2006年は,WindowsからLinuxデスクトップへ本格的に移行した自治体と企業の事例が出現した。またオープンソース・ソフトウエアを基盤として「Web 2.0」と呼ばれるサービスが成長。日本生まれのRubyが世界的に脚光を浴びた。薄型テレビや携帯電話がLinuxを搭載するなど,組み込み分野での採用も拡大した。

 オープンソース・ライセンスGPL(GNU General Public License)の15年ぶりの新版の草案が公開され,議論を呼んだ。またSunがJavaをオープンソース化し,MicrosoftがNovellと提携するなど,既存の大企業にとってもオープンソース・ソフトウエアはその戦略の中核に組み込まざるを得ない存在であることが鮮明になった。

■WindowsからLinuxデスクトップへの移行事例が出現

写真1 栃木県二宮町役場でのLinuxデスクトップ利用風景

 栃木県二宮町は町役場の事務用パソコンのすべて,約140台をLinuxに移行した。経済産業省の「自治体におけるオープンソース・ソフトウエア活用に向けての導入実証」によるものだが,現在もLinuxを使い続けている。会計や販売管理などWeb業務システムを提供している株式会社ASPも,ISMS認証の取得に合わせ社内のデスクトップ機36台をWindowsからLinuxへ移行した。

  • 「全事務職員がLinuxデスクトップを使用している町役場」は実在する[05/10]
  • 「OSSデスクトップは自治体での実用に耐える」--IPAが導入実験の報告書を公開[07/27]
  • 沖縄県浦添市が全PC約1000台をオープンソースのシンクライアントに移行へ[10/02]
  • 「Linuxは簡単」という小学生は90%,教員は60%---経産省による導入実験,結果公開[05/10]
  • 株式会社ASP,全社員のデスクトップ・パソコンをWindowsからLinuxへ移行[08/22]
  • ■オープンソースを基盤として成長するWeb 2.0

    写真2 ミクシィ CTOのバタラ・ケスマ氏

     2006年は「Web 2.0」が注目を集めたが,オープンソース・ソフトウエアはその基盤として広く使われた。Googleもオープンソース・ソフトウエアを積極的に支援。5月に開かれたイベントでは,当時の経済財政・金融担当相 与謝野馨氏が「日本はWeb 2.0のオープンソース活用競争をリードせよ」と激を飛ばした。

  • Googleとオープンソースの知られざる関係[03/09]
  • Googleの技術者が語る「Firefoxへの深いかかわり」[05/01]
  • Google,Ajaxアプリ開発キットGWTの全ソース・コードを公開[12/13]
  • 「Googleはオープンソース組織を内部に持つ営利企業」---梅田望夫氏が語るシリコンバレー精神とオープンソース[09/02]
  • 【Open Source Revolution!】「日本はWeb 2.0のオープンソース活用競争をリードせよ」---経済財政・金融担当相 与謝野馨氏[05/15]
  • ミクシィのCTOが語る「mixiはいかにして増え続けるトラフィックに対処してきたか」[03/30]
  • はてな,Webのスクリーンショットを作成/表示するサービスをRubyの分散オブジェクトとRuby on Railsの組み合わせで実現[06/12]
  • WEB2.0がRubyを選んだ理由[09/13]
  • ■Rubyがビジネス分野に拡大

    写真3 Ruby開発者のまつもとゆきひろ氏

     日本生まれのオープンソース・オブジェクト指向スクリプト言語「Ruby」のビジネス分野での普及が爆発的に進んだ。David Heinemeier Hansson氏が開発したWebアプリケーション・フレームワーク「Ruby on Rails」はJavaの10倍の生産性とも言われ,柔軟性と開発の短期化を求めるWeb開発に支持された。日本よりも海外に多くのユーザーを持つ。Ruby作者のまつもとゆきひろ氏が在住する島根県松江市が「Ruby City Matsueプロジェクト」を進めるなど,地域の産業振興にも一役買っている。

  • 【日本Rubyカンファレンス2006】「趣味の言語からビジネスの言語へ」---日本初のRuby大規模イベント開催[06/12]
  • 「美しいコードを書けるからRubyを選んだ」---Ruby on Rails作者 David Heinemeier Hansson氏[06/21]
  • 「ブレイク直前のLinux」を思い起こさせるRubyのマグマ[07/05]
  • 「Rubyのメッカに」と松江市長,研究・交流拠点「オープンソースラボ」開設[07/31]
  • 「Rubyを地域資源に」,島根県のIT関連企業などが「しまねOSS協議会」設立へ[07/26]
  • 「オンリーワンが人の心に火をつける」---松江市長 松浦正敬氏がRuby City Matsueプロジェクトを語る[11/21]
  • 「世界がRubyを愛する理由」---ネットワーク応用研究所 特別研究員 まつもとゆきひろ氏[12/21]
  • ■組み込み分野でLinux採用が拡大

