■コミュニケーションにおいては、「人」そのものへのアプローチだけでなく 、「場」に対するアプローチも大切です。「場」の空気をいかにコントロールするか。会議や打ち合わせなど複数の人が集まる場所ではホンネを出す人と出さない人が現れます。その違いは何でしょうか。昨年から連載させていただいているこのコラムですが、今年もさまざまな理論、ノウハウ、小手先テクニックを紹介していきますので、どうぞよろしくお願いいたします。

(吉岡 英幸=ナレッジサイン代表取締役)


 私の仕事のメインの舞台は、初めての人同士が集まってITに関するさまざまな課題を議論する、ナレッジワークショップという場だ。議論の場とはいっても一応販促セミナー。ギラギラとした営業魂を持ったITベンダーと買い手が同席するわけだが、意外に営業くささを排した率直な議論が交わされる。

 私のクライアントに必ず尋ねられることがある。
「初対面の人同士顔を合わせて、ホンネで話なんてできるの?」

 これに対する私の答えは、次の通り。
「仕事のできる人ほどホンネでオープンにお話してくださいます。ですから、キーパーソンが集まりやすく、販促セミナーとしても効果が高いのです」

 これは、私がこれまでワークショップを通して、1000人以上の方々と議論をしてきた経験値から得られた正直な答えだ。

オープンに話すということ

「よくしゃべる」
「自分をさらけ出す」
「オープンに話す」
 これらはよく似ているようで、全く異なる。

 「よくしゃべる」は単純に言葉の量が多いだけだ。ホンネなのか、そこに重要な情報が入っているのかは関係ない。よくしゃべっているからと言って決して内容があるとも限らない。「自分をさらけ出す」は、主に感情面を外にアウトプットすることだ。これは、会話の相手との関係性に大きく影響される。

 もう一つの「オープンに話す」は、自分の持っている情報を積極的に公開すること。言葉の量に比例しないし、相手との関係性もあまり影響しない。重要なのは「見返り」だ。自分にとってなんらかの得があるか。あるいは沈黙していることで不利があるか。利害やリスクを天秤にかけながら自分の情報アウトプットのスタンスを決める。

自分の成長という見返りがあるか

 こういうと、損得だけの話のように聞こえるが、ビジネスパーソンにとってもっとも重要な見返りとは自分の成長だ。つまり、自分が率直に情報を公開することで、自分の成長につながるのならば、人はとてもオープンになる。

 いわゆる仕事のできる人というのは成長志向が強く、この傾向が顕著だ。私が「仕事のできる人ほどホンネでオープンに話す」というのは、このためだ。

 だからと言ってオープンに話すかどうかは、仕事のできる・できないで決まるのかというとそんなことはない。成長志向はすべてのビジネスパーソンが持っている。仕事のできる人は、その「場」が自分の成長につながるかどうかを嗅ぎ分けるのがうまいだけだ。

 だから、「場」に参加する人全員に、成長につながることを理解させることができれば、オープンな議論というのは可能なのだ。私は、盛り上がらない会議でも、参加者にとって確かに成長の機会になるという印象を与えることで、見違えるように活発になる場面を何度も見てきた。

 「場」を仕切る人間が、参加者のホンネを引き出し、オープンで活発な議論をしたいと考えるなら、「その場が成長につながる」という実感を演出しなければならない。そのためにどうすれば良いのか。具体的な方法については次回解説したいと思う。


著者プロフィール
1986年、神戸大学経営学部卒業。株式会社リクルートを経て2003年ナレッジサイン設立。プロの仕切り屋(ファシリテーター)として、議論をしながらナレッジを共有する独自の手法、ナレッジワークショップを開発。IT業界を中心に、この手法を活用した販促セミナーの企画・運営やコミュニケーションスキルの研修などを提供している。著書に「会議でヒーローになれる人、バカに見られる人」(技術評論社刊)、「人見知りは案外うまくいく」(技術評論社刊)。ITコーディネータ。