岩城:次田さん、こんにちは。再びご登場いただき、恐縮です。さて、今回は「Webで企業の人格を表現する」というテーマです。

 ユーザーが商品購入の最後の決め手とするのが企業サイトであることは各種の調査などでも明確になっていますから、自社の商品やサービスなどについての情報を掲載するのは当然のことで、各社それぞれいろいろな工夫を凝らしたコンテンツがあります。

 しかし、人が物を購入するときに商品やサービスの情報は重要であっても、それだけで意思決定をするのだろうか? もう少し、企業の内面にある価値もそれらに寄与するのではないか、という仮説が前回のコアバリューを発信するというテーマでした。

 そしてさらに、企業の内面にある価値という点についてもう少し深く考えてみたとき、人と人の関係でなんとなく気が合う人と、いわゆる反りが合わない人がいるように、同じような商品を販売している企業でも自分となんとなく相性の良い会社と、そうでもない企業があることに気が付きます。

 いわゆるファンとまではいかなくても、「私は**社の商品のほうが合う」というような感覚ですね。つまり、企業にも人の場合と同じような人格(法人と言いますから人格ですね)があって、それに対して好きとか、嫌いという感情が生まれてくるのだと思います。

 こういうことは、あくまでも理屈では無く、心で感じることですから、ユーザーのいろいろな経験を経て時間をかけて形成されていくものなのだと思いますが、こういう感覚について、次田さんはどう思われますか?

次田:これはまさに「ブランド」に関するお話ですね。ブランドに対するロイヤリティ(忠誠心)は、時間をかけ、いろんな接点を経てユーザーひとりひとりに染み込んで行ったものですよね。私も一ユーザーとして、クルマ、時計、服、靴・・・と好きなブランドはありますが、なぜ好きなのか理由を誰かに説明しようとすると、説明できる部分と、説明しにくい非常に個人的・感覚的な部分とがありますね。

 前回の話でご紹介したコアバリューの発信なども、いかに一生懸命やっても、あるユーザーにはこんなふうに言われるかも知れませんからね・・・・「なるほど、松下がモノづくりが素晴らしいのは理屈では分かった。すごいよ。でも、個人的には何か嫌いなのよ、松下って」(笑)。

 そんな、あっちを向いている方々を振り向かせ、ブランドを好きにさせていくのがわれわれ企業Webプロデューサーの仕事になります。コアバリュー自体は、われわれのような「伝達屋」に作ることは出来ませんが、それをどのように伝達するか・・・料理の仕方次第で、好きになってもらえる可能性は大いにありますからね。

岩城:なるほど、コアバリューを生み出した企業の人格をいかに表現するかが、Webプロデューサーの腕の見せどころ、ということですね。そのような意識で各社の企業サイトを拝見していると、人格を上手に表現していると思えるサイトがありますね。次田さんはどう思われますか?

次田:われわれ家電メーカーでも人格の差がWebサイトに現れているとは思いますが、その話をするといろいろ支障もあるので(笑)・・・たとえば自動車メーカーさんの企業サイトは人格の差が分かりやすく現れてますよね。

 トヨタさんの企業サイトは、どのページも情報量やデザインが均一で、完全に統制されている感じです。さすが、超優良企業という感じ。ある意味、企業サイトのお手本だと思います。

 一方ホンダさんの企業サイトにはファンのコミュニティやお楽しみコンテンツであふれていて、お客と喜びを分かち合うような、自由闊達な社風を感じさせます。

 ニッサンさんは、デザインや広告に力を入れていらっしゃることがサイトを見ても感じられますよね。おしゃれです。

 自動車メーカーの場合、コアバリュー自体がそれぞれ独自のものをお持ちなので、それが自然と企業サイトにも現れているように思いますね。

岩城:そういう企業サイトに現れる表現やイメージの差を各社の担当の方々が意識して作っているかというと、そうではないのでしょうね。人の人格も自然と滲み出てくるもので、違う自分を演出してもいつかメッキが剥げてくるものですが、企業サイトもその企業の人格が巧まずして滲み出てくるものだということではないでしょうか。

 社内にある情報や、その選択の仕方、表現全てについて、担当者の方々が特に意識していなくても社内の暗黙知が反映していて、その結果として企業の人格がサイト上に形成されるということなのでしょうから、Webというのはある意味、取り繕いようのない怖いメディアでもありますね。

次田:もちろん、ディテールの印象の蓄積が、人格を「より良く」見せることもあるとは思うんです。たとえばアメリカの大統領選挙のように、ネクタイの色や目線の置き場所によって見るものに無意識に「この人のほうがイイかな」と思わせてしまうこともあるでしょう。企業サイトで言うと、使う写真やフォント、文章やナビゲーションの分かりやすさなどは、もちろんできる限り「より良く」するべきですよね。

 ただ、岩城さんのおっしゃるように、人格とはズレたネクタイを締めてしまうと、CMではだませてもWebではだませないと考えたほうが良いと思います。企業ブログの炎上なんかも、ネクタイの結び方を間違ったために起こると言ってもいいのかもしれませんね。

