本連載の締めくくりとして、今回は作成したビジネスモデルをどのように活用するかについて解説する。モデルを共有する際の注意点や、モデルを改善する際に行うべきことを紹介するとともに、ビジネスモデリングの発展形として、「全社モデリング」「ビジネスプロセス・マネジメント」「リアルタイムの改善の実現」について考える。

大川 敏彦
ウルシステムズ シニアマネジャー(現 ウィズクライン代表取締役)

 前回説明したような流れでビジネスプロセス・モデルを完成させたとします。これにより、ビジネスプロセス・モデリングの一つめの目的である“ビジネスプロセスの見える化”が終了しました。では、2つめの目的である“ビジネスプロセスの共有”のほうはどうでしょうか。

 “ビジネスプロセスの共有”について、まず考えておきたいのは、「誰と共有するか」ということです。ここでは、ビジネス(プロセス)にかかわる利害関係者を、(1)経営者、(2)業務担当者、(3)IT担当者の3つに分けて議論したいと思います。

 まず、経営者について考えましょう。経営者は顧客に対して、対価に見合った品質の商品、サービスを提供する必要があります。その結果、(株式会社を想定してよいと思いますので)株主に対して、一定の営業成績を残して利益を還元する責任があります。言い換えると、最終成果物に対する最終的な責任者、あるいはそれを実現するビジネスプロセスの最終的な責任者と言えます。

 次は業務担当者です。業務担当者は、それぞれの責務と権限の範囲で、ビジネスプロセスを実行する実行者です。

 最後はIT担当者です。実は、「IT担当者」と呼ぶのは語弊があるかもしれません。というのも、ビジネスプロセスを設計し、ビジネスプロセスを支援する仕組み(情報システムを含む)を構築し、遂行状況をモニタリングし、もし不具合があったら改修する、といった、「IT」という言葉の範囲に収まらない役割を担うからです。言い換えると、ビジネスプロセス実行支援者になります。

 このように、ビジネスプロセスの利害関係者を、責任者、実行者、支援者というわけ方で整理してみました(図15)。これらの利害関係者は、ビジネスプロセスを見る場合に、それぞれ違った関心があります。

図15●「ビジネスの見える化」プロジェクトの利害関係者
図15●「ビジネスの見える化」プロジェクトの利害関係者

立場によって異なるビジネスプロセスへの関心事

 例えば経営者は、売上やコストに直結した視点でビジネスプロセスを見ています。企業の競争力の源が商品やサービスの素早い提供にある場合、ビジネスプロセスの実行リードタイムに興味があるかもしれませんし、商品品質だと考えていれば、品質確保の仕組みに興味があるかもしれません。極端な話、ビジネスプロセスには関心がなく、結果だけに興味を持っている、という場合も考えられます(興味がないビジネスプロセスを共有することはなかなか難しいかもしれませんね)。

 また、高い利益体質を実現するためには、プロセスコスト(業務プロセスを実行するのに必要な人件費や設備費などのコスト)にフォーカスして議論する必要があります。さらに言えば、経営者が事業ごと、商品ごとの収益性に関心がある場合は、それぞれのプロセスコストに着目して分析する必要があります。

 次に、業務担当者はどうでしょう。業務担当者は、自分自身の評価指標が明確になっていれば、まずそのことに興味があるはずです。例えば、製造の担当者や事務処理の担当者は、自分自身の作業の生産性が評価される場合、プロセスを流れるモノのフローに興味があるでしょう。

 また、日ごろから慢性的に仕事が忙しく、他者に比べて自分に仕事が集中していると感じている場合は、業務負荷や担当者の役割などに興味があるかもしれません。あるいは、自分がいないと業務が進まないと感じている場合などは、担当者の業務知識などに興味を持つかもしれないのです。

 一方、IT技術者は、どんなシステムが利用されているのか、データの流れはどうなっているのか、システムの負荷はどうか、といったことが気になるかもしれません。

 このように、同じビジネスプロセス・モデルでも、利害関係者によって注目するポイントは異なります。ビジネスプロセス・モデルを共有する場合、それぞれの利害関係者の関心事に合わせたモデルの作成や説明が必要になります。

 このことは、モデリングの目的やスコープ、構造の議論と深く関係してきます。目的が誰の視点で立てられているかによって、スコープも構造も変わってくるからです。

 例えば、モデリングの目的が、経営者の視点からサービスの提供リードタイムの短縮にある場合、スコープはリードタイムを計るのに必要十分な業務が対象になりますし、属性として業務の実行時間、準備時間、情報の伝達など、リードタイムを計るのに必要十分なものを用いるわけです。

ビジネスプロセスを評価・分析/改善してモデルを改修

 さて、ビジネスプロセスを作成し、利害関係者と共有したら、その後はどのようなことを行うのでしょうか。作成したモデルを改修する必要がない場合は、そのまま第2回で説明した様々な用途で利用されます。一方、モデルを改修する必要がある場合は、以下のようなプロセスになります。

 まず、(1)「ビジネスプロセスの評価・分析」を行います。モデルの評価は、定量評価と定性評価に分けることができます。定量評価では、先ほども触れたように、作成したモデルのリードタイムやプロセスコストなどを評価します。定性評価では、ビジネスプロセスに含まれる業務が付加価値を生んでいるか、データの二重入力がないか、冗長な稟議や承認プロセスになっていないか、といったことを調べます。

 次に、(2)「ビジネスプロセスの改善」を行います。ここでは、(1)の評価・分析結果をもとに、不必要な業務を削除する、処理の自動化をする、処理手順を変える、といった改善を行います。その結果を実業務に展開し、実践していきます。

 筆者は、ビジネスプロセスの「作成」「評価・分析」「改善」という一連のプロセスを「ビジネスプロセス・エンジニアリング(BPE)」と呼んでいます。見方を変えると、本連載のテーマであるビジネスプロセス・モデリングは、このビジネスプロセス・エンジニアリングの一部になるわけです。