この情報化時代において,監視活動は警察だけのものではない。企業のマーケティング担当者も,消費者が何をしているのか,どこへ行くのか,何を買うのかなど,人々の行動を見張りたいのだ。米インテグレーティッド・メディア・メジャーメント(IMMI)という企業は,「消費者が常にどんなテレビ/ラジオ番組を見聞きしているか知りたい」と考えている。

 IMMIは従来の視聴率/聴取率調査と正反対の方法で,この目的を達成している。米ACニールセンの視聴率計測システムは,テレビを見ている人物を特定するために,テレビを1台1台監視する。これに対しIMMIは,調査対象者の行動を監視し,そこから視聴した番組を知ろうとしているのだ。行動の監視は,周囲の音を盗聴する機能を備えた特別仕様の携帯電話機を使って,部屋の中の様子を調べることで行う。

 IMMIの携帯電話機は,30秒ごとに10秒間ずつ,手当たり次第に室内の音を拾う。拾った音声データはディジタル・シグニチャ(署名)の形に変換され,IMMIのサーバーにアップロードされる。

 IMMIは,様々な地域で放送されているローカル番組もすべて監視。これらのテレビ/ラジオ番組の音からシグニチャを作成し,アップロードされた音のシグニチャと比較して番組を特定する。さらにIMMIは,顧客から受け取ったコマーシャル,プロモーション・フィルム,映画,音楽などのコンテンツも調査対象にする。

 シグニチャが一致するかどうかを調べることで,IMMIは番組と監視対象者を結びつける。この処理は,わずか数秒で済む。

 調査対象者は,衛星ラジオやデジタル・ビデオ・レコーダ(DVR),ビデオ・レコーダ(VCR),「TiVo」などのパーソナル・ビデオ・レコーダ(PVR)などを利用し,放送後に番組を視聴/聴取することがある。こうした状況に対応するため,IMMIは遡及(そきゅう)調査機能を用意した。この機能により,調査対象者が放送後に番組を視聴/聴取した場合でも,約2週間前までさかのぼって特定できる。

 IMMIは,調査対象者にこの携帯電話機を無料で配っている。調査対象者は,自分のプライバシーをすべて犠牲にするのと引き替えに無料サービスを受ける。

 IMMIは,「この調査技術を使っても,室内の会話や携帯電話の通話は盗聴できない」と主張している。しかし,IMMIが携帯電話機を改造したことは,携帯電話機をほかの方法でも改造できることを意味している。一般販売されている携帯電話機に他の盗聴ソフトが仕込まれる可能性はないのだろうか?こうした行為は,密かに,または持ち主の合意を得ずに行えるのだろうか?乱用される危険性は極めて大きい。IMMIがやらなくとも,ほかの誰かがやるかもしれない。

 今の情報化時代,プライバシーの脅威は政府だけでなく民間企業からももたらされることを覚えておいた方がよい。本当の脅威は,政府と民間企業が連携したときに生まれる。

http://www.immi.com/
http://www.immi.com/dataClctn.html
http://www.immi.com/privacy.html

Copyright (c) 2007 by Bruce Schneier.


◆オリジナル記事「Auditory Eavesdropping」
「CRYPTO-GRAM January 15, 2007」
「CRYPTO-GRAM January 15, 2007」日本語訳ページ
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◆この記事は,Bruce Schneier氏の許可を得て,同氏が執筆および発行するフリーのニュース・レター「CRYPTO-GRAM」の記事を抜粋して日本語化したものです。
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◆Bruce Schneier氏は米Counterpane Internet Securityの創業者およびCTO(最高技術責任者)です。Counterpane Internet Securityはセキュリティ監視の専業ベンダーであり,国内ではインテックと提携し,監視サービス「EINS/MSS+」を提供しています。