今を去ること14年前に郵政省(現・総務省)で「メディア・ソフト研究会」という研究会がありました。日経コミュニケーション2007年1月1日号の特集で「2010年の通信ネットワーク」を担当することになった筆者は,当時の郵政省としては画期的な議論が交わされていた同研究会の報告書とそれに付帯する参考資料を取り寄せて,原稿執筆の参考に使いました。この報告書の中に当時,「2010年のネットワーク環境」を予測したくだりがあったことを覚えていたからです。

 報告書は,インターネットが一般に普及していなかった1993年当時としては,大胆な内容に踏み込んでいました。例えば報告書の参考資料に,高速な光ファイバ・ネットワークが普及し,ここに通信だけでなく放送も含めてさまざまサービスが統合されるという将来像が描かれていました。しかし当時の郵政省で「放送と通信の融合」は声に出して言うのもはばかられるタブーで,参考資料に掲載する時点でも物議を醸したそうです。

 93年当時から見ると,現在は21世紀の未来そのものに当たります。資料をよく読むと,13年前に予測していた将来像に当たり外れがあります。今ではどちらかというと使われなくなった「マルチメディア」という表現が,資料のここかしこに肯定的な表現として見受けられます。「映像ソフトは,より能動的,主体的利用へとシフトして,個人がネットワークへ発信するようになる」など,今年話題となった動画共有サイト「YouTube」の出現を予知していたかのような表現もあります。

 今回筆者は,3年後を予測する記事を書きましたが,過去に書かれた現在を予測する文書を見直してみるのはかえって新鮮なものだと感じました。なお報告書と参考資料は「ギガビット社会」(三田出版会)という名の書籍として市販されました。現在でも図書館などで閲読できると思いますので,本記事に興味をもたれた方はぜひ探してみてください。

この記事は日経コミュニケーション読者限定サイト
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