レイムダック化したシステムの甦生に関わる人々として,前回までユーザー部門,情報システム部門,CIO(最高経営責任者),そしてトップ・経営陣と取り上げてきた。

 今回は,システムを導入したユーザー企業の外部に存在する人々として,SIベンダーのSE(システムエンジニア)を取り上げてみよう。

 SIベンダーから派遣されたSEたちは,システム完成後引き上げてしまう。そういうSEたちは,構築中にはシステムをレイムダック化(弱体化)しないように関わることができる。しかし本稼働した後,レイムダック化してしまったシステムの再生に関わるチャンスがあるのだろうか。

 以下,SEの「生きがい論」の視点でSEのあり方を分析しながら,SEとレイムダック化の関わりについて検討を試みる。

SEのモチベーション低下が取り沙汰されている

 SEはレイムダック化したシステムの再生に関わることができるのか。このテーマを検討するのは簡単ではない。まずSEを取り巻く状況を,各種調査を引用しながら分析してみよう。

 日経コンピュータ2005年12月26日号特集の調査によると,SEを含む「ITプロ」(コンサルタント,プロジェクト・マネージャ,SE,プログラマー,運用保守など)のうち,前年より「仕事のモチベーションが低下した」と答えた割合は40.5%に達している。戦力として最も期待できる30才代後半でも47.1%と約半数に迫る。そして,転職希望のSEは55.8%にもなる。由々しき問題である。

 同じ調査では,ITプロの「仕事へのモチベーションはどのようなときに上がるか(最大2つまで回答)」という質問もある。これについては,1位が「給与・賞与が増える(46.0%)」,2位が「顧客から感謝される(41.3%)」,3位が「希望する仕事に携われる(30.1%)」。以下「難しい仕事に挑戦する」,「上司に認められる」,「裁量権が広がる」などと続く。

 この特集記事によると,ITプロたちは「時間外労働が多い」ことや「サービス残業が多い」ことに関連して,収入に対して最も大きな不満を持つ。その一方で,「顧客から感謝される」をはじめとする「仕事のやりがい」を強く求めている。

 続いて,「顧客から感謝される」という観点から,顧客のSEに対する要望をうかがうために,ITセレクト2.0の2005年1月号特集「ITマネジメント&顧客満足度調査」を引用してみよう。顧客のSIベンダー選択基準は,「提案力・情報提供力」,「完成したシステムの品質」,「システム開発・保守に対する技術力」,「システム開発のための業務分析力」などが上位を占める。これは,SEに対して要求される能力を示しているとも言える。

 それでは,SIベンダーの営業担当者は自社のSEに対して,どのような不安や要望を抱いているのか。これについては,日経ソリューションビジネス2006年5月15日号の調査結果を引用する。「SEに足りないと思うスキル」として「顧客の課題などを聞き出す力」,「その場に応じた会話ができる力」,「専門知識を生かした積極的な企画提案」が上位3項目となる。

顧客からの感謝はSEのモチベーションアップにつながる

 次に,SEの仕事そのものについて,実務面から若干触れておく必要がある。

 SEの仕事は,SE自体のモチベーションや周囲のSEに対する期待から考えても,多岐に渡る。顧客折衝,要件定義,システム設計(外部設計・内部設計),テスト(単体・結合・統合・運用の各テスト),スケジュール・予算などの管理,そして問題解決などがある。

 以上からSEに求められる,次のような資質がおのずと浮かび上がってくる。

 まず,SEとは「情報システム全体を構築する業務を担う」,「ITソリューションを提供する」などと定義されるが,基本的には「ユーザーの要求を満たす」ことが必須条件である。それが,とりもなおさずSEのモチベーション,すなわち「生きがい」にも通ずることになる。

 それを踏まえて,SEに必要な資質は大きく2つある。「ファンダメンタル・パワー」と,「プロフェッショナル・パワー」である(筆者著「迫り来る受難時代を勝ち抜くSEの条件」洋泉社)。

 前者のファンダメンタル・パワーには,人間としての信用・魅力,コミュニケーション能力などの「人間力」,技術オンリーではなくビジネス感覚も持ち合わせる「ビジネスマインド」,「創造的思考力」などが挙げられる。後者のプロフェッショナル・パワーには,基礎技術・業務知識などの「実務能力」,「コンサルティング力」,「設計力」,「システム責任能力」などが挙げられる。

 SEは,これらのパワーを身に付ける努力を積み重ねることで,キャリアをステップアップさせていくことができ,より充実したSE人生を送ることができる。なかでも「システム責任能力」は「顧客から感謝される」ことに直結し,SEのモチベーションアップにもつながる。

 SEの「システム責任能力」とは,システムのテストが終了したからすべて終わり,カットオーバーしたからシステムとの縁が完全に切れる,ましてやシステム設計が完成したからジ・エンド…,ではないことを意味する。SEが手がけたシステムにお客が満足しているか,責任を持って最後まで見届けることを意味する。

 ここに,システムがレイムダック化した場合,SEがそれと無関係でいられない理由がある。

 次回は「システム責任能力」について詳しく検討しながら,SEとシステムのレイムダック化との関わりを見ていく。


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■増岡 直二郎 (ますおか なおじろう)

【略歴】
小樽商科大学卒業後,日立製作所・八木アンテナなどの幹部を歴任。事業企画から製造,情報システム,営業など幅広く経験。現在は,nao IT研究所代表として経営指導・執筆・大学非常勤講師・講演などで活躍中。

【主な著書】
『IT導入は企業を危うくする』,『迫りくる受難時代を勝ち抜くSEの条件』(いずれも洋泉社)

【連絡先】
nao-it@keh.biglobe.ne.jp