米国「Windows IT Pro Magazine」の名物ライターであるPaul Thurrott氏が振り返る「Windows Vista開発史」の第4回。今回は,Windows Vistaという製品名が公表され,初めての公開評価版である「ベータ1」がリリースされた2005年前半を振り返る。Paul Thurrott氏が失望した「WinHEC 2005」が開催された時期だ。

 2004年の終わり,ベータ版のテスターと熱心な技術オタクたちは,Microsoftに対して堪忍袋の緒を切らし始めてきた。Microsoftは,一般向けのLonghornプレ・リリース・ビルドを2004年4月以降リリースしていなかったし,リリースされる様子もなかった。また,MicrosoftはLonghornのリリースを2006年まで延期することを発表したかと思えば,Windows XPやWindows Server 2003にバックポートする予定のLonghornの機能に関するガイダンスを提供したりと,様々な疑問が持たれていた。

 幸いにも2005年になると,Longhornに転換期が見え始めた。ついにLonghornに「Windows Vista」という名前が付けられ,Microsoftはベータ1と暫定ビルドを続けざまにリリースし,テスターはやっと最終版のVistaを吟味できるようになったのだ。

 2005年1月,筆者は「The Road to Windows “Longhorn” 2005」と題する記事を公開した。この記事の目的は,世に出回っているLonghornに関する雑多な情報を整理し,実際になにが起こっているのかを理路整然と説明することだった。ここで筆者は,Microsoftの内部資料に基づくLonghornの長期的なスケジュールを示した。当時,Longhornベータ1は2005年1月の下旬に,ベータ2は2005年後半または2006年初頭にリリースされ,RTM(Release to Manufacturing,製造工程向けリリース)は2006年中頃になる予定だった。

 筆者はまた,Microsoftが次世代のオペレーティング・システムに関する情報を段階的に開示する予定であることも明らかにし,「Microsoftは『ローリングサンダー』と呼ばれる情報開示方法を最大限に活用し,Longhornのリリースを徐々に盛り上げていくだろう」ということを記した。

 当時,ベータ1のリリースは2005年6月30日の予定だった。Microsoftはそのときに「Longhornの特徴」と,対象とする業界や開発者を明らかすることになっていた。筆者の情報源は,Microsoftがベータ2でユーザーの支持を獲得しようとしていることを話してくれた。

 前述の記事では,Microsoftが想定するLonghorn製品エディションを網羅し,それらの製品の今後を予測し,Aero Glass(現在のWindows Aero),Aero Express(現在のAero Basic),Least Privileged User Account(現在のユーザー・アカウント制御,UAC),後に製品の機能から外されたCastlesと呼ばれるドメインのようなネットワーキング機能など,Longhornの様々な機能を紹介した。Jim Allcin氏は当時Castlesについて,「これは(もしユーザーがそうしたいなら)家のマシン間でIDを複製する,という発想に基づくものだ。この機能を家のドメインと考えよう。このシナリオでは,インターネットでユーザー同士が写真やデータを簡単に共有できるソリューションを見つけ出そうとしている。われわれのゴールは,標準のWindowsセキュリティIDを使ってこれを実現することだ」と述べていた。

2005年1月:2006年5月の製品完成を目指す

 Microsoftの社内では,Longhornをスケジュール通りに進めるのに苦労していた。1月13日,わたしは次のようなスケジュールが記された内部資料を入手した。

 Longhorn ベータ1コード完成:2005年3月16日
 Longhorn ベータ1社内リリース:2005年4月
 Longhorn ベータ2(および製品)コード完成:2005年7月1日
 Longhorn ベータ2社内リリース:2005年第3四半期
 Longhorn RC0社内リリース:2005年第4四半期
 Longhorn RC1社内リリース:2006年3月
 Longhorn RTM社内リリース:2006年5月

 Microsoft社内では「(2006年)5月というのは本気か?もしくは,8月に向けて計画すべきか?」という問い合わせに対して,「8月に間に合わせるために5月を目標にするか,またはリリースするための最終期限が本当に5月なのかどうか,という議論はこれまでに散々尽くされてきた。クライアント製品の目標は2006年5月で,それ以上議論の余地はない。これは,あなたのチームがその期日に合わせたスケジュールを作成しなければならない,という意味であり,あなたはスケジュール通りに進行させることに対する責任がある」という返事が送られていた。

