日本では、画期的な研究がなかなかビジネスに結び付かないといわれる。「産学連携」「大学発ベンチャー」といったキーワードがもてはやされるが、経営能力の欠如などから、成功例は必ずしも多くない。そんななか、大阪大学発ベンチャーの創晶が好調だ。手堅い事業展開と、関係者の連携を促す心理学手法が成功の秘けつだ。

●創晶の会社概要と沿革
●創晶の会社概要と沿革

 2000年代に入ってから、政府の後押しを受け、「大学発ベンチャー」の設立ラッシュが続いた。しかし、産学連携がうまくいかず、経営難に陥る企業が少なくない。

 そんななかで、堅実な事業化で注目を集める企業がある。大阪大学発ベンチャーの創晶(大阪市)だ。「産学官連携功労者表彰・科学技術政策担当大臣賞」(内閣府など)、「モノづくり連携大賞・特別賞」(日刊工業新聞社)、「日経BP技術賞・大賞」など、各種表彰を総なめにしている。

 創晶は阪大の研究者と三菱商事が出資し、2005年7月に設立された。その名の通り、タンパク質などの化合物の結晶化技術を持つ。顧客である製薬会社から委託を受け、化合物(溶液や粉末)を預かって、独自技術で結晶化。この成果物を製薬会社に提供する。製薬会社にとって、新薬を開発する過程で不可欠だが手間のかかる結晶化を外注できるメリットは大きい。

 創晶は溶液にレーザーを照射したり、撹拌(かくはん)するといった画期的な手法を確立しており、結晶化の成功率は約6割に上る。所要期間も、1カ月程度と通常の半分以下で済む。

 大学発ベンチャーでは、高度な技術があっても、顧客が見つからず売り上げが立たないということがよくある。しかし、創晶は設立2カ月目には単月黒字を計上。設立1年目(2006年6月期)で15社の顧客企業を獲得し、通年では赤字決算だったものの、2年目には早くも黒字化を見込む。

 この背景には、確実にもうかるビジネスモデルを練り上げたことがある。安達宏昭社長は、「一般的な大学発ベンチャーとは違う考え方で、小さくても存続できることを目指した」と話す。安達社長は、3年間の会社員生活の後、阪大へ戻り結晶化の研究と事業化を主導した経歴を持つ。

大阪大学構内に設置されたレーザー照射機と創晶のメンバー。左から森勇介代表取締役、高野和文顧問、安達宏昭代表取締役社長
大阪大学構内に設置されたレーザー照射機と創晶のメンバー。左から森勇介代表取締役、高野和文顧問、安達宏昭代表取締役社長