ブランド委員会を設立した

 だが、経営陣が密室で作ったブランドでは社員の心に響きづらい。ブランドコンサルティング会社グラムコ(東京・中央)の山田敦郎社長は「ブランド作りに多くの社員を巻き込むことが大切だ」と指摘する。

 そこで2002年10月に「ブランド委員会」を設立。古市常務をリーダーとし、経営企画部とマーケティング部を中心に10人以上を参加させた。最初の半年間は、じっくり現状調査をし、広告代理店の電通やグラムコに客観的な意見を求めた。

 現状分析は、トップから一般社員までの約100人に入社動機や会社の強み・弱みなどをインタビュー。誰もが会社を良くしたいと強い意志を持つが、方向性はばらばらだった。

●2005年秋までのブランディング活動体制。現在はより若手を中心に30人体制に
●2005年秋までのブランディング活動体制。現在はより若手を中心に30人体制に

 現状分析を終えて2003年4月からブランド作りに着手した委員会は、9月までに「ビジョン」「コアバリュー」「パーソナリティー」で構成するブランドセットを策定した。それぞれ順に「Positive Work Choice」「Fit & Grow」「Intelligence & Humanity」とした(詳細は図を参照)。これらの言葉はすべて、社員インタビューなどから紡ぎ出した。慎重に議論を繰り返し、何十もの候補から選び出した。

●ブランドセットとそれを視覚的に社内外に伝えるツール(右下)
●ブランドセットとそれを視覚的に社内外に伝えるツール(右下)

 ブランドセットを端的にアピールする決定策として「はたらくを楽しもう」というスローガンも作った。「まっすぐはたらく」などの候補もあったが、楽しさや明るさを強く感じさせるほうが、幅広い顧客層に訴求できる。文法面で少し違和感がある点も印象的で良いと判断した。

 その後、ロゴ変更に伴う諸準備や、ブランド小冊子や顧客説明用カードを作成。こうして2004年5月、社外に向けて“ブランド”を大々的に発表した。翌月には本社が入る丸の内ビルディングの1階ホールで、「はたらくを楽しもう」と銘打った社外イベントを2日間開催。著名人や顧客、社員など全国から2000人を集めた。東京駅前にある同ビルは衣と食の流行発信基地として賑わい、宣伝効果が大きい。

ブランドと仕事を職場で議論

 「ブランドに合わない事業には手を出さない、と社長が強固な意志を持つ。また、仕事を通じてブランドを体現しようと努力する若くて意欲的な社員が多い」と、グラムコの山田社長はインテリジェンスの長所を指摘する。多くの社員が真剣に取り組む最大の理由は、「お客様や私たちにとってブランドがどんな意味を持ち、どんな行動をとっていくべきか」を各職場で1~2カ月かけて真剣に議論した点にある。

「ブランドは仕事を円滑にする」と言う荒木史代氏
「ブランドは仕事を円滑にする」と言う荒木史代氏

 この議論に先がけ、2004年3月に「拡大ブランド委員会」を設立。ブランド委員会のメンバーに加え、人材紹介事業本部など6つの本部から担当者を選抜。各現場へのブランドの啓もうと実践を先導させた。そして4月の社員総会で、ブランドを公表。派遣スタッフのカウンセリングなどを手がける事務派遣事業部の荒木史代氏は、「社会にとって価値のあるインフラになろうという主旨のビデオも上映され、単純に感動した。この会社は本気で良い会社になろうとしていると思った」と語る。

 現在、3つのナンバーワン目標を達成しつつある。年2~3回社内意識調査をしているが、「明日転職するなら当社を選ぶ」と答えた社員が2004年7月は60%だったのに、2005年6月には69%に拡大。「ブランドが仕事に良い影響を与えている」と痛感する社員が52%から73%まで増えた。社外調査によると、2005年9月に24%だったスローガンの認知度も、今年2月に38%に到達。人材サービス業界トップとなった。

 鎌田社長は1~2週間に1回、全国の各拠点でオープンランチを開催。「鎌田さんはどんな車に乗ってるの?」といった気軽な会話を楽しみながら、「派遣事業はどうなっていくのか」などのブランドセットに則した話もする。鎌田社長は、トップが一番のブランドの体現者となるべきだという信念を持っている。

●インテリジェンスのブランディング活動による経営力強化のポイント
●インテリジェンスのブランディング活動による経営力強化のポイント

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