総務省が今週にも改正する「MVNOに係る電気通信事業法及び電波法の適用に関するガイドライン」(MVNO事業化ガイドライン)。その内容が業界で物議を醸している。2006年12月に公表された改正案を注意深く読むと,その行間から「既存事業者に対する網開放の義務化に近い内容となっている」(業界関係者)ことが浮かび上がってくるからだ。その根拠はこうだ(図1)。

図1 ガイドラインの改正で門前払いを解消
図1 ガイドラインの改正で門前払いを解消
MVNOの参入形態は「卸電気通信役務」と「事業者間接続」の2種類がある。今回の改正により「事業者間接続」の要求に対して原則応じる必要が生じた。
[画像のクリックで拡大表示]

開放は義務ではないが…

 まず第一の根拠は,MVNOの参入形態として,従来から規定されていた「卸電気通信役務」に加え,新たに電気通信事業法上の「事業者間接続」による参入も可能と明言したことだ。卸電気通信役務とは,通信事業者が他事業者の通信事業のために設備などを提供するサービスのことで,携帯電話事業者が自社の無線設備をMVNOに貸し出せば卸電気通信役務となる。一方,事業者間接続は,携帯電話事業者とMVNOがPOI(相互接続点)を介して互いの網を接続することを指す。

 この二つに大差はないように見えるが,MVNOが携帯電話事業者に設備の貸し出しを申し入れる上では大きな違いがある。卸電気通信役務の場合は「相対契約」になるので,携帯電話事業者はMVNOの申し入れに不満なら契約を拒否できる。しかし,事業者間接続となれば電気通信事業法第32条の「接続原則」に基づき,携帯電話事業者はMVNOの接続要求に原則として応じなければならない。

 しかも携帯電話事業者と協議が進まない場合は総務省の介入もあり得る。具体的には,総務大臣による協議の開始命令やあっせん,電気通信紛争処理委員会による裁定や仲裁などだ。実際に紛争に持ち込まれるケースがどれだけあるかは未知数だが,「紛争に持ち込むことも辞さない」(日本通信の福田尚久・常務取締役CFO)とするMVNOもある。

 仮に紛争となった場合,携帯電話事業者は委員会に情報の開示を求められ,周波数の利用状況や設備の設置状況,収支の内訳など,公開したくない内情までも丸裸にされる可能性がある。携帯電話事業者にとって,総務省の介入だけは避けたいところだ。

逃げ道は閉ざされた

 もっとも,上記の接続原則は「NTT東西地域会社に課せられた設備の開放義務とは異なる。合理的な理由があれば拒否できる」(総務省)。ただ,ガイドラインの改正案に例示された拒否理由を見ると,「実質あり得ないような内容ばかりが列挙されている」(ある大手携帯電話事業者幹部)。

 例えば携帯電話事業者が「利益を不当に害する恐れがある」場合は接続を拒否できるが,「設備の保持が困難となるなど経営に著しい支障が生ずると認められる合理的な理由が存在する」必要がある。MVNOとの接続が,強固な経営基盤を持つNTTドコモやKDDIの業績に大きな影響を与えるとは考えにくい。

 周波数の不足も拒否の理由として認めているが,「接続形態を踏まえた上で具体的にどう不足するのかを証明してもらう」(総務省)と門前払いは認めない方針だ。「都市部などで周波数が局所的に不足することはあっても,全体で見れば十分足りているはず。単に基地局が不足しているだけの可能性が高く,基地局の展開が遅れていることを言い訳に拒否するのは難しいだろう」(日本通信の福田CFO)。

 そしてダメ押しとして,携帯電話事業者のエンドユーザーと,MVNOを同列に扱う旨の「電波法上の原則」を改めて明記した。これは,「周波数が不足してMVNOと接続できないのであれば,自社のエンドユーザーにサービスを提供するための周波数も足りないはず」とも解釈できる。「MVNOの接続を拒否しておきながら,自社エンドユーザーへの販売を継続しているのはおかしいのではないか」と指摘される可能性があるわけだ。