サウスダコタ州ミッチェルにある米ウォルマートの店舗に,「爆弾を仕掛けた」との脅迫電話がかかった。ところが店舗のマネージャたちは,警察が爆弾を捜している間も避難しないことに決めた。避難によって失われる売り上げと得られるセキュリティを天秤にかけ,「売り上げを失ってまでセキュリティを確保する価値はない」と判断したのである。

 「2時間近くにおよんだ爆弾捜索中,警察は避難を勧めたが,店は混雑したままで,ウォルマート側は避難しない決断を下した。この件について,ウォルマートは『電話はいたずらで,脅迫ではない』と述べた」

 これはよい実例であると思う。ここから,人々はセキュリティのトレードオフを合理的に考えており,訳もなく恐れたりしない,ということが分かる。

 ただし,忘れてはならない。セキュリティのトレードオフは,何を優先するかという考えに基づいて決まる。ウォルマートのマネージャからみれば,店舗の売上高が最重要事項である。逆に,爆弾の脅迫がもたらすリスクの大部分は重視される項目ではない。つまり,“外部性(externality)”を備えている。

 もちろん店舗の従業員は,マネージャとは優先したい事柄が異なる。従業員は「避難しない」という判断を望んではいなかった。彼らにとっては,避難せず店を開けておいてもメリットはなく,反対にリスクを増やすというデメリットを生むだけだからだ。

 引用元の記事に,ある従業員のコメントがあった。「あれはクリスマス直前のことで,店はお客さんで溢れていました。私から見ると,マネージャは地域やお客さん,それに同僚を危険にさらし,公共の安全より金もうけを優先させたのです」。

http://argusleader.com/apps/pbcs.dll/article?AID=/...

Copyright (c) 2007 by Bruce Schneier.


◆オリジナル記事「Wal-Mart Stays Open During Bomb Scare」
「CRYPTO-GRAM January 15, 2007」
「CRYPTO-GRAM January 15, 2007」日本語訳ページ
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◆この記事は,Bruce Schneier氏の許可を得て,同氏が執筆および発行するフリーのニュース・レター「CRYPTO-GRAM」の記事を抜粋して日本語化したものです。
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◆Bruce Schneier氏は米Counterpane Internet Securityの創業者およびCTO(最高技術責任者)です。Counterpane Internet Securityはセキュリティ監視の専業ベンダーであり,国内ではインテックと提携し,監視サービス「EINS/MSS+」を提供しています。