同一のWebサイトであってもさまざまな見え方や受けとられ方があり、その点を考慮したサイト設計、デザインの必要性があることを述べてきた。今回アクセシブルなサイトを制作した後に起きる問題である、サイト構築後のアクセシビリティの低下について、その原因と防止方法について考えてみたい。

Webサイトは公開=完成ではない

アクセシビリティに関するガイドラインを守り、種々の環境を考慮してアクセシブルなサイトを設計、構築して公開したのにもかかわらず、時間とともにアクセシビリティが低下していく。これはいったいどのような理由から起こるのであろうか。Webサイトは、情報を迅速に発信する為のツールとして利用されることが多く、日々の更新を必要とすることが多い。この更新の際に少しずつ問題が発生する、というのはよくあるケースだ。

原因はいくつか考えられる。

  • そもそも更新を考慮した設計がなされていない
  • 更新者のスキルを考慮した運用方法になっていない
  • サイト構築時におこなっていた検証を運用時にはおこなっていない

などが主な原因ではないだろうか。各項目について詳しく解説したい。

運用時を考慮していない設計

これがまさにサイトを制作し終えて完成、としてしまっているパターンである。そもそもWebサイトは公開後にユーザーが訪れてこそ意味があるもののはずだ。にもかかわらず、運用のことを考慮していない設計となっている為、サイト公開後に何か更新をしようと思ったときには、どこかが崩れてしまう、どこを直してよいのかわからない、といった問題が出てきてしまうのである。

これは、サイト構築までを外部に委託し、運用を自らおこなう、といった場合には特に注意していただきたいポイントだ。公開時の見た目ばかりに気をとられて、その後の運用ができなくなってしまわないように、早い段階から確認をしていただきたい。

更新者のスキルレベル

Webサイトの重要性が叫ばれるようになってきた昨今であるが、まだまだWebサイト運用の為の専門家、チームといったものを持てるだけの企業、団体はそれほど多くはないだろう。したがって、必然的に広報など、本来他の仕事をメインとする部署や人物にWebサイト更新の役目が回ってくる、ということはよくあることではないだろうか。
この場合には、例えばマニュアルを作るなど、運用時を考慮したサイト構築がなされていたとしても、それがサイト制作者の視点で作成されていた場合には、実際の更新担当者が理解できずに、結果として間違った運用をおこなってしまうという可能性が出てきてしまう。
このような事態を防ぐ為には、やはり早い段階で更新担当者がどのようなスキルレベルにあるのか、ということを確認しておくべきである。

検証の重要性

前述の二点のような問題をクリアし、順調な運用をおこなっているにもかかわらず、気がつくといくつか問題点が出ていて指摘されてしまう。このような問題は更新時に検証がおこなわれていない場合にはよくあることかもしれない。
確かに、日々の更新では少しでも早く情報を発信しなければならないことも多く、検証に十分な時間が取れないこともあるだろう。とはいえ、人間が更新する以上はやはりミスはつき物であり、これを少なくする為の検証は非常に重要である。
特に、アクセシビリティに関する問題として、前回までに何度も述べてきたように、自らの閲覧環境以外で起こりうる問題点に気づく為にはそれなりの検証が必要だ。方法としては、検証ツールを用いる、ツールでは判断できない部分はチェックリストを用いるなどがあるわけだが、慣れてしまえばそれほど時間もかからなくなるし、アクセシビリティはもちろんのこと、間違った情報を発信してしまうといった致命的なミスも防げるようになるという利点もあるのだ。

すべてはサイト設計時に

以上のように運用時に起こる問題というものは、実はサイトの企画や設計時の問題であることも多い。Webサイト制作時の問題として、あまり制作時間がとれず、その為に設計期間が短くされてしまう、ということはありがちなことだ。しかし、アクセシブルなWebサイトの制作はもちろんのこと、全体的なWebサイトの完成度は、運用の面から考えても、早い段階でのしっかりとした検討が重要である、ということを今一度頭に入れて置いていただければと思う。

次回は前述した問題点に対する具体的な解決策を提案する予定だ。