「顧客に選ばれる企業」には,顧客をおもてなしする場所(サイト)がある。SWD(Strategic Web Design)編集部が,最近Webサイトをリニューアルした企業に伺って,成功するサイトの運営秘話をインタビューする。

トヨタ自動車
GAZOO.com(ガズードットコム

図●
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トヨタ自動車
e-TOYOTA部 マーケティング室
サイト企画グループ長 柴尾嘉秀
彦坂友弘

 GAZOO.com(ガズードットコム)は,トヨタ自動車e-TOYOTA部が運営するコミュニケーション・サイト。1998年のサービス開始以来,登録会員数は700万人を超える。2006年11月には,大幅なリニューアルを行った。

 リニューアルの狙いは,「ユーザー参加型の自動車ポータルサイト」にすること。そのため,従来から提供してきた自動車に関するニュースやカーライフに役立つ情報といったコンテンツに加えて,ブログ機能「G-BLOG」や,同社製の自動車に搭載するカーナビゲーション・システムで利用可能な情報サービス「G-BOOK」との連携機能などを加えた。

SWD まず,e-TOYOTA部とはどのようなことをする部署なのでしょうか。

柴尾 私たちが所属するe-TOYOTA部は,社内のインターネット統括部署です。サーバーをはじめ,インターネットのインフラ管理と,コンテンツの編集,制作,サポート業務を行っています。トヨタでは,ブランドサイトのtoyota.jp,IR情報など企業を公開する場として広報部を中心に運営しているtoyota.co.jp,そしてGAZOO.com(以下,GAZOO)といったようにドメイン別に異なる主幹部署が運営を行っていますが,バックエンドの運営はe-TOYOTA部が一貫して担っているという形です。また,「G-BOOK」などのテレマティックス関連事業の運営もサポートしています。部署全体の人数は150人程度です。

柴尾嘉秀 氏
柴尾嘉秀 氏

SWD 元々はどういう目的でGAZOOを始めたのですか。

柴尾 以前は販売店の業務を改善するという目的に対する手段の一つでした。中古車情報をデジタル化して管理すれば検索効率も上がるだろう,というわけです。店内で見るためのコンテンツだったのですが,その後査定額などに加え新車情報も絡めてインターネット上に展開しようということになりました。

 GAZOOは1998年の発足当初から,顧客とのコミュニティ作りを目指していました。登録会員数は現在,700万人を超えています。クルマの販売店はもともと,お客様とコミュニケーションを図る場を作っています。同じように我々も販売店を含め,ネット上にお客様と私どもとが集まって,より良いカーライフを送るお手伝いができればと思っていたのです。それは売るための仕組みとは少し異なりますし,効果もすぐには見えにくいので,社内的な理解を得るのに時間を要することもありました。

 当時のインターネットは,企業情報を掲載する用途が中心でした。企業パンフレットの情報を載せようか?という程度のものですから,もともと業務で利用していたコンテンツを公開することは珍しかったのではないでしょうか。

SWD 2006年11月に実施したサイト・リニューアルの目的は何でしょうか。

柴尾 近年,クルマの購入を検討するユーザーが,メーカー・サイトだけでなく,非メーカー系のポータルサイトやネット上のコミュニティをよく利用するようになってきました。特に,ブログによる情報発信は急拡大しています。そこで私たちは,ユーザー参加型の自動車ポータルサイトを作って,クルマ好きが集まる“場”を提供したいと考えたのです。「G-BOOK」のような車載機器から情報収集する人も目立ってきており,そのサービスとの連携機能を追加することも課題でした。

「リニューアル後はPVが倍に」

 GAZOOが始まった当時,最も多い利用者の年齢層は20から30代でした。しかし10年を経てコア・ユーザーも30から40代になり,オピニオン・リーダー的な年齢になっています。こうした年齢層の変化にも配慮してコンテンツを練り直す必要を感じたのです。夫婦でゆっくり旅行しようか?そんなとき列車でなくクルマを使う。クルマの機能を生活の中で積極的に活用しようと考える人はある意味“クルマ好き”と言えますよね?そんなドライバーが集まって情報交換する場所を作ろう,と。

 地図との連携が可能なブログ機能「G-BLOG」(図1)は,今回のリニューアルの目玉です。リニューアル後の2006年12月に本格的な運用を開始しました。G-BLOGでは,会員がおすすめのスポット情報を位置情報といっしょに投稿したり,確認したりできます。まずここで行き先を決めます。ルート検索もサイトで済ませたうえで,G-BOOK対応ナビに行き先を送る連携が可能です。G-BLOGは携帯電話からの利用も可能です。おかげさまでリニューアル後は,例年の倍のページ・ビュー(PV)を上げています。

