前回は,改正が予定されている経済産業分野における個人情報保護ガイドラインについて,製品リコールにおける「過剰反応」対策を取り上げた。

 筆者は,経済産業省が年末年始を挟んで実施した改正消費生活用製品安全法の説明会と改正個人情報保護ガイドラインの説明会に参加したのだが,いずれも会場は満杯で,企業の切迫感を感じさせる雰囲気が漂っていた。一見すると,改正個人情報保護ガイドラインにおける「過剰反応」対策からは,規制緩和のような印象を受けるかもしれない。だが,その一方で,企業に対する製品安全規制は大幅に強化されており,危機管理対策における個人情報利用の位置付けもますます重要になってくる。

 個人情報保護ガイドラインだけでなく,関連する法令の動きについても把握しておくことも必要だ。例えば,同じ製品リコールでも食品の場合は,消費生活用製品安全法ではなく厚生労働省が主管する食品衛生法が適用される。自動車の場合は,国土交通省が主管する道路運送車両法が適用される。

 さて,今回は子どもの個人情報保護の観点から改正ガイドラインについて考えてみたい。

個人情報管理は子どもの「安全・安心」の要

 第52回で触れたように,米国では,子どものプライバシー保護優先の観点から,COPPA(Children's Online Privacy Protection Act:児童オンライン・プライバシー保護法)が制定された。この法律では,Webサイトが13歳未満の子どもから個人情報を収集,使用もしくは公開を行う場合は,当該情報を取得する前に保護者の許可を受けることを義務付けている。

 日本でも,第54回で取り上げた東京都青少年健全育成条例のように,子どもの「安全・安心」の観点から,インターネット事業者を対象としたフィルタリング機能などの規定が設置された例がある。同条例では,「保護者は,青少年を健全に育成することが自らの責務であることを自覚して,青少年を保護し,教育するように努めるとともに,青少年が健やかに成長することができるように努めなければならない」(第4条の2)と,保護者の責務も明文化している。また,文部科学省の中央教育審議会では,情報メディアをめぐる青少年対策の観点から「安全・安心」に関する議論が進められている(「スポーツ・青少年分科会(第42回)議事要旨・配付資料」参照)。このように,個人情報保護法以外の分野から,子どもの個人情報保護対策強化を求める声が上がっている。

日本のEC市場は未成年ユーザーの比率が高い

 経済産業省の個人情報保護ガイドライン改正案の概要を読むと,「その他」の項目で,

・「本人の同意」の定義について
十分な判断能力を有していない子ども及び成年被後見人などから同意を得る場合は,本人のほか法定代理人等からの同意も得るなどの配慮が必要である旨を明示。

という項目がある。

 実は,子どもからの個人情報取得は,日本のEC(電子商取引)市場にとって重要な問題をはらんでいるのだ。米国と比較して日本のインターネット市場の特徴は,携帯電話を利用した未成年者のユーザー比率が高い点にある。米国では小売業による物販主導でEC市場が発展してきたが,日本の場合,携帯電話によるデジタル・コンテンツ配信が市場を牽引してきた。第45回で取り上げたオンライン・ゲームの主力ユーザーも未成年者である。子どもはEC市場の重要な顧客層なのだ。

 携帯電話キャリアの場合,契約時にユーザーの年齢確認を行うなど,子どもの「安全・安心」対策を最初から組み込んでいる。だが,一般のインターネット通販サイトで,子どもから注文を受けた時,年齢確認,親権者からの同意取得といった配慮をしている運営者はどれくらいあるだろうか。モバイル向け検索エンジンの普及により,携帯電話から様々なサイトにアクセスできるようになっているが,その中にはフィッシング詐欺などを狙った悪意のあるサイトが含まれる可能性もある。モバイル・コマースの展開に際しては,子どもの「安全・安心」対策が不可欠だ。

 経済産業省は,2006年12月25日から2007年1月25日までの間,「電子商取引等に関する準則改訂案」に対する意見公募(「パブリックコメント」参照)も行っている。この改訂案では,子どもからの個人情報の取得に関して具体的に取り上げられている。ECシステムのみならずWebマーケティングへの影響も大きいので,こちらもご一読をお勧めする。

 次回は,従業員の個人情報保護の観点から,改正ガイドラインについて考えてみたい。


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■笹原 英司 (ささはら えいじ)

【略歴】
IDC Japan ITスペンディンググループマネージャー。中堅中小企業(SMB)から大企業,公共部門まで,国内のIT市場動向全般をテーマとして取り組んでいる。

【関連URL】
IDC JapanのWebサイトhttp://www.idcjapan.co.jp/