Integrated IS-ISは,OSPF同様,大きなネットワークの構築・運用にも適したルーティングプロトコルで,ネットワーク全体をいくつかのエリアに分けてルーティングをする「階層ルーティング」を採用しています。Integrated IS-ISではこれを「レベル」という概念で実現しています。Integrated IS-ISの基本となるレベルルーティングを学びましょう。

レベルルーティング

 OSIプロトコルは,「階層ルーティング」と呼ばれるルーティング手法を採用しています。ネットワークをいくつかのエリアに分けたうえで,エリア内ルーティング,エリア間ルーティング,ホスト-ルータ間ルーティング,ドメイン間ルーティング,という4つに分けてルーティングを実行します。この4つのルーティングは「レベル」として区別します。

 ルーティングのレベルは,0~3の数字で表されます(図1)。

レベルルーティングプロトコル
0ホスト-ルータ間ES-IS
1エリア内IS-IS
2エリア間
3ドメイン間ISO-IGRP,IDRP

 図1 ルーティングのレベル
ルーティングのレベル

 例えば,ES(ホスト)から他ESへのパケットの転送を考えてみると,まずレベル0ルーティングによって,IS(ルータ)へ転送されます。次に同一のサブネットにあて先ESがある場合はそのままレベル0ルーティングによってあて先ESへ転送されます。あて先が同一エリアにある場合は,レベル1ルーティングにより最寄のISへ転送されることになります。あて先が別エリアの場合は,レベル2ルーティングを行うISへレベル1ルーティングにより転送され,そこから別エリアへ転送されることになります。別ドメインがあて先の場合は,レベル1,レベル2ルーティングによりレベル3ルーティングを行うルータへ転送されます。

 レベル2ルーティングはエリア間の転送を担うルーティングです。OSPFではバックボーンエリアのルータが同等の役割を担っています。Integrated IS-ISではエリア2ルーティングを行うルータとその接続回線がバックボーンになります。下図では赤いISとその回線がバックボーンです(図2)。

 図2 バックボーン
バックボーン

 ちなみに,バックボーンは連続していなければなりません。レベル2ルーティングを実行するIS同士の接続が分断されないようにISを配置する必要があります。

ISの役割

 Integrated IS-ISではマルチエリアOSPFでルータに役割を持たせたように,ISにそれぞれルーティングのレベルが決められます。ルーティングを実行するレベルに合わせてそれぞれ,「レベル1 IS」,「レベル2 IS」,「レベル1-2 IS」と呼ばれます(図3)。

名前ルーティングレベルOSPFとの対比
レベル1 ISレベル1スタブエリア内Internalルータに相当
レベル2 ISレベル2バックボーンエリア内ルータに相当
レベル1-2 ISレベル1・2ABRに相当

 図3 ISの役割(ルータのレベル)
ISの役割(ルータのレベル)

 ISはそれぞれのルーティングを行うレベルのSPFツリーとトポロジテーブルを持ちます。つまり,レベル1 ISの場合は所属するエリア内のSPFツリーとトポロジテーブルを,レベル2 ISはエリア間のレベル2 ISとのルーティング用のSPFツリーとトポロジテーブルを持つことになります。レベル1-2 ISは両方のSPFツリーとトポロジテーブルを持ちます。つまり,レベルが異なるルーティングは独立した別の情報を保持することになります。そのため,やりとりするアドバタイズもレベル1とレベル2では異なります。

 レベル1-2 ISは2つのレベルの経路情報を保持します。レベル1の情報をレベル2に再配布し,レベル2ルーティングを行うISはドメインの全てのエリアの経路情報を保持することなります。ただし,レベル1-2 ISはレベル2の情報をレベル1に再配布しません。レベル1へは他のエリアの経路情報はデフォルトルートとして通知します。つまり,IS-ISにおけるエリアはOSPFにおけるスタブエリアに相当します(図4)。

 図4 ISが保持する経路情報
ISが保持する経路情報

ブロードキャストネットワークの代表となる「DIS」

 Integrated IS-ISではレベル1・2の情報をISがアドバタイズします。Integrated IS-ISではアドバタイズされる経路情報をLSP(Link State Packet)と呼びます。LSPはそれぞれのレベルに合わせレベル1LSP,レベル2LSPがあります。

 LSPはポイントツーポイントネットワークでは,ユニキャストされます。一方,ブロードキャストネットワークではマルチキャストされます。そして,ブロードキャストネットワークの場合,OSPFではDRがあったように,Integrated IS-ISではDIS(Designeted Intermediate System:代表中継システム)があります。

 DISは,あらかじめ設定しておいたプライオリティ値が最も高いISが選出されます。プライオリティ値が同一の場合は,最も大きいMACアドレスの値を持つルータがDISに選出されます。

 ブロードキャストネットワークでは,OSPFはDR/BDRとのみ隣接関係を結びましたが,IS-ISではOSPFと異なりブロードキャストネットワーク内の全ISがそれぞれに隣接関係を結びます。DISとだけ結ぶわけではありません。そのため,BDRのようなバックアップ用のDISは存在しません。

 OSPFの場合,DRは配下のルータ(DROTHER)からLSAを受け取り,それをまた配下のルータへアドバタイズします。一方のDISは,自身が保持している経路情報(LSP)を配下の全ISに定期的にフラッディングします。この経路情報を受け取った配下のISは,自分が保持している情報で足りないものがあれば,それをDISに要求します。逆にDISから受け取った情報が古かった場合は,新しい情報をフラッディングします。それにより,ブロードキャストネットワーク内の全ISが,最新の経路情報を保持します(図5)。

 図5 DISによる経路情報のフラッディング

 各ISはこのようにして,自身が所属するブロードキャストネットワークの最新の経路情報を保持します。