図1●G-BLOG。おすすめのスポット情報を位置情報といっしょに投稿したり,確認したりできる
図1●G-BLOG。おすすめのスポット情報を位置情報といっしょに投稿したり,確認したりできる
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SWD リニューアルはどのように進めましたか。

彦坂友弘 氏
彦坂友弘 氏

彦坂 e-TOYOTA部内にはGAZOO編集要員として8人ほどのスタッフがいます。社内スタッフに関しては他の業務と兼任しながらの体制ですが,アプリケーションの開発とサイト・デザインなど実装に関する作業は,子会社であるデジタルメディアサービス(前身は2000年に設立されたガズーメディアサービス)に協力してもらっています。

 今回のリニューアルでは,キックオフから企画立案,要件定義のとりまとめなどを合わせて5カ月ほど要しました。開発規模(人数)は約50人。プロジェクト・マネージャおよびプロジェクト・リーダーが10人,プログラマが40人という構成です。社内のスタッフと外部ベンダーの中心者とが定期的にミーティングをして現場作業を進めるという流れです。システムはこれまでマイクロソフトの「ASP」を使っていたのですが,ASPの新版である「ASP .NET」に移行しました。更新作業用のCMS(コンテンツ管理システム)も,ASP .NETを使って自前で作成しました。パッケージのCMSは特に導入していません。

「開発側に要望がうまく伝わらない経験も…」

 開発に際して特に大きなトラブルはありませんでしたが,要望がうまく開発側に伝わらないという経験もしました。アプリケーションの画面遷移順序など些細な部分ではあるのですが,私たちが培ってきた顧客サービスに対する姿勢など,細かいニュアンスはなかなか言葉や定義書などで正確に伝えることが難しいのです。

 その伝えにくい部分がコンテンツの中で「解釈のズレ」として現れたという状態でしょうか。動作に問題がないだけに,そのズレを「要改善点」として共有しにくいのです。そうなるともう,相互に動作確認を行い,使っている中で違和感のある部分を修正していくしかないですね。運用しながら直していく,改善していくことの連続です。

SWD GAZOOではどんなことを目指していきますか。

柴尾 あまりトヨタが運営しているという感じが前面に出ないようにしたいですね。コンテンツに含まれるニュース記事などはカーライフに関するものを中心に,メーカーを問わず配信しています。トヨタのニュースが一つもない日さえあるほどです。

「ブランドの垣根を越えてクルマ社会全体を豊かにしたい」

 記事は日刊自動車新聞,ロイター通信,webCG(自動車専門誌「CAR GRAPHIC」のWebサイト)から提供してもらっています。GAZOOを利用することでトヨタ車に限らず,クルマに乗ることは楽しいと思っていただけるとうれしいですね。

 GAZOOでは,ブランドの垣根を越えてクルマ社会全体を豊かにしたいと考えています。近年若い人の間でクルマ離れが進んでいると言われていますから,業界一丸となってカーライフのイメージアップに努力していくつもりです。

「インターネットとクルマをつなぐ」

 インターネットとクルマを“つなぐ”ことは,これからますます重要になるでしょう。GAZOOでは,会員の方々がG-BLOGに投稿した地域情報を,車載機器のG-BOOKや携帯電話から参照する仕組みを提供することによって,インターネット・コンテンツをリアルライフにつなげていきます。最近では,若い人を対象に,Podキャスティングで動画コンテンツを配信する「iRouteCasting」も始めました。おすすめのドライブ・ルートを撮影して配信しています。

 「Gazoo mura」というブログ形式のコンテンツでは,九州の三つの村の方々に現地から情報を発信してもらっています(図2)。これは,「インターネットとクルマが“machi”と“mura”を結ぶ」というコンセプトです。実際に編集スタッフが地域を訪れることもあります。サイトの管理や修正以前に,こうした取材活動や編集作業は大変ですが,興味を持っていただけるコンテンツをなんとか作りたいですね。

図2●Gazoo muraのブログ。実際に編集スタッフが地域を訪れるなどしている
図2●Gazoo muraのブログ。実際に編集スタッフが地域を訪れるなどしている
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 メインのコンテンツである中古車情報のコーナーでは,資料請求を年間4万5000件程度いただいています。全体のおよそ15%がご購入までに至っています。ユーザー対応については販売店のフォローを徹底するということで,24時間以内に問い合わせに返答する体制を取っています。

 今後は,サイトの認知度をさらに向上させたいですね。カーライフのすばらしさを訴求するに当たって,現時点ではクルマを持たない人など,接点の少ない潜在顧客に対して広くこのサイトを知ってもらう方法を,考えていきます。