前回はYouTubeを例に,アメリカでの動画共有配信サービスの合法性について検討しました。今回は,日本で同様のサービスを提供する場合の法的問題について検討を加えたいと思います。

 日本においても,ユーザーが著作権者等の許諾を得ていない著作物(違法コンテンツ)を送信すると,一定の条件の下では,動画共有配信サービスの事業者も自動公衆送信権等の侵害による損害賠償責任を問われる場合があります。

 ただし,前回紹介した米国著作権法のセーフハーバー条項と同様の規定が,日本でもプロバイダ責任制限法(注1)という法律に定められています。プロバイダ等の事業者(同法では「特定電気通信役務提供者」と定義)は,違法コンテンツがサーバーにアップロードされており,他人の権利が侵害されていることを知っていた,あるいは違法コンテンツの存在を知っていて他人の権利が侵害されていることを知るに足りる相当の理由がある場合のみ,損害賠償責任を負います。それ以外の場合には,著作権者等に対して(注2)損害賠償責任(注3)を負いません(プロバイダ責任制限法3条1項)。

 少しわかりにくいかと思いますが,大量のコンテンツがサーバーにアップロードされている場合,プロバイダ等はすべてのコンテンツをチェックできるわけではありません。このため,「事業者がサーバー上の情報を網羅的に監視する義務はない」ということを明らかにするために,このような要件になっています。他方,権利侵害が生じていることを知っている場合や,知ることができる(相当の理由がある)場合には,プロバイダ等の責任を制限する必要がないという判断です。

 プロバイダが著作権者等から「違法コンテンツが配信されているので,削除してほしい」との申し出を受けた場合には,権利侵害を知っている,あるいは知りうる状態になります。従って,違法コンテンツをそのまま放置するわけにはいかない,ということになります。権利侵害が明らかであれば,直ちに削除(あるいは送信防止措置)といった対策を立てる必要があります。他方,直ちに削除等の対応をとっていれば,プロバイダ(動画共有配信事業者)は著作権者等に対し責任を負わないということになります。

 ただ,誰が著作権者(あるいは正当なライセンスを受けた者)なのか,コンテンツが違法なのかどうかは,必ずしも明らかな場合ばかりではありません。このため,プロバイダ責任制限法ガイドライン等検討協議会がガイドラインを作成し,明確化を図っています。また,著作権関係信頼性確認団体(注4)からプロバイダに申し出があった場合,迅速な対応ができるような仕組みも作られています(注5)

申し出に従って削除すれば責任を免れる場合が多い

 いずれにせよ,基本的には違法コンテンツであるとの申し出があり,プロバイダ等がそれに従って削除すれば,著作権者側からの損害賠償責任を免れることが可能な場合が多い,と考えられるわけです。ただし,全く問題がないかというと,そうとは言い切れない部分があります。

 この点参考となるのが,いわゆるファイルローグ事件判決です。ファイルローグ事件は,P2P(ピアツーピア)技術を利用した音楽ファイル交換サービスを提供していた会社に対して,著作権侵害が問われた事件です。この事件の場合,ユーザー同士はファイルをやり取りするためにP2P技術を利用しており,サービス提供会社が音楽情報ファイルを直接送信していたわけではありません。従って,形式的に見れば,サービス提供会社は公衆送信などを行った主体(当事者)とは言えません。

 しかし同判決は,サービスで交換されていたファイルの大部分が市販CDなどを複製したものであることなどを理由に,サービス提供会社も著作権等の侵害主体になると判断しました。P2Pのサービス提供会社が著作権侵害主体となり得るのであれば,プロバイダ責任制限法の適用がありそうにも思えます。しかし,結論としてはプロバイダ責任制限法による免責は受けられない,と判断したのです。

 プロバイダ責任制限法には免責されない例外的な場合があります(3条1項)。サービス提供者自身が権利侵害情報(違法コンテンツ)の「発信者」となる場合には免責が受けられない,と定めているのです。動画共有配信サービスで言えば,通常は動画を配信サーバーに投稿するユーザーが典型的な「発信者」となります。ところが,ファイルローグ事件の場合,運営会社自身も違法複製ファイルを流通過程におくことに積極的にかかわっており「発信者」に該当する,従ってプロバイダ責任制限法の適用対象外であると判断したわけです。

 ファイルローグの事案は,P2Pのファイル交換システムが対象となっていますので,動画共有配信事業とは少し事案が違うのではないかと考えられるかもしれません。確かに事案は異なるのですが,P2Pファイル交換システムの提供者は動画共有配信事業者よりもコンテンツのコントロール,管理の度合いが間接的であるにもかかわらず,著作権侵害の主体であると判断されています。従って,より管理が容易であると思われる動画共有配信事業者の方が「侵害主体」であると判断される可能性は高いと言えるでしょう。

 動画共有配信事業者がプロバイダ責任制限法の「発信者」であるかどうかを判断する枠組みは,P2Pであるかどうかとは直接の関係はないと考えられます。あくまでも,「実態」がどうなっているのかが重視されるということです。従って,サービス実態(違法なコンテンツがほとんどの場合等)によっては,動画共有配信事業者がプロバイダ責任制限法の適用を受けられないで「違法である」と判断される余地は残るということになると思います。

 次回は,動画共有配信サービスを合法的に提供するための方向性について,具体的に考えてみます。

(注1)正式な名称は「特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限および発信者情報の開示に関する法律」です。「プロバイダ責任制限法関連情報Webサイト」に,条文,逐条解説,ガイドライン等が掲載されています
(注2)コンテンツをアップロードした側(発信者)からの損害賠償も問題となり得ますが,1)他人の権利が侵害されていると信じるに足りる相当の理由があった,2)権利を侵害されたとする者から違法情報の削除の申出があったことを発信者に連絡し,7日以内に連絡,反論がない場合には,発信者からの損害賠償責任が制限されます。テレビ放送を録画してそのままアップロードしたような場合には,相当の理由有りということで責任制限されるでしょうから,あまり問題にはならないでしょう
(注3)免責されるのは民事上の損害賠償責任だけなので,刑事上の責任についてはプロバイダ責任制限法の適用はありません(他方,違法情報の存在を知っただけで直ちに刑事上の責任が問われるわけではありません)
(注4)日本音楽著作権協会や日本映像ソフト協会などが確認団体として登録されている。登録済み団体は「著作権関係信頼性確認団体一覧」参照
(注5)プロバイダ責任制限法関連情報Webサイトの「著作権関係信頼性確認団体とは」参照


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■北岡 弘章 (きたおか ひろあき)

【略歴】
 弁護士・弁理士。同志社大学法学部卒業,1997年弁護士登録,2004年弁理士登録。大阪弁護士会所属。企業法務,特にIT・知的財産権といった情報法に関連する業務を行う。最近では個人情報保護,プライバシーマーク取得のためのコンサルティング,営業秘密管理に関連する相談業務や,産学連携,技術系ベンチャーの支援も行っている。
 2001~2002年,堺市情報システムセキュリティ懇話会委員,2006年より大阪デジタルコンテンツビジネス創出協議会アドバイザー,情報ネットワーク法学会情報法研究部会「個人情報保護法研究会」所属。

【著書】
 「漏洩事件Q&Aに学ぶ 個人情報保護と対策 改訂版」(日経BP社),「人事部のための個人情報保護法」共著(労務行政研究所),「SEのための法律入門」(日経BP社)など。

【ホームページ】
 事務所のホームページ(http://www.i-law.jp/)の他に,ブログの「情報法考現学」(http://blog.i-law.jp/)も執筆中。