世界でいち早くNGN構築に着手した英BT。同社のNGNである「21世紀ネットワーク」(21CN)は,2006年11月には南ウェールズ州ウィックの集落の回線を21CNに移行するなど着々と計画を進めている。BTグループのヨン・キム副社長(テクノロジー&イノベーション担当)に,同社のこれまでの取り組みやNGNフィールド・トライアルなどについて聞いた。

BTのNGN構築は順調に進んでいるようだが,通信事業者にとってNGNを構築する意味は。

写真 英BTグループのヨン・キム副社長(テクノロジー&イノベーション担当)
写真 英BTグループのヨン・キム副社長(テクノロジー&イノベーション担当)

 ユーザーはインターネットを無料で利用できることを期待している。その一方で我々のような通信事業者にとって,ユーザーに受け入れてもらえる有償サービスを提供することが課題になってきた。

 20年前であれば,テクノロジーが新しいサービス開発の原動力になった。しかし,今ではテクノロジーの変化のスピードがあまりにも速いため,新しいテクノロジーが出てきたからといって新しいサービスを始めるというわけにはいかなくなった。そのために,今までとは異なった種類のビジネスを展開する必要が出てきた。

 もう一つは,コストの構造の変化を迫られていることだ。通信事業者にとっては単にサービス料金を引き下げるだけでは十分ではなく,どれだけコストを下げるかが大きな課題となっている。NGNは新しいテクノロジーへの挑戦と見られがちだが,我々にとってはビジネスの大変革。いかにして従来のビジネスを守りながら,新しいビジネスに投入するための収益源を作り出すかを考え出さなければならない。

 通信事業者は今後,徐々に音声通話の売り上げが減少していくことを念頭に置かなければならない。そうでなければ,常に音声通話の売り上げの心配をしなければならず,結果としてイノベーションが起こらなくなる。音声通話の売り上げに依存し続ければ,2,3年後に変化が起こった場合に大きな打撃を受けることになるだろう。

NGN構築を成功させるためには重要だと思うことは。

 我々はNGNを英国,そして世界中のあらゆる人に使ってもらいたいと考えている。多くのユーザーが活用する中で,良いアイデアがあれば21CNで展開できるようにしたい。そのために,我々はネットワークのAPI(application programming interface)を提供している。APIを使えば,例えばデジタルカメラでメニューを選ぶと簡単に画像をネットワーク上に保存できる仕組みのアプリケーションを,メーカーは容易に開発できるようになる。

 従来,電話会社は大規模な研究開発部門を抱えており,あらゆるアイデアは内部から発生していた。しかし,我々はより大きなイノベーションやアイデアを生み出す力は外部に存在すると考えている。そして,それらのアイデアを実現できるように,APIに代表されるオープン・アーキテクチャーのアプローチを採っている。社会が進歩していくためには,競争ではなくコラボレーションを通じて実現していかなければならない。

2006年12月からNTTのNGNのフィールド・トライアルが始まったが,BTとの違いは何か。

 NTTは東京と大阪にショールームを開設して新しいサービスを展示し検証しているが,BTのトライアルではこのようにショールームを開設した検証はしていない。我々が実施したトライアルの中で最も重要視した点は,新しいサービスを導入するとしても既存サービスに問題が起こらないようにすることだ。

 BTもこれまでに数々のフィールド・トライアルを実施してきた。例えばインターネット電話のフィールド・トライアルは1年がかりで行ってきたし,ラボでの実証実験にも取り組んだ。都市間をIPネットワークで接続して行った通話の実験では,3000万にも及ぶ通話の内容を詳細に分析して,大きな問題が起こらないことを確認できた。

 NGNはコストを削減するためのエンジンとしての役割を果たさなければならないが,それと同時にイノベーションを通じて成長のエンジンにもならなければならない。我々は既にNGNに対応した新しいサービスを開始しているが,どんな新しいサービスでも必ず長期間のフィールド・トライアル実施を経てから導入している。