ビフォー・ アフター

 1989年創業、2000年上場のインテリジェンス。有能な若手経営者として有名なUSEN社長の宇野康秀氏と現社長の鎌田和彦氏など4人が立ち上げたベンチャー企業は、起業家精神にあふれた人材が集う躍動的な組織だった。ところが上場と前後して業態も規模も急拡大し、社員数600人、売上高200億円の規模まで成長したが、安定志向など多様な思いが交錯した組織のサービス品質は不安定となり、2001年10月~2002年3月に初の中間赤字となった。「窮地を脱するには、経営理念や行動指針を明文化して全社に浸透させることが欠かせない」と鎌田社長は考えた。マッキンゼー・アンド・カンパニーから転職してきた古市知元・常務執行役員とともに、経営陣は理念や指針の浸透策としてブランディング活動を採用。「はたらくを楽しもう」をスローガンに、2002年度以降は増収増益を続け、2006年9月期の決算予想は売上高526億円、営業利益36億円である。


インテリジェンスのブランドを浸透させるための社外イベント。写真左下は、今年7月に買収した学生援護会の求人情報誌
インテリジェンスのブランドを浸透させるための社外イベント。写真左下は、今年7月に買収した学生援護会の求人情報誌

 いまや学生の就職人気も高いインテリジェンス。転職支援や人材派遣などを手がける同社は今年7月に学生援護会(東京・新宿)を買収するなど企業規模は年々拡大し、業績も順調に伸びている。

 しかし2002年春に一度、中間赤字に陥り、経営陣が危機感を募らせた。新規事業が黒字化していなかったせいもあるが、600人を超す企業規模まで拡大したのに、人員数に応じた経営体制が確立されていなかったことが原因だ。サービス品質に大きなばらつきが出たり、業務に非効率な面が目立ち始めた。

 窮状を脱したのは、経営理念のブランディング活動によるところが大きい。まず会社のあるべき姿を討議し、それに基づいたブランドを明文化するプロジェクトを立ち上げ、最終的には全社員がブランドを意識しながら日々の業務を遂行。その結果、ブランド力、顧客満足度、従業員満足度が向上。現在は、4期連続で増収増益の見込みだ。

業界で3つのナンバーワン目指す

 2001年10月から2002年3月までの中間決算が赤字に転落すると分かるやいなや、鎌田和彦社長は「会社の全体デザインを徹底的に話し合い、共通認識を作らないと駄目になる」と直感した。そこで経営陣と一丸になって、会社の存在意義、社員の行動指針、2007年9月期までの事業目標を定めることにした。これらを決めるには、人材サービス会社の競争力と同社の強みは何であるかを整理する必要があった。

 行き着いた答えは「ブランド力」。人材サービスは目に見えない。一度でもサービスを使ってくれた人の頭に「信頼」の二文字を刻み込めるかで、勝負は決まる。良い記憶が残れば、良い噂が広まり、「あの会社のサービスを受けると良い経験ができる」というブランド力が付く。

 経営陣は、2007年までに「ブランド力」「顧客満足度」「働きたい会社」で業界ナンバーワンになることを決断。ブランド力の向上と、顧客満足度や従業員満足度は密接な相関関係にあると考えたからだ。

 当時の同社はブランド力が低く、離職率も高かった。20~30代のビジネスパーソンを2002年7月に調査したら、社名認知度は同業主要9社の中で7位。顧客満足度に直結するサービス内容に対するイメージも、ハイタッチ軸(個々の顧客に親身である度合い)で見れば業界トップだが、機能軸(紹介速度、案件数など)で見ると下位だった。

●2002年に実施した人材サービス企業のイメージ調査
●2002年に実施した人材サービス企業のイメージ調査

ブランディング活動の中心人物、古市知元・常務
ブランディング活動の中心人物、古市知元・常務

 経営陣は、ハイタッチ軸での優位なポジションを維持・向上しながら、機能軸を強化できれば、トップ企業になれると判断した。だが、人材サービスは事実上、マニュアル化できない。基本作法はあるが、品質の良しあしを決めるのは、その場その場の担当者の判断だからだ。

 どうしたらいいか。ブランディング活動のキーパーソンである古市知元・常務は、「(2002年に決めた)会社の存在意義と行動指針を外の人にも分かる言葉に置きかえ、外部に宣言するのが一番という結論に至った。公表することで自分にプレッシャーをかけ、自己変革を起こすエネルギーに変えた」と説明する。つまり、経営理念と行動指針の社内外へのブランディング活動である。

 経営陣が定めた会社の存在意義を要約すると、「人と組織を多様な形で結ぶ『インフラとしての人材サービス』を提供し、社会発展に貢献する」となる。行動指針は「社会価値の創造」「顧客志向」「プロフェッショナリズム」「チームプレー」「挑戦と変革」の5つである。

●初の中間赤字で危機感を抱いた経営陣が経営理念や行動指針を明文化。これを浸透させるためにブランディング活動を徹底
●初の中間赤字で危機感を抱いた経営陣が経営理念や行動指針を明文化。これを浸透させるためにブランディング活動を徹底
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後編へ続く