    写真4 CEATECで松下電器のブースに並んだVIERA

     ソニーのBRAVIA,松下のVIERA,日立のWoo,東芝のREGZA,そしてシャープのAQUOSといったハイビジョン対応の薄型テレビ。松下のハードディスク/DVDレコーダーのDIGA,ソニーのBlu-rayおよびハイビジョン対応スゴ録。それに,NECおよびパナソニックモバイルのFOMA携帯電話。デジタル家電への数千万台規模でのLinux搭載が進んでいる。デジタル家電の高機能化,ネットワーク化により本格OSが必要とされ,オープンソースの汎用OSであるLinuxがその本命に躍り出ている。

  • Blu-ray,薄型テレビ---CEATECのここにもあそこにもLinux[10/11]
  • 組み込み機器技術展ET2006に「Linuxタウン」出現,ケータイもデジカメもプロジェクタも[11/17]
  • ドコモなど携帯事業者と端末メーカーの6社が、Linuxベースの携帯電話向け基盤ソフトを構築[06/15]
  • 「携帯電話向けOS市場,Symbianの王座は2009年まで」,米調査[02/13]
  • ACCESSが組み込み向けLinuxフレームワークをオープンソース化[10/31]
  • PS3上のLinuxでCellプログラミング,CE Linux Forumのイベントでデモ[12/10]
  • ■GPL v3草案発表,議論を呼ぶ

    写真5 FSF創設者のRichard M. Stallman氏

     2006年1月には,Linuxなどオープンソース・ソフトウエアのライセンスとして広く使われているGPLの15年ぶりの新版「GPL v3」の草案が発表された。デジタル著作権管理(DRM)に関する厳しい姿勢などが,多くの議論を呼び起こした。

  • オープンソースのライセンス新版「GPLv3」の草案公開,「効力を最大化する法的手段」を追加[01/17]
  • Linus Torvalds氏,LinuxカーネルのGPLv3への移行を否定[01/27]
  • オープンソース・ライセンス「GPLv3」の草案第2版を公開,DRMの扱いを明確化[07/28]
  • Linuxカーネルのプログラマの大半が「GPL Version 3」に批判的[09/27]
  • 【インターナショナルGPLv3カンファレンス】「我々はオープンソースとは違う」,FSF創設者のRichard M. Stallman氏[11/22]
  • ■Javaがオープンソースに

    写真6 Javaと同時にオープンソース化されたマスコットDuke(左),右はLinuxのマスコットTux

     OpenOffice.orgやSolarisをオープンソース化してきた米Sun Microsystems。Javaのオープンソース化も時間の問題と見られていたが,ライセンスにSolarisで採用した独自のCommon Development and Distribution License(CDDL)ではなく,GPLを選んだことはSunの意気込みを示すものとして,驚きを持って迎えられた。

  • SunがJavaをGPLv2に基づきオープンソース化,「本当に嬉しい」と“Javaの父”Gosling氏[11/13]
  • Sunが「Java SE」「Java ME」をGPLv2で公開,2007年Q1には「Java EE」も[11/14]
  • SunがJavaのマスコットDukeも“オープンソース化”,こちらはBSDライセンス[11/14]
  • ■MicrosoftとNovellが提携

    写真7 Novell CEOのRon Hovspein氏(左)とMicrosoft CEOのSteve Ballmar氏(右)

     米Microsoftと米Novellは11月2日,提携を発表した。LinuxとWindowsの仮想化や運用管理,オフィス文書などの分野で相互運用性確保を図るという。しかし,この提携にはライセンスや特許訴訟にからむ重大な問題が潜んでいるとの懸念が多く聞かれる。またSamba開発者のJeremy Allison氏がこの提携に抗議し,Novellを退社してGoogleに移籍するという出来事も起きた。

  • MicrosoftとNovell提携,仮想化とオフィス文書でLinuxとWindowsの相互運用性拡大,特許も相互開放[11/04]
  • 長年の争いに終止符?MicrosoftとNovellの提携で揺れるLinux業界[11/27]
  • 「Samba」開発者のAllison氏がNovellからGoogleに,MSとの特許提携に抵抗[12/22]