ストレージの仮想化とは,異機種混在のストレージ環境を一つの仮想的なストレージ,いわゆる“ストレージ・プール”として見せる技術である。従来のストレージ装置に備わる機能上の制約を乗り越え,こうした使い方ができるようになってきた。

集中管理とILMが背景に

 数年前からストレージ装置の高機能化が進み,論理的に領域を切り分けたり,高速にコピーしたりする機能を備えるようになった。だがそれらは主に,装置内,あるいは同一メーカー製の装置間に限られる。こうした制約が以前からあった。

 大容量のストレージ装置を1台導入し,それで容量面でまかなえている間はこの制約は気にならない。だがここに来て,個人情報保護法などにより,企業内のデータを集中管理する動きが急激に進んだ。管理が行き届かない拠点にストレージ装置を設置せず,センターでストレージ装置を一元管理するようになった。その結果,大容量のストレージ装置でも1台では容量不足となり,複数台をネットワークでつなぐ「SAN(Storage Area Network)」の構築が進んだ。

 さらに,ストレージ装置に一度格納したデータを時間とともに移動する,いわゆる「ILM(Information Lifecycle Management)」という考え方が出てきた。ILMとは,情報の価値は時間の経過などで変化するので,その価値に応じてデータを最適なストレージ装置に移動する。そうすることで,ストレージ装置全体のコストを下げるという考え方だ注1

 こうした状況の変化によって,ストレージ装置の制約が運用担当者の悩みのタネになってきた。多くの企業では異機種のストレージ装置が混在しているだろう。そうなると,同一メーカー製を前提にしたストレージ装置の機能では明らかに力不足である。

 そこで登場するのがストレージの仮想化だ。ファイルの格納場所を物理的に固定せず,複数装置を一つのストレージ・プールとして利用できる。たとえ利用者がファイルにアクセスしているときであっても,その格納場所を自在に移動できるようになる(図1)。

図1●仮想化したストレージの特徴
図1●仮想化したストレージの特徴
ファイルは複数ブロック(ディスク上の物理的な場所を示す)の集合だが,仮想化により,ファイルの配置位置を物理的に固定しなくなる。異機種の複数装置を,一つのストレージ・プールとして利用できる

 以下では,ストレージ装置を大きく,(1)DBサーバーなどで主に使われる「SAN向けのストレージ装置」と,(2)一般にファイル・サーバー専用機のことを指す「NAS(Network Attached Storage)」に分け,それぞれの仮想化技術を説明する。