デフレ進行と小売店の競争激化という経営環境のなか、日用品卸大手のパルタックは2%台の経常利益率を死守してきた。医薬品卸大手のメディセオホールディングスとの経営統合により、新たに採算性が低い一般用医薬品も扱うことになった。手作業とIT(情報技術)の融合で、採算改善への手応えをつかみつつある。

大阪府泉大津市にあるRDC近畿の外観と出荷スペース。年間約600億円超を出荷
大阪府泉大津市にあるRDC近畿の外観と出荷スペース。年間約600億円超を出荷

 棚に整然と並べられた化粧品、シャンプー、芳香剤などの日用品。その棚の間を、買物カートのようなものを押す女性が動き回る。よく見ると、カートにはパソコンが内蔵されており、無線LANを通して次々と指示が送られてくる。女性は手際よく商品を手に取って、カートに4つ乗せた箱(オリコン)に入れていく―。

 これは、日用品卸大手パルタック(大阪市)の物流センター「RDC近畿」(大阪府泉大津市)での作業風景である。同社はRDCと呼ぶ大規模物流センターを全国に15カ所持つ。

 パルタックの主要顧客であるコンビニエンスストアやドラッグストアなどは、段ボール箱単位だけではなく、1個単位の少量納品も求める。RDC近畿では、手作業とIT(情報技術)の融合で、1個単位で月間900万個以上の商品のピッキングをこなしながら、出荷精度は99.999%(誤配率0.001%)に上る。ここまで誤配が少なければ、納品先の小売店は商品を数え直す検品作業を省略できる。これがパルタックの大きな優位点になっている。「得意先がほかの卸ではなく当社に注文を集中してくれるようになり、取引量が2~3割増えた得意先もある」(丸谷亘・取締役常務執行役員社長室長兼ヘルスケア事業企画担当)

不振の一般薬に先進ノウハウを適用

 2005年10月、医薬品卸の旧メディセオホールディングスと、日用品卸の旧パルタックが経営統合してメディセオ・パルタックホールディングス(メディ・パルHD)が発足した。連結売上高約2兆円に上る国内最大の卸グループである。

 数字のうえでは、売り上げ規模が約4倍のメディセオがパルタックを飲み込んだ形だが、実態は違う。メディセオの事業のうち、病院や調剤薬局向けの医療用医薬品事業は堅調だったが、ドラッグストアなどで販売する一般用医薬品が主力の「ヘルスケア事業」は赤字が続いていた。

 パルタックは、デフレによる粗利益率の低下にもかかわらず、卸としては高い2%超の経常利益率を維持してきた。この優れた物流センター運営のノウハウを取り込み、ヘルスケア事業を黒字化するのが経営統合の大きな目的だった。

 経営統合を経てメディ・パルHDの完全子会社となった現パルタックには、旧メディセオのヘルスケア事業が移管された。パルタックは従来の日用品に加え、一般用医薬品も扱うことになった。

 2006年4月から、実際にパルタックのノウハウを生かして、1つのRDCで日用品と一般用医薬品の両方を扱うようにする一本化が始まっている。医薬品を扱うために法令上必要な機能を追加したほかは、ほぼパルタックの情報システムを流用した。早くもその成果は現れつつある。

 最初に一本化したのはRDC福岡(福岡県志免しめ町)。日用品約1万7000品目に加えて、約6000品目の一般用医薬品を扱う。旧メディセオの物流拠点をパルタック方式に全面改装。従来の16日分程度の在庫水準を増やさずに、3~5%だった欠品率は1%前後まで低下した。納品精度もRDC近畿と同様の水準を実現。1人当たり週10時間程度あった残業はほぼゼロになり、作業時間は2~3割減った。正社員からパート社員への置き換えにより、人件費削減も進んでいる。

 現時点では、小売店側の作業体制などとの兼ね合いで、日用品と一般用医薬品を別々に納品することが多い。しかし今後は、ドラッグストアなど両方を扱う小売店には同時に納品するようにし、さらに効率を上げる。

 2006年11月までに、RDC福岡を含めて4つのRDCで日用品と一般用医薬品を扱うようになった。2007年5月まで全RDCで統合を完了。徐々に効率化を進め、2009年3月期に一般用医薬品事業を黒字化する見込みだ。

