サン・マイクロシステムズ 末次朝彦 社長

2007年(1月~12月)の情報化投資の動向をどうみるか。2006年と比べた伸び率「%」と、その理由をお答えください。

 情報化投資は、経営の「見える化」を実現していく流れと、ネットワーク上のサービスの進化、充実に向けた投資意欲により、堅調に伸びると考えている。

 具体的には、日本版SOX法、内部統制への対応により、セキュリティ関連製品、とりわけアイデンティティ管理ソリューションをはじめとするソフトウエア製品群、データの生成から廃棄まで、ライフサイクルの各ステージに応じて最適な解を提供するストレージ・ソリューション(ハードウエア、ソフトウエア)が伸びると考えている。

 また、Web 2.0企業に代表されるネットワークを自社の事業に有効活用している企業により、サーバー製品群の需要も高まると考える。

2007年に注目する技術とその理由をお答えください。

(1)Javaテクノロジ
 利用者(エンドユーザー)に提供されるサービスは、利用者側の環境、例えば、家庭用PC、シンクライアント、ゲーム機、セットトップ・ボックス、PDA(携帯情報端末)、携帯電話などに依存しないことが重要であり、サービス提供側がより多くの利用環境にサービスを提供できることが重要な分野と考える。

 このような背景の中、Javaは今以上に重要な技術となる。よりオープンなサービス提供環境として、さらにJavaを進化させるべく、2006年11月にJavaテクノロジをGNU GPLv2ライセンスに基づくフリー・ソフトウエアとしてリリースすることを発表した。現在、Java開発者は500万人以上にものぼり、Java搭載機器も40億台に達した。Javaテクノロジのオープンソース化により、その勢いは加速し、さらなる開発者の増加、様々なサービスの登場、新しいハードウエア・アーキテクチャやOSへのポーティングなど、Javaテクノロジの新しい可能性が切り開かれるだろう。

(2)オペレーティング・システム “OS Does Matter”
 Solaris 10は、2006年のサンの好調さを牽引してきた。仮想化技術、予測的自己診断技術、より強固なセキュリティなど、革新的な技術を搭載しているだけでなく、無償提供、オープンソース化を実施した。その結果、リリース以来、その登録ライセンス数は600万件を超え、オープンソースとして公開されたOpenSolarisコミュニティへの参加者も1万6000人を超えた。この数値からも、Solaris 10がいかに注目を集めているかが分かる。さらに、オペレーティング・システムにかかわる2006年後半の主要ITベンダーの動向からも、オペレーティング・システムが情報システムを展開していく上で、戦略的にいかに重要であるか、“OS Does Matter”であるかが認識されたと考える。

 2007年も引き続きオペレーティング・システムに注目する。

(3)ストレージ
 大規模アプリケーションの開発者にとって、ストレージのアクセス速度や更新速度を最適化することは大切である。詰まるところ、ストレージが正しく機能していなければ、パフォーマンスは限りなく悪くなる。また、運用管理者にとって、統合やコスト削減、バックアップ、複製、業務継続性に目を向けると、ストレージのことを真剣に考慮せざるを得ない。2007年も技術的に重要な分野だと考える。また、サンでは、全く新しいレベルのインテリジェンスとプログラマビリティをもたらす革新的なストレージ・システムを投入していく。

(4)セキュリティ
 個人情報保護への社会的意識の高まりや法整備、各種監査・報告制度への対応など、コーポレート・ガバナンスやコンプライアンスを強化するための厳格な内部統制の仕組み作りが急務となっている現在、セキュアなシステム・プラットフォーム、データおよび監査証跡の管理、アクセス権限管理、ビジネス・プロセス管理、コンテンツ管理などが重要になる。予測不可能な災害や障害が発生した場合にも、事業を継続する(ビジネス・コンティニュイティ)ための災害対策技術も重要と考える。

(5)環境に配慮した製品(エコ・レスポンシビリティ)
 業界の先駆けとして高性能・低消費電力型プロセサ「UltraSPARC T1」や、通常時の消費電力が4W以下というシンクライアント端末「Sun Ray 2」などを製品化してきた。

 さらに、2006年5月にはこの姿勢をより明確にし、環境に対する施策をワールドワイドで強化するため、米国本社内に専任の環境担当バイスプレジデントを任命した。これにより、環境イニシアチブの戦略策定と実践を統括する体制を整え、2007年も全社一丸となった環境対策に取り組んでいく。

