オフィス全体など広い範囲をカバーする無線LANを構築する場合,多数の無線LANアクセス・ポイント(AP)をくまなく設置することが多い。これに対して米ジーラス(Xirrus)は,一つのアクセス・ポイントでカバーできるエリアを増やすという逆転の発想でアレイ型無線LAN製品「XSシリーズ」を開発。構築コストを大幅に減らせるという。開発を取り仕切ったパトリック・パーカー最高開発責任者(写真1)に,アレイ型の強みを聞いた。(聞き手は高橋 秀和=日経コミュニケーション


写真1 米ジーラスのパトリック・パーカー最高開発責任者
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――アレイ型無線LAN製品の特徴は。

 一つのきょう体に複数の無線LANモジュールを組み込み,1台の無線LAN APでカバーできるエリアとスループットを増やした点が最大の特徴だ。今一般的になっている,無線LAN APを多数設置して無線LANスイッチで制御する手法に比べて,無線LAN AP自体のコストはもちろん,設置工事,有線LANの敷設,および給電のためのケーブル配線の手間やコストを大幅に減らせるはずだ。

 無線LANを展開したいエリアが広大なほどコスト削減効果は上がる。見通しの良い大きな空間イベント会場や倉庫などで最大限に威力を発揮する。例えばInterop New York 2006では会場内のネットワークにXSシリーズが採用されたが,従来は会場全体をカバーするのに75台必要だった無線LAN APを7台にまで減らすことができた。削減できた構築費用も75%に達した。

――実現の方法は。

 円形のきょう体の中に,最大16個の無線LANモジュールを放射状に配置してある(写真2)。面状のアンテナが360度あらゆる向きに並んでいる構造だ。それぞれのアンテナは,周囲に電波の反射板を配置し指向性を持たせることで,到達距離を伸ばしている。また一つの無線LANモジュールのカバー範囲を別の無線LANモジュールの カバー範囲と半分ほど重ねることで,無線LANモジュール故障時の冗長性も確保している。


写真2 ジーラスの無線LAN AP製品「XSシリーズ」
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 搭載する無線LANモジュールの内訳は, IEEE 802.11a/b/gのモジュールが4,IEEE 802.11aのモジュールが12だ。日本では802.11aのチャネル数が8に制限されているため,16チャネルを利用可能な最上位版を除いた2機種,8チャネル仕様のXS-3700と4チャネル仕様のXS-3500を出荷する。

 構造はユニークだが,利用した技術は標準的なものだ。IEEE 802.11の各仕様に沿っているので,クライアントは一般的な無線LANカードをそのまま使える。無線LAN APとそれを制御する無線LANスイッチによるシステムとの価格競争力を維持できなければ意味がない。日本の代理店である理経では,XS-3700を約 90万円,XS-3500を約50万円で販売すると聞いている。

 ただし性能を上げるために部品にはこだわった。チップとアンテナ,およびそれらを制御するソフトウエアは自社で開発したものだ。製品の肝となるアンテナ周りは,25人のエンジニアが2年間かけて開発した。また,安定した電波を放射できるように,一般的なガラス・エポキシの基板ではなくセラミックの多層基板を採用している。

――設置する場所は一般的な無線LAN APと変わらないのか。

 アンテナの指向性をきょう体下部に向けているため,なるべくフロアの天井に設置するのが望ましい。目立たないようにするために机やテーブルの下に設置した事例はあるが,推奨はしていない。ホテルの宴会場など天井への設置が難しい場合は,最大4mまで伸びるスタンド「トライポッド」をオプションとして用意している。

 我々は現在,日本のユーザーに売り込みをかけている真っ最中だが,大抵の場合トライポッドをかついでデモ環境を構築する。XSシリーズとトライポッドの組み合わせは,展示会などのイベント会場で大面積エリアを一時的に無線LANでカバーするような用途で特に威力を発揮する。

――搭載モジュールはIEEE 802.11a/b/gに対応しているが,IEEE 802.11nのドラフト仕様が固まった。対応の予定は。

 無線LANモジュールの交換でアップグレード可能だ。XSシリーズの内部はモジュール化されており,四角いマザーボードを半月状の無線LANモジュールが囲んだような形状をしている。802.11n用の拡張モジュールは2007年第4四半期に出荷予定だ。