米国「Windows IT Pro Magazine」の名物ライターであるPaul Thurrott氏が振り返る「Windows Vista開発史」の第2回。今回は,Windows Vistaの歴史の中でも最も華やかだった2003年を振り返る。多くの開発者がLonghornの未来像に熱狂した「PDC 2003」が開催された年である。

 実は2003年の時点で,Windows Vista(当時の開発コード名はLonghorn)の開発は一度延期されていた。そして多くの人々が,このOSが近いうちに登場することはないと気づき始めていた。しかし2003年全体で見ると,楽観的な雰囲気が支配的だった。Microsoftは次期Windowsの開発に全力で取り組んでいたし,同社が進んでいる方向は間違っていないように見えたからだ。

 Microsoftは2003年1月に,セキュリティ企業が自社の製品をこれまでよりも簡単にWindowsと統合できるようにするために,低レベルのアンチウイルス(AV)APIをLonghornに追加すると発表した(これは実現しなかった)。それから1カ月後,筆者は次世代のシェル&スクリプティング環境である「Monad」について,初めて説明を受けた。結局MonadもWindows Vistaには搭載されないことになったが,その後「Windows Power Shell」としてリリースされることになったMonadに,筆者は大きな感銘を受けたものだ。ちなみにWindows Power Shellは,「Exchange Server 2007」の出荷に合わせて,2006年11月にリリースされている。

 2003年3月,Longhornの「ビルド4008」がインターネットに流出した(写真1)。このビルドは,前のアルファ版ビルドとあまり変わらないものだった。しかし,製品版のWindows Vistaに搭載されたシンプルな新しいセットアップ・プログラム(写真2)が初めて搭載されたのは,このビルドだった。

写真1●Longhornのビルド4008の画面
[画像のクリックで拡大表示]

写真2●Longhornビルド4008のセットアップ画面
[画像のクリックで拡大表示]

 後のWindows Vistaの機能を先取りしていたものとしては,シンプルな検索ウインドウやExplorerのDetails(詳細)ペイン(写真3),単純なダイアログ以上のものであるコントロール・パネルのプロパティ画面などが挙げられる。Microsoftは継続して,サイドバーの改善にも努めていた。だがこの努力は無駄に終わる。同社は後に,このプロジェクトを中止してしまったからだ。

写真3●Longhornのビルド4008で初めて,Explorerでファイルの詳細が確認できるようになった
[画像のクリックで拡大表示]

「WinFS」を宣伝し始めるMicrosoft,その一方で開発に暗雲も

 同じ2003年3月,Microsoftは再び「WinFS」のことを宣伝し始めた。WinFSもまた,結局は挫折してしまったWindows Vistaのテクノロジの1つである。「私たちは,Windowsのシェルを一から作り直さなければならないだろう。新しいデータ・ストアを利用するためには,Microsoft Office,とりわけOutlookを一から作り直す必要があるだろう」とMicrosoftのCEOであるSteve Ballmer氏は語った。「今必死でそれに取り組んでいる。非常に大変な作業だ」(Ballmer氏)。

 確かに大変な作業であったようだ。まだ初期段階だというのに,LonghornはMicrosoftを打ち負かしつつあったのだ。そして同社は,Longhornの登場は大幅に遅れて,次のバージョンのWindows Serverと同時に出荷されるということを示唆し始めていた。MicrosoftのWindows部門副社長であるBrian Valentineは当時,「もしかしたら,『Longhorn Server』のようなものや,Windows 2003をベースにした新しいサーバー製品が登場するかもしれない。これはデスクトップ版のLonghornに最も適したサーバーになるだろう」と語っていた。「公平に言って,事態はまだ流動的だ」(Valentine氏)。

2003年4月,Mac OS Xよりも先進的だったLonghorn

 4月になると,新しいLonghornのアルファ版が届けられた。このバージョン(ビルド4015)は,起動画面の進度を表すバーという,Windows Vista RC2まで継続して使われた画面が初めて登場したことで知られている(ただし,ビルド4015のものは緑色ではなくて青色だった)。

 このビルドには,新しいログオン画面(ようこそ画面)(写真4),新しいシステム通知バルーン,そして価値のないバージョンのWinFS(最終的にはすべて削除された)が含まれていた。ダウンロード・マネージャというシェル・ロケーションの存在は,Windows Vista(とIE 7)にFirefoxのような本物のダウンロード・マネージャが搭載される可能性を示唆していた。だがこの機能も,最終的にはWindows VistaとIE 7の両方から削除された。

写真4●Longhornビルド4015の新しいログオン画面
[画像のクリックで拡大表示]

 ビルド4015に関する一番の吉報は,仮想フォルダ(当時はLibrariesと呼ばれていた)が初めて登場したことだった。これらのフォルダはユーザーのハードディスクの至る所にあるコンテンツを収集する。そしてユーザーはこれらのコンテンツのビューにフィルタをかけたり,ビューをフォルダとして保存したりできるのだ(偶然にも米Appleはこの2年以上後に,この機能の縮小版を「Spotlight」としてリリースした)。

 悲しいことに,Microsoftが仮想フォルダに対して抱いていた壮大なビジョンは実現には至らなかった。同社は当初,すべての特殊シェル・フォルダ(「マイドキュメント」や「マイピクチャ」など)を仮想フォルダに差し替える予定だったのだ。だがユーザーの不満があまりにも大きかったため,同社はこれを取りやめにした。仮想フォルダは今でもWindows Vistaに含まれているが,ものの見事に隠されているため,ほとんどのユーザーは仮想フォルダを使うことはないだろう(言い換えると,Spotlightとほぼ全く同じ機能になってしまっているのだ。皮肉な立場の逆転である)。

2003年5月,Longhornの大宣伝が始まる