岩城:いい点もそうでない点も隠さず生活者に知ってもらうということによって、企業の人格を正確に理解してもらうには企業サイトは最適のメディアということだと思います。

 そうして、企業の人格を感じ取って継続的にサポーターといえるような存在になっていただいていれば、商品やサービスを購入される場合にも第一候補として検討してもらえるでしょうから、結果的にビジネス的な効果も見込めると思います。

 ただ、それを前提として小細工をしていると、賢いユーザーには見抜かれるでしょうから、あくまでも企業の人格を素直に伝える事が重要なのであって、判断はユーザーに委ねる潔さも必要だと思います。

 このように、企業サイトは知らず知らずに企業の人格を表現しているわけですが、そのような中でさらに明確に企業の人格といえるものを表現する、興味深い試みをしている企業サイトがあればご紹介ください。

次田:企業の人格表現を最もストレートにしたものが、社員や経営者が自ら語る、というスタイルでしょうね。社員ブログは情報漏えいなどのリスクも高いですが、そこをちゃんと担保でき、魅力的なネタと文章表現力を持った社員さえいれば、強力な人格表現=ブランディングになりますよね。

 リコーさんの「GR BLOG」やブラザーさんのbrotherhoodなんかが有名ですね。昔であれば、「ナショナルのお店の親切なおにいちゃん」が松下というブランドを築いていた、ということがあったと思うんですが(もちろん今もありますが)、結局、ユーザーと直接コミュニケートする人がブランドを築いていく、ということは昔も今も変わらなくて、今はインターネットを通じて社員がブランドを築くことが出来るようになったということなんでしょうね。

 恥ずかしながら、私も「社員は顔を出すべし!」という理論を実践しなければと、いろんな所に顔を出しています。ブログをやるにはネタが足りないので、ちょい役ばかりなんで、ここでは紹介しませんが(苦笑)。

岩城:あとでコッソリ教えてください(笑)。そして、最近は経営者もネットを通して積極的にユーザーと対話しようとしていますね。

次田:企業サイトの黎明期から、社長の「ご挨拶」ページはありましたが、それは「会社案内」をWebに置き換えただけのものでしたよね。

 画期的だったのはGEでした。エコマジネーションという、環境に関係する事業を紹介するスペシャルサイトの冒頭で、CEOの方がユーザーに向かって身振りを交え、肉声で、そのコンセプトを語りかけます。

 最近では、VOLVOマイクロソフトも同様のスタイルのコンテンツを公開していますね。経営者がブログを持つのが最強の「人格表現」なのかもしれませんが、現実にはなかなかむずかしいですし、PCという1対1のメディアで経営者がユーザー一人ひとりに語りかけるというスタイルは、これまでのメディアではできなかった、インターネットならではの「人格表現」なので、十分画期的なものだと思います。

岩城:社長さんのキャラで引き付け、サポーターになってもらおうというわけですね。でも、日本の企業の社長さんなどは、どちらかというと目立たないのが美徳というようなイメージもあって、あまり出たがらないのではないかと思いますが、そのあたりはどうでしょうか?また、その効果というものも計りにくいですから、説得もたいへんそうですね。

次田:業界にもよるでしょうが、少なくともエレクトロニクス業界はグローバル競争の時代ですから、社長さんも「出たくない」などとは言っていられない時代だと思います・・・という風に説得するのも、Webプロデューサーの役割なんですね(笑)。

 説得のネックはやはり、経営者の世代の方々は、Webというメディアのパワーを実感できていらっしゃらない方が多い、という点だと思います。もしメッセージが伝わるのなら顔を出して語るのはやぶさかではない、しかしWebなんて、そこまでやるパワーはまだ無いだろう、と。その証拠に、雑誌やテレビの取材なら受ける経営者の方は多いですよね。いろんな企業の方々が、どんどんWeb上で顔を出して語っていただくようになれば、波は一気に押し寄せる気がするのですが・・・。

岩城:社長さんが動画でユーザーの目を見ながらコミュニケーションするというようなことはWebでなければできないことですから、どの企業サイトを見に行っても企業の責任者、すなわち社長さんが動画で出演している・・・そのような時代が早く来ると良いと思います。

 次田さん、二回にわたって対談のパートナーをお引き受けいただき、ありがとうございました。

 次回は、岩城が第2回、第3回をまとめた「総集編」をお送りします。

次田寿生 Hisao Tsugita
大学で映像を専攻した後、松下電器産業・宣伝事業部に入社。入社後プライベートで制作した作品が「東京国際ビデオビエンナーレ」グランプリを受賞。博覧会や展示会の映像プロデュースやイベントプロデュースを経て、2001年より企業ブランディングWebコンテンツの開発・運用を担当。
パナソニックの映像キャッチボール広場・p!ks(ピックス)
Experience Color
モノづくりスピリッツ発見マガジン・isM(イズム)
f1.panasonic.com
Panasonic in Action at the Olympic Games