 マイルストーンでさえも議論の的となった。また別の社内メールでは「ベータは2つではなく,1つにしてはどうだろうか」という投げかけに対し,「ベータを1つにするか2つにするかという議論があったが,間違いなくベータは2つだ」という返事が送られていた。

Small BusinesとUltimateエディションを非難する声

 Microsoftは製品の特徴づけとも格闘していた。MicrosoftはWindows Vistaの異なる製品エディションを多数リリースしようと計画していたため,Microsoftの内部にはユーザーの混乱を心配する声もあった。プロジェクトの状況を記す電子メールでは,多くの人が(後に削除された)Small Businessと「Uber(現在のWindows Vista Ultimate)」エディションの追加を非難していた。

 問題は,Microsoftが機能の削除と製品エディションの追加を同時に行っていることだと,多くの人が考えていた。どうしてこんなことが正当化できるだろうか。そのうち,ある機能は製品のx64バージョンでのみ採用されるべきだ,という議論も起こった。事態は混沌としていた。

2005年1月下旬:UACのスクリーンショットが流出

 2005年1月下旬,思いもよらず入手したMicrosoftの内部資料によって,わたしのサイトでは,少なくともその後2カ月間にわたり明るい話題が続いた。このDVDには,これまで誰にも知らされてこなかったUACの最初のスクリーンショット(写真1),UIウィジェット・ロック機能(これは後にUACベースのアイコンに代わられたため不採用となった),これも後に不採用になった「reliability UI」など,価値の高い情報が収められていた。そこにはLonghornの新しいフラグ・ロゴの初期バージョンもあった。

写真1●2005年1月に流出したUACの最初のスクリーンショット

 2005年2月,Microsoftがコードネーム「Aurora」というデスクトップ・アニメーション機能をLonghornに追加することを検討している,というニュースが出回り始めた(写真2)。Auroraではいろいろな色を利用できるようになると言われていて,後に多くの人がその機能を(製品化されることはなかった)Aeroのベクトル・ベースUIの機能の一部であると間違えるようになった。Auroraは「Windows Ultimate」の「Ultimate Extras」という追加サービスに盛り込まれることになっている。

写真2●「Aurora」のスクリーンショット
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2005年2月:IE 7の開発とWindows XPへの提供を公表

 2005年2月15日,MicrosoftのCEOであるBill Gatesは,Longhornのもう1つの機能であるInternet Explorer 7を発表し,Windows XPとWindows Server 2003にもバックポートされる予定であるとした。彼は「われわれはInternet Explorerの新バージョンのリリースを決定し,そこに採用される新しい機能は(Windows Vista)以前のバージョンでも利用できるようにすることを決定した。これはもう1つの重要な前進となるだろう」と述べた。数日後,筆者は次のような最初のIE 7ユーザー・インターフェースのダミーを見た(写真3)。

写真3●IE 7の画面のダミー
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 2005年4月,Windows Hardware Engineering Conference(WinHEC)の数日前,MicrosoftはついにLonghornについて再び語り始めた。MicrosoftはWinHECに合わせ,その年初めてとなるLonghornの外部向けビルドのリリースを準備していた。

 「われわれはWinHECでLonghornのビルドを提供し,開発者が画像ドライバを開発できるようにする」とMicrosoftの役員であるJim Allchin氏は述べた。「これはプレビューと呼ばれるもので,ベータではない。しかし,最初のプレビューとは劇的に異なる。今日見せるユーザー・インターフェースに新しいところは何もないが,見てもらいたいものはある。多くの人が新しい技術を使って,早く開発を始めようとしている。新しい技術はそういった開発者のために提供されている。PDC 2005の後,われわれはベータを作り,出荷期日を決定する。2006年のホリデー・シーズンまでには出荷できるスケジュールで進めているので,製品はそれ以前に完成させる予定だ」

 Allchin氏は,LonghornにおけるMicrosoftのゴールは次の5点に要約できる,と述べた。

 1:動くこと
 2:安全でセキュアなこと
 3:展開と管理が簡単なこと
 4:クライアント・エクスペリエンス-企業,ホーム,外出先におけるもの
 5:向こう10年間のOSプラットフォーム

 また,Allchin氏は初めて,実際に動いているPCでAeroを披露した。それはまだ開発初期の未完成なバージョンだったが,現在は当たり前になっているWindows Vistaのアニメーションとエフェクトが数多く紹介された。残念なことに,それらは次に入手できるビルドには含まれておらず,4月下旬に開かれる話題騒然のWinHECで登場する予定となっていた。

2005年4月:興奮と失望のWinHEC 2005