2007年を、御社のコンピュータ事業にとって、どんな年と位置付けていますか。

 サン全社としては、“テクノロジーカンパニー”として、開発投資を継続しつつ、黒字化する年にしたいと考える。

 日本市場では、2006年に投入した革新的な新製品をベースに、引き続きパートナー様と共にお客様へソリューション展開を行っていきたいと考える。また、ソフトウエアのオープンソース化戦略により、ユーザーの裾野が格段に広がったソフトウエア製品群に関連するコミュニティの活性化に向けた活動も支援していく。

 日本のIT業界全体としては、「SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)普及の年」にしたいと考える。

2007年に特に強化する事業は何ですか。

(1)ハードウエア(サーバー、ストレージ)
 近年、多くの企業や団体が様々な形で環境問題に取り組むようになった。サンはこれまでも、ビジネスと環境への配慮の両立を目指し、ネットワーク・コンピューティングの新しい時代を切り拓く高性能で革新的な製品の開発を進める一方で、環境問題にも意欲的に取り組み、業界の先駆けとして高性能・低消費電力型プロセサ「UltraSPARC T1」や、通常時の消費電力が4W以下というシンクライアント端末「Sun Ray 2」などを製品化してきた。時代の後押しもあり、2006年は大変好調だった。2007年もその勢いを生かし市場を開拓していく。また、データの「見える化」、「使える化」の流れにより需要が高まると予想されるストレージ・ソリューション(ディスク、テープ、ソフトウエア)も、ストレージ・テクノロジー社の買収により充実した製品ラインをベースに拡販していく。

(2)ソフトウエア
 個人情報保護への社会的意識の高まりや法整備、各種監査・報告制度への対応など、コーポレート・ガバナンスやコンプライアンスを強化するための厳格な内部統制の仕組み作りが急務となっている現在、セキュアなシステム・プラットフォームであるSolaris 10、データおよび監査証跡の管理、アクセス権限管理、ビジネス・プロセス管理などに対応したミドルウエア製品、そして、安全で機動性の高いワークスタイルを実現するシンクライアントSun Rayなどをベースとしたソリューション展開を強化していく。

(3)サービス
 上記のハードウエア、ソフトウエアをベースとした、ソリューションの導入支援、オープンソースに基づくソリューションの導入支援および運用の効率化支援などを強化していく。

(4)ソリューション
 お客様の最大の関心事は、どのようにデータをきちんと守るか、いかにプロセスを可視化するかといった、内部統制、企業統治といったテーマ(ビジネス・ガバナンス)や、IT投資効果を高め、より迅速で柔軟なビジネスを実現するために、事業をいかに合理化するかといったテーマ(ビジネス・エフィシェンシ)である。ビジネス・ガバナンス、ビジネス・エフィシェンシに対応したソリューション展開でお客様にアピールしていきたい。

2006年のコンピュータ事業を振り返って、100点満点で自己採点してください。合格点は何点からか、合格点に満たない場合の不足分は何かについてもお答えください。

 2006年の評価に関しては、お客様とパートナー様の評価を待ちたいと思う。また、全世界のサンの中で、日本の業績はぎりぎりの合格点を取ることができたと思う。合格点が取れた背景には以下の点が挙げられる。

(1)先進技術を搭載した製品ラインの拡充と市場の拡大
 2005年12月に発表したUltraSPARC T1 プロセサ(1 チップで最大 32 スレッド実行可能)を搭載したCoolThreadsサーバとAMD社のOpteronプロセサを搭載したSun Fire x64の売り上げが非常に好調だった。その牽引役となっているSolaris 10もお客様に大変好評で、「やはり、オペレーティング・システムはSolarisですね」というお言葉を何度も頂戴した。

 また、個人情報保護への社会的意識の高まりや法整備、各種監査・報告制度への対応などにより、サンのミドルウエア製品、特にアイデンティティ管理製品の導入が進んだ。

 そして、2005年に買収した、シービヨンド社、ストレージ・テクノロジー社の日本での統合も順調に進み、製品ライン、ソリューション、サービスも格段に拡充した。

(2)オープンソース化、無償化によるユーザーの拡大
 2006年は、3月にUltraSPARC T1プロセサの設計情報をオープンソース・ライセンスで無償リリースしたのをはじめ、開発ツールやミドルウエア群、11月には、JavaテクノロジをJava MEからJava SE、Java EEまでオープンソース化することを発表した。オープンソース化戦略が功を奏し、ユーザー層も広がり、サンの製品、ソリューション、サービスの売り上げも順調に伸びている。

(3)パートナー様との協業
 パートナーの皆様とは、EDA(エレクトロニック・デザイン・オートメーション)関連、シンクライアント、Solