前回までの総論に続き、今回から4回にわたって、ITエンジニア1万人を対象とする実態調査の結果をテーマごとに見ていく。今回は、ITスキル標準(ITSS)に基づくスキルレベルに関する調査結果を紹介する。

 今回からいよいよ各論に移る。取り上げるテーマは、ITエンジニアの「スキルレベル」「キャリア」「意識」「スキルアップ」の4つ。今回はスキルレベルに関する結果を詳しく紹介する。

 本調査では、調査サイトで職種・専門分野に応じて表示される多数の質問への回答結果から、回答者のスキルレベルを判定した。スキルレベルの区分は、ITスキル標準で定義されたレベル1~7、および、レベル1に満たない「未経験レベル」の8段階。この8つレベルを大きく3つの階層に分け、レベル2以下を「エントリレベル(上位レベルの指導の下で職務の課題を発見・解決する)」,レベル3 ~4 を「ミドルレベル(自らのスキルを駆使して課題を発見・解決できる)」,レベル5~7を「ハイレベル(社内外でビジネスをリードできる)」と呼んでいる。

 まず、本連載の第1回で紹介した、各スキルレベルの分布状況を確認しておこう。エントリレベルは全回答者(1万0065人)の半数近く(49.8%)に達し、ミドルレベルの回答者を合わせると全体の9割以上を占める(図1)。8段階のレベル別に見ると、レベル3が33.4%で最も多く、レベル2が29.7%で2番目に多かった。ハイレベルは、レベル5~7を合計しても4%に満たない。

図1●回答者のスキルレベルの構成比(有効回答数は1万0065人)
図1●回答者のスキルレベルの構成比(有効回答数は1万0065人)

 職種ごとに各レベルの回答者の比率を見たものが図2である。エントリレベルの比率が最も高かった職種はオペレーションで、回答者の8割近く(76.9%)に達した。このほか、カスタマサービス、ソフトウェアデベロップメント、アプリケーションスペシャリスト、品質保証の4職種では、エントリレベルの比率が5割を超えている。品質保証を除き、システム開発・運用やサポート・サービスなどの“現場での実務”に携わる職種に、エントリレベルの比率が高い傾向があることが分かる。

図2●職種ごとに見た、各スキルレベルの構成比(カッコ内は各職種の有効回答数)
図2●職種ごとに見た、各スキルレベルの構成比(カッコ内は各職種の有効回答数)
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 逆に、ハイレベルの比率が最も高かったのはコンサルタントだった。回答者の16.4%がハイレベルに該当し、全職種の中で唯一、レベル7が1%を超えている。次いでハイレベルの比率が高かったのはマーケティング(14.4%)で、エデュケーション(9.7%)、ITアーキテクト(7.8%)、プロジェクトマネジメント(6.4%)が続いた。

40歳を超えてスキルレベルが“頭打ち”になる現象も

 次に、各レベルの回答者の比率を年齢層ごとに見てみよう(図3)。ITスキル標準におけるスキルレベルの定義では、職務経験が重視されるため、当然、年齢層が高いほどエントリレベルの比率が低く、ハイレベルの比率が高くなる傾向がある。25歳以下の若年層では、エントリレベルが回答者の実に92.9%に達している。年齢層が高くなるにつれてこの比率が下がり、31~35歳では50%を切っている(47.3%)。逆に、ミドルレベルは25歳以下では7%に満たないが、26~30歳では34.4%、31~35歳では50.7%と過半数を超えている。

図3●年齢層ごとに見た、各スキルレベルの構成比(カッコ内は各年齢層の有効回答数)
図3●年齢層ごとに見た、各スキルレベルの構成比(カッコ内は各年齢層の有効回答数)
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 ただし、41~45歳から上の年齢層に注目すると、年齢層に比例してエントリレベルの比率が下がり続けるわけではないことが分かる。41~45歳、46~50歳、51~55歳の3つの年齢層ではエントリレベルが20%台前半~後半で推移しており、特に51~55歳では3割近くに達している。スキルレベルは職種ごとに決められるため、職種転換した直後はスキルレベルが落ちることがありうるが、それだけでは説明のつかない比率の高さである。こうした“スキルレベルの頭打ち”現象が40歳台以降で表れることは、個々のIT企業にとっても、IT業界全体にとっても、人材育成やキャリア開発の大きな課題と言えるだろう。

 前述したように、職種によってエントリレベル、ミドルレベル、ハイレベルの構成比は大きく異なるが、その一因として職種による平均年齢の違いが挙げられる。ITスキル標準では業務経験を重視するため、平均年齢が高い職種ほど、スキルレベルも高くなる傾向があるからだ。しかし、年齢層ごとに職種別の平均スキルレベルを見ると、同じ年齢層でも職種によって平均スキルに大きな違いがあることが分かる(図4)。

図4●年齢層ごとに見た、職種別の平均スキルレベル(カッコ内は各年齢層と各職種の有効回答数)
図4●年齢層ごとに見た、職種別の平均スキルレベル(カッコ内は各年齢層と各職種の有効回答数) [画像のクリックで拡大表示]

 この図では、各年齢層の回答者の平均スキルレベルに対し、0.3ポイント以上高い職種を緑色で、0.3ポイント以上低い職種を黄色で、それぞれ示している。これを見ると分かるように、コンサルタントはすべての年齢層で、ITアーキテクトはほぼすべての年齢層で、平均を0.3ポイント以上、上回っている。プロジェクトマネジメントやエデュケーションも、平均を0.3ポイント以上、上回っている年齢層が多い。逆に、オペレーションとカスタマサービスは、ほぼすべての年齢層で、平均を0.3ポイント以上、下回っている。