写真1●「セマンティックズーム」でパソコン向けWebページをブラウズ
写真1●「セマンティックズーム」でパソコン向けWebページをブラウズ
 NECは,携帯電話の画面でパソコン向けWebページを快適に閲覧できるようにする新技術「セマンティックズーム」を開発した。携帯電話の小さな画面に表示したWebページの中から,意味のあるまとまりごとに見出し文字などを拡大して表示できる。現在,主にイントラネット向けの製品として製品化作業を進めている(写真1)。

 すでに最新の携帯電話ラインアップの多くには,一般に「フルブラウザ」と呼ばれるパソコン向けWebページ閲覧アプリケーションがプリインストールされている。だがこれらのブラウザは,Webページ全体の情報を表示するまでに時間がかかったり,目的の情報を表示して探すためにスクロールやボタン操作が多く必要になるなど,必ずしも使い勝手はよくない。現状はあくまで緊急時に閲覧可能というレベルでしかなく,イントラネットなどでパソコンを置き換える端末として日常業務で頻繁に利用するのは難しい。

NECシステム基盤ソフトウェア開発本部の野田尚志氏 NECシステム基盤ソフトウェア開発本部の野田尚志氏
 セマンティックズームは,携帯電話のブラウザでWebページ上の目的の情報に到達するまでのステップ数を大幅に削減できる技術である。これにより「従来の携帯電話向けフルブラウザと比べ,パソコン向けWebページ閲覧の操作性は格段に向上する」(NECシステム基盤ソフトウェア開発本部ヒューマンインタフェースセンター主任の野田尚志氏)。携帯電話でパソコン向けWebページの閲覧が容易になれば,携帯電話専用ページを構築するコストをかけずに,携帯電話をイントラネットのアクセス端末として使えるようになる。

意味ブロック単位で閲覧場所をすばやく移動

 セマンティックズームを使ってWebページにアクセスすると,まずパソコンで閲覧した画面を縮小したようなイメージの「オーバービュー画面」になる。Webページを縮小表示した画面なので,当然文字などの詳細は潰れてしまって判別できないが,ページの全体像を把握できる。この縮小イメージで目的の情報を探し,詳細表示に切り替えて閲覧するわけだ。

 セマンティックズームでは単に縮小イメージを作るのではなく,Webページを解析し意味上のまとまり「ブロック」に分割。オーバービュー画面上で「ブロック単位」でポインタを移動できるようにすることで,目的の情報をすばやく選択することができる(図1)。ブロック単位の見出しも自動生成され,オーバービュー画面上でポインタをブロックに合わせると見出しが拡大表示されるため,目的の情報の選択は容易である。見出しだけで情報が不足するなら,詳細表示画面に移ることなくブロック内のテキストを見られる「プレビュー機能」も使える。

図1●セマンティックズームの利用イメージ
図1●セマンティックズームの利用イメージ
まず,パソコン用Webページ(左)から意味的なまとまりをブロックとして自動抽出し「オーバービュー画面」を作成(中)。各ブロックの見出が判別できるよう拡大表示される。さらに選択したブロックを拡大表示した「詳細画面」(右)。この状態でも,ブロック単位の移動ができる。

 NECがインターネットの視聴数上位10サイトについて画面中央の情報までたどりつくためのキー操作回数を実測したところ,単純にスクロールしていく必要がある従来のフルブラウザでは平均187クリック必要だったのに対し,「ブロック単位で移動できるセマンティックズームでは,約1/15の12クリックですむ」(システム基盤ソフトウェア開発本部ヒューマンインタフェースセンターマネージャーの平松健司氏)。

NEC システム基盤ソフトウェア開発本部の平松健司氏 NEC システム基盤ソフトウェア開発本部の平松健司氏
 目的のブロックを選択すると,詳細表示に切り替わる。一般的なフルブラウザで見た場合と同じく,パソコンで閲覧している画面をほぼそのまま切り取った状態の表示になる。ただし,テキストは画面右端で折り返して画面に収まるように表示するなどの工夫が施されており,単純にページの一部分を表示するフルブラウザよりも情報を把握しやすい。いちいちオーバービュー画面に戻ることなく,詳細表示のままブロック単位で上下に移動することも可能だ。オーバービュー画面と詳細表示の切り替えや,詳細表示でのブロック移動のレスポンスはとてもスムーズで,ストレスのない操作感を実現している。

 セマンティックズームは,一覧性の高いオーバービュー画面上で,意味を解析したブロックごとに見出し情報を拡大して表示できる。この技術を適用すると,パソコンで見慣れたWebページの画面レイアウトで直感的に目的の情報に近づき,見出しの拡大表示ですぐに内容を確認できる。パソコン向けWebページを携帯電話でストレスなく読めるようになれば,ビジネスでの用途は広がる。セキュリティ対策の側面からノート・パソコンなどは持ち歩けなくても,一種のシン・クライアントとして携帯電話を業務端末に活用できるわけだ。