●パルタックは独自のIT活用で一般用医薬品の物流を効率化
●パルタックは独自のIT活用で一般用医薬品の物流を効率化
[画像のクリックで拡大表示]

単価300円でも利益出せる仕組み磨く

 「当社が扱う日用品の単価は300円そこそこで、年々価格下落が進んでいる。いかに1個当たりのコストを減らすかを考えてきた」(酒井敏行・取締役専務執行役員情報・物流統括本部長)。現在の仕組みは、長年の改善で磨いてきたものだ。

 以前のピッキング作業はベルトコンベヤーを使って、商品を取る係、値札を付ける係、検品する係などと担当者が細かく分かれていた。現在は、1人が商品を取って検品するまで何役もこなす。ただし、「人手ではすべてを正確にできないので、ITを活用している」(同)というわけだ。これをパルタックでは「完全化」と呼ぶ。今日入ったパート社員でも、すぐに効率よく正確な作業ができるようにしている。

 完全化の大きな武器となっている冒頭のカート「SPIEC(スピーク)」は、パルタックが独自に開発したものだ。小売店からEDI(電子データ交換)で入って来る受注情報を基に、カートに内蔵した小型パソコンに無線LAN経由で指示が飛ぶ。

 パソコンの画面には、ピッキングすべき商品の棚番号や数量が表示される。担当者がカートを押して棚に行き、商品を取ってカートに内蔵するバーコードスキャナーに読み取らせる。すると、カートに積んだ4~6個の箱(オリコン)のうちどれに入れるかを示すランプが点灯。ダブルチェックのために個数をキーボードで打ち込んでから、商品を箱に入れる。ピッキングの順序は、顧客である小売店が商品を陳列しやすく、かつ、カートの移動距離が最小になる順序で自動的に指示される。商品の容積情報から箱が満杯になるタイミングも自動計算し、箱の交換を指示する。

 SPIECに作業内容が自動記録されるので、担当者別の作業効率が分かる。毎日変動する出荷量に加え、作業効率の実績も計算に入れて勤務シフトを組むため、人件費を最小限に抑えられる。

費用対効果を踏まえ機器を改良

 ただし、現行のSPIECでは箱に入れる個数は担当者が数えるため、ごくまれに個数を間違えることがあった。さらなる完全化のために、RDC福岡に導入した最新式の「SPIEC6」では、カートに電子はかりを搭載する。1グラム単位の重量差を識別するため、商品や数量を間違えると自動検知できる。この「重量検品」により、さらに出荷精度が上がった。

 「重量検品は以前から考えていたが、高精度でかつ動くカートでも使えるはかりの価格が高く、実現できなかった」(酒井専務)

 物流の仕組みは、ロボットを使うなど、コストさえかければいくらでも自動化できる。しかし、技術動向を見極めながら徐々に完全化を進めるのがパルタック流だ。

 完全化は、物流部門と情報システム部門が一緒に進めていく。パルタックのIT投資額は、売上高の約0.3%(年間12億円程度)と決して多くはない。次世代データベース「Cache´(キャシエ)」を使って、ほぼすべてのシステムを自社開発。システム担当者を社内に約80人抱える。在庫数だけではなく、センター内のどの場所にあるのかも含めてリアルタイムで管理できる在庫管理機能など、自社に適したシステムを構築している。

 RFIDタグ(非接触ICタグ)の活用も始めた。「まだコストが高く、商品やオリコンにICタグを付けるのは時期尚早」(酒井専務)。そこでRDC福岡では、約2000万円を投じ、担当者の腕にICタグを付ける「RF-MAST」という仕組みを導入した。

 経営統合によってパルタックが新たに扱うようになった一般用医薬品分野は、街の薬局など、従来に比べて小口の販売先が多い。数個のピッキングに大きなカートを使うのは効率が悪いため、手作業で小分けする。間違った棚の商品を取ろうとすると、棚のタグに反応して腕のタグが振動し、間違いを防ぐ仕組みだ。ただし「現状の価格では投資回収に5年かかる」(同)ため、他拠点への導入については慎重に検討しているところだ。

●パルタック(RDC近畿)の商品仕分けの仕組み。人手を使いながら、ITの支援で精度を向上
●パルタック(RDC近畿)の商品仕分けの仕組み。人手を使いながら、ITの支援で精度を向上 [画像のクリックで拡大表示]