複雑な系列関係を整理

 次に昨年1月から、下流の物流改革(2次改革)に取り組んでいる。下流の事情はより複雑だ。東京ガスのガス工事は、約150社の協力企業が担当。協力企業は、さらに約1000社ある施工会社に工事を発注し、施工会社が住宅などの現場に行って工事する。施工会社は社員2~3人の小規模事業者が多く、倉庫を持たない。工事に必要なガス管などの工材は、東京ガスが協力企業に卸した物を、工事当日に施工会社が協力企業の倉庫まで車で取りに行く。

 協力企業と施工会社の間には「系列」関係がある。施工会社aの近くに協力企業Bの倉庫があっても、遠くにある自社系列の協力企業Aの倉庫まで工材を取りに行かなければならず、その分1日にこなせる工事件数が減ってしまう。

 他業界でもこうした問題に悩む企業は多いが、取引先は別会社であり、問題解決は容易でない。

 東京ガスはまず情報インフラとして、今年5月、施工会社向け工材受発注システム「TODO君(とどくん)」を稼働させた。施工会社はTODO君の画面から正確な納期を見ながら必要な工材を発注できる。施工会社は1カ月先まで必要な工材を予約できる一方、東京ガスはこのデータを在庫削減や需要予測に役立てられる。

 並行して、協力企業の倉庫を複数の協力企業が共用する「共同倉庫」化を推進している。既に約10倉庫が稼働し、順次増やす予定だ。

●東京ガスの下流物流改革(2次改革)の概要。協力企業に倉庫の共用を促している
●東京ガスの下流物流改革(2次改革)の概要。協力企業に倉庫の共用を促している
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 施工会社がTODO君で発注した工材は、東京ガスから共同倉庫に配送。施工会社は系列関係にかかわらず、最寄りの共同倉庫に工材を取りに行ける仕組みだ。

 商流(系列関係)と物流を切り離したのもポイント。施工会社aが協力企業Bの共同倉庫に工材を取りに行く場合でも、支払いなどの商取引は従来通り協力企業Aとの間で行う。「一般に、既得権である取引関係を変えると抵抗が大きくなる」(ベリングポイントの木村ディレクター)。東京ガスは、実利を取って成功率を上げる道を選んだ。

協力企業・施工会社向け工材受発注システム「TODO君」の画面。在庫数や納期を発注時に確認できる。工材の電子カタログも参照可能
協力企業・施工会社向け工材受発注システム「TODO君」の画面。在庫数や納期を発注時に確認できる。工材の電子カタログも参照可能

取引先にも在庫削減の利点

 この体制は、協力企業にとって、他社倉庫を共用する分、自社倉庫のいくつかを閉鎖することを意味する。倉庫閉鎖はコスト削減につながるが、雇用の問題などから抵抗も少なくない。東京ガスは協力企業各社に綿密なヒアリングを行い、各社の意向を重視して、徐々に共同倉庫を拡大している。

 大手協力企業である協和日成は、2社が合併して成立した経緯もあり、倉庫の統廃合に積極的だ。東京ガスの共同倉庫化の取り組みに沿って、現在7カ所ある倉庫を4カ所に減らすことを目指している。

 協和日成は砧(きぬた)資材センター(東京・世田谷)を共同倉庫として運営。同社以外に協力企業2社が利用する。「利便性が高まって施工会社は喜んでいる。当社にとってもデメリットはない」(協和日成の加藤友三・資材部工材グループマネージャー)

 共同倉庫は、東京ガスからの工材配送便が通常の週2回から、週3回になる特典がある。しかも、施工会社は工材の約8割をTODO君で2~3日前までに予約してくれる。

 多頻度配送と事前予約の相乗効果で、砧資材センターでは3社分の物量をこなしながら、在庫金額が以前の3500万~4000万円程度から3000万円弱まで減った。ほかの2社から手数料も受け取れる。「協力企業にとって、共同倉庫は必ずコスト削減につながる」(東京ガスの柳沢副部長)。今後、協和日成のような先行企業の事例を示しながら、協力企業の参加を促していく。

●東京ガスにみるサプライチェーン・マネジメントのポイント
●東京ガスにみるサプライチェーン・マネジメントのポイント

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