてMVNOと携帯電話事業者が協議することも可能となる。

 このほか,MVNOによる端末の調達について言及した点も大きい。電気通信事業法や電波法で定める技術基準を満たしてさえいれば,MVNOは独自の端末を自ら開発したり海外から調達したりできる。これまでは携帯電話事業者の仕様を完全に満たさなければ接続できず,限られたメーカーしか端末を開発/テストできなかった。端末の調達手法の多様化は,サービスの多様化へと結び付く。