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公衆無線LANサービスの基地局の設置・運用・管理や,無線LAN市場拡大のための新サービスなどを開発するNTTブロードバンドプラットフォーム(NTTBP)。NTT東日本,NTT西日本,NTTコミュニケーションズ,NTTドコモのグループ各社が手掛ける公衆無線LAN事業のために共用型の基地局を運用する同社に,公衆無線LAN事業の現状と将来展望について聞いた。(聞き手は大谷 晃司=日経コミュニケーション

――公衆無線LAN事業の現状は。

 公衆無線LANの利用頻度は確実に増えている。2006年1月から12月のAPへのアクセス数を調べると8倍も増えている。その期間のAPの台数は,2.5倍しか増えていないにもかかわらずだ。カフェなどでのAPの利用回数も1年前に比べたら大幅に増えた。公衆無線LANサービスが定着したきたと言えるだろう。

 しかも,無線LANを内蔵する機器は着実に増えている。出荷されたノート・パソコンの約95%は無線LAN機能を搭載しているという統計もある。さらにノート・パソコン以外にも無線LAN機能を搭載する機器が続々登場している。

 NTTBPが以前,自ら公衆無線LANサービス「無線LAN倶楽部」を展開していたころは(2005年にサービス終了。NTTグループ各社の公衆無線LANサービスがユーザーを引き継いでいる),ノート・パソコンとPDA程度の接続しか想定していなかった。だが,今はゲーム機にも無線LAN機能が入っているし,携帯電話と無線LANのデュアル端末も登場している。最近,米アップルが無線LANを搭載した携帯電話機「iPhone」を発表したが,これは,今後こうした携帯端末には無線LAN機能が不可欠であることを決定付けたと思っている。現状ではまだノート・パソコンやPDA以外からの公衆無線LANサービスの利用は少ないようだが,今後は他の端末からの利用が増え,市場は拡大するはずだ。

――NTTグループの公衆無線LANの基地局数やエリア展開は。

 2006年12月末で3800台のアクセス・ポイント(AP)をNTTBPの資産として運用している。これを3月末には6000台にする。これから3カ月で2000台ものAPを設置することになるため,現在必死になって最後の工事をしているところだ。1カ所のエリア当たり平均で2台のAPを設置しているため,公衆無線LANが使えるエリアは約3000カ所の計算だ。

 また,NTTドコモが東京地下鉄(東京メトロ)の各駅にNTTグループ共用のAPを設置している。これが約800台ある。これを含めれば,3月末にはNTTグループの公衆無線LANサービスが使えるAPは合計で7000台近くになる。

 現在,NTTBPでは無線LANエリアの多様化を進めている。当初は駅やカフェといったスポット(点)展開が主だったが,2006年には走行するつくばエクスプレスの車内でも無線LANでインターネットに接続できるようにするなど(関連記事),“線”展開も進めている。現在,他の鉄道会社からも「無線LANを導入できないか」といった相談を受けている。

 面への広がりも進めている。面と言っても,東京23区内全域といった展開ではない。例えば駅前広場や駅前商店街など駅を中心とした特定のゾーンで無線LANを使えるようにするといった展開だ。既に事例もある。三井不動産レジデンシャルが手がける大規模マンション「芝浦アイランド」では,敷地の50%に当たる公園や会議室などの共用スペースで無線LANを使えるようした。居住者向けに提供するのはもちろん,例えば敷地内を巡回するガードマンの連絡用インフラとして利用したり,来訪者用の公衆無線LANエリアとして使うことなども想定している。

――携帯電話もデータ通信の高速化が進んでいる。またWiMAXなどの技術も今後登場しそうだ。これらと無線LANはどう使い分けられるのか。

 公衆無線LAN事業と携帯電話事業は相互に補完するものだ。確かに,携帯電話のデータ通信は今よりもさらに高速になり,無線LANとそん色ないレベルになるだろう。とはいえ,サービスや端末は多様化しており,一つのユニークな通信手段だけですべての要求を満たそうとすると,ネットワークは過剰投資になり,顧客にとって高価なものになりかねない。

 例えば電話の音声通話とデータのダウンロードでは,要求される速度やQoS(quality of service),セキュリティのレベルは異なる。電話は低速でもいいが,通信品質やセキュリティは要求される。一方,データのダウンロードの場合,高速な速度でどんどん送られてくれば通信品質やセキュリティはあまり気にしなくいてもいい。無線LANや携帯電話の技術が相互に補完し合って,ユーザーは意識せずに一番最適なシステムに接続し,さまざまなサービスを受けられるようになるのが理想だろう。