松井証券のCIOに当たる佐藤邦彦・取締役

 「今は厳しい状況。コストを下げて利益を取っていかなければならない」。インターネット証券大手の松井証券のCIO(最高情報責任者)に当たる佐藤邦彦・取締役(システム企画部長 兼 品質管理担当役員)はこう話す。

 2005年までは、個人投資家の急拡大で順調に業績を伸ばしてきた同社だが、2006年は試練の年だった。1月に「ライブドアショック」が起きるなど証券市場全体が低調だったのに加え、野村証券系のジョインベスト証券(東京・港)などネットを主力とする証券会社の新規参入が相次いで手数料の値下げ競争が加速した。

 「この業界は相場の影響が大きい。1年先のことは読めない」。2006年は、1月には過去最大級の取引量でシステムの処理容量も限界に近かった。システム増強を行ったものの、年末には株式市場自体が落ち着き、処理容量をもて余した。

 「(利益を取るうえで)ピーク時に絶対に対応できるだけのコストをかけるのは最適な投資とはいえない。システム増強のためにデータセンターのスペースを確保すれば、空室でもコストはかかる。取引量が減ったからといって、いったん購入したソフトウエアのライセンスを返すわけにもいかない」。佐藤取締役は、毎日の取引量だけではなく、取引の前段階に当たる口座開設や入金などの状況にも目を光らせて、システム増強のタイミングの見極めている。

 ネット証券業界は、サービス内容を互いにまねしやすく、手数料競争に陥りやすい構造がある。新サービスを始めるには金融当局への確認のプロセスが必要で、これには通常数カ月かかる。2番手企業は確認プロセスを省略してすぐにサービスを始められる。

 しかし、松井証券には「立会外分売」などネットならではのサービスを他社に先駆けて投入してきた歴史がある。「(差異化が難しくても)松井証券は先進的に何かをやってくれるという期待感が我々のブランドにつながっている」。佐藤取締役は、新サービスのアイデアを迅速にシステム化できるように備える。2007年も、通常は現金になるまで数日かかる決済のリアルタイム化などシステム改良によるサービス強化を目指す。

 佐藤取締役は1971年生まれの35歳(2007年1月時点)と若いが、松井証券に入社したのは1998年と古い。10人いる取締役の中で、松井道夫社長らに次いで3番目に社歴が長い。

 松井証券入社後は一貫してシステム畑を歩むが、当時はシステムの素人だった。その前に10年近く勤めた旧・山一証券では営業店に勤務し、情報システム部門の経験はなかったという。「ネットワークや社内向けツールなど何でもやらないといけないという状況で、システムの知識をどんどん吸収していった。濃い時間だった」と振り返る。「仕事での達成がストレス解消」と話す根っからの仕事人である。

Profile of CIO

◆経営トップとのコミュニケーションで大事にしていること
・社長に対して、システムの細かい部分の話をしても仕方がない。「この製品には、こういうメリットとデメリットがある。だから採用する」といった具合に、メリットとデメリットを交えつつ、「終着点」をずばりと示すようにしている。

・ネット証券業界では、システムの処理容量が重要課題。「これぐらいのコストなら、これぐらいの容量になる」といったことは、選択肢を示しつつ詳しく説明する。

◆ITベンダーに対し強く要望したいこと、IT業界への不満など
・2005年ごろからIT業界は活況で、コストが高止まりしている。業界全体で人手不足感があり、高めの価格でなければ仕事を依頼できない状況は気になっている。

・ソフトウエア製品について、製造元の意識と我々との間にギャップが大きいと感じる。ソフトはきちんと動いて当然のはずなのに、実際には使ってみないと分からない面が多く、我々の側で検証せざるを得ない。検証するにも、製造元が運用上必要な情報をあまり開示してくれないこともある。もっと、我々ユーザーのほうを向いた開発をしてほしい。

◆普段読んでいる新聞・雑誌
・『日本経済新聞』『日経コンピュータ』は読んでいる。関係のある記事はスクラップしてシステム部門内で回覧している。

◆最近読んだ本
・『香港大富豪のお金儲け 7つの鉄則』(林和人著、幻冬舎)
 同業のユナイテッドワールド証券(東京・港)の会長の著書。華僑とわたり合った経験を基にした「商売の厳しさ」が書いてあり、参考になった。

◆仕事に役立つお勧めのインターネットサイト
・ネット証券サービスのお客様に提供しているのと同じニュース・情報ツールを社内でも使っている。ただし、ニュースを基に瞬時に株の売買を判断するネット投資家に比べれば、それほどリアルタイムで見ているわけではない。

・決まったサイトはあまりなく、気になったことはすぐにYahoo!やGoogleで検索するようにしている。

◆情報収集のために参加している勉強会やセミナー、学会など
・ITベンダー主催のイベントに参加している。ベンダーからは他業種の情報も積極的に仕入れるようにしている。

◆ストレス解消法
・仕事のなかで何かを達成することが、一番のストレス解消になる。