レイムダック化(弱体化)したシステムの甦生に関わる人々として,前回からシステム・インテグレータ(以下,ベンダー)を取り上げている。

 前回は実例を示しながら,IT導入をユーザーがベンダーに丸投げした場合,その未熟なユーザーだけでなく,丸投げを無批判に受け入れたベンダー自身もそれ以上に責めを負うべきであると指摘した。何故なら,未熟なユーザーを啓蒙するのもベンダーの仕事だからである。ベンダーのシステム責任については,多くの調査結果や実務者から寄せられた意見にも不満が示されている。システムを「納品しておしまい」では,ベンダーは責任を果たしたことにならない。

 さて,ベンダーがシステムに対する責任を果たし,誰も見向きしなくなったシステムを甦生させるにはどのように関与すべきか。まず,システムが見捨てられた原因を考えることから始めよう。

 各種調査にあるベンダーに対するユーザーの不満が,結果的にシステムをダメにする原因を示している。前回も触れたが,例えば,社団法人日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の「ユーザー企業IT動向調査2006」によると,ベンダーへのユーザー不満の中でダメシステムに繋がる要素は,「企画力不足(61%)」「対応できると約束したことができない(32%)」「ユーザーからの指示への対応以上の仕事をしていない(25%)」となる。

 このほか,日経コンピュータ2005年8月8日が「第10回顧客満足度調査」でまとめた「こんなベンダーは嫌われる」には,ダメシステムを生む現実的な要素が列挙されている。「業務知識をいっこうに理解しない」「売った後はなしのつぶて」「顧客の無知につけ込んで売りつける」「言われたことしかしない」などだ。

顧客の実情無視した売りつけが問題の根源に

 これを地で行く実例がある。中堅の情報システム・メーカーであるC社は,ITに造詣の深いトップの主導でD社のERP(統合業務パッケージ)ソフトを導入した。

 最初のD社の説明では,パッケージ・ソフトのカスタマイズやアドオンにもかなり応じてくれるはずだった。しかし,いざ詳細な打ち合わせに入ると,次々出るC社の要求に対して,D社は「それではパッケージでなく,システムを最初から構築した方が良い」とカスタマイズに消極的な態度を取るようになった。

 一方,C社トップは,D社のアドバイスを受けて「そもそも,わが社の業務が旧態依然としていることが問題なのだ。D社のERPに合わせて業務改革しろ」と言って譲らなかった。トップやD社に急かされて,C社は業務改革にしろパッケージの適用にしろ急場しのぎでやっつけた。この結果,稼働を始めたシステムはレイムダック化した。しかし,トップがERP導入に深く関わっているため,C社の関係者はシステムを使っているふりをしなければならない。実務は既存のローカル・システムでしのぐことになり,担当者の手間は増えるばかりだった。

 ERPの納品後,D社からの音沙汰は全くなかった。そして,システムを導入して10カ月ほどが経過したころ,C社トップは社内の実態に気づき激怒し,システム甦生のための大プロジェクトを発足させ,さらに,売りっ放しの不誠実な姿勢についてD社トップに噛み付いた。D社はプロジェクトにSEを2名派遣し,コンサルティングにも応じる体制をとった。D社のSEやコンサルティングの費用については,C社は無償,D社は有償を主張し,結局,両者痛み分けで落ち着いたようだ。

 ここでは,なまじITに造詣が深いC社トップの判断ミスがまず指弾されるべきだろう。しかし,顧客の実情を無視してシステムを売りつけてそれでよしとするD社が,問題の根源と言えるだろう。

ベンダーにも求められるシステムのライフサイクル管理

 さて,今まで紹介してきたいくつかの調査結果や実例から,レイムダック化したシステムの甦生にベンダーがどのように関わるべきかがわかってくる。

 それには,「実務的な関わり方」と「根本的な関わり方」とがある。

 実務的な関わり方では,まずシステムがレイムダック化して誰にも相手にされていないという深刻な事態を,ベンダー/ユーザーを問わず,トップをはじめとする関係者に知らしめなければならない。そして,ベンダーはユーザーとの間でコミュニケーションを復活させなければならない。ただし,従来のコミュニケーションに欠陥があったからシステムが失敗したのであり,そのことを十分認識した上で,その復活に当たらなければ失敗を繰り返すだけである。

 最も大事なことは,関係者全員が何が何でもシステムを甦らせて,有効稼働させるのだという信念と合意を持つことである。そして,システムの有効稼働に失敗したということから,既成の体制を否定してかからなければならない。基本的には,プロジェクトのリーダーもメンバーも入れ替える。さらに,システムの内容検討に入ったときは,仕様を再検討して当初の一部機能を削除したり,不可欠な機能を最優先したりという英断が求められる。

 一方,これらのことにベンダー主導であたるには,それなりの根拠を必要とする。今まで指摘してきたように,ベンダーがシステムを売りっ放しで,「それでおしまい」というところに諸悪の根源がある。従って,ベンダーがシステムの有効稼働まで責任を持つという考えを導入すればよい。それが,ベンダーのシステム甦生への根本的な関わり方になる。

 この根本的な関わり方は,既に4年前の時点で提唱されている。2003年2月10日「日経コンピュータ」の「システムのライフサイクルを考えよ」という記事である。そこでは「構築フェーズだけではなく,運用,利用促進,効果測定,再構築に至るシステムの “生涯” をとらえ,システムの利用価値や資産価値の増大を図ろう」という“ライフサイクル管理”の取り組みを紹介している。日経コンピュータでは,これをユーザー本来の仕事としているが,筆者はそれをベンダーにも求める。

 ベンダーは売りっ放しの「それでおしまい」ではなく,ユーザー企業と中長期にわたる戦略的パートナーとしてお付き合いする考えと体制をとらなければならない。結果として,当初の見積もりには「システム構築」から「運用」「有効稼働」までの費用が含まれることになる。当然ながら「システム構築」だけより高くなるが,ユーザーに対してはその方が長い眼で見て安上がりになるという説得が必要になる。

 そうすることで,ベンダーはシステム構築の最初から,有効稼働に対する責任をより一層強く意識するようになる。かくして,ベンダーはレイムダック化したシステムから逃げることができなくなるわけだ。


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■増岡 直二郎 (ますおか なおじろう)

【略歴】
小樽商科大学卒業後,日立製作所・八木アンテナなどの幹部を歴任。事業企画から製造,情報システム,営業など幅広く経験。現在は,nao IT研究所代表として経営指導・執筆・大学非常勤講師・講演などで活躍中。

【主な著書】
『IT導入は企業を危うくする』,『迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件』(いずれも洋泉社)

【連絡先】
nao-it@keh.biglobe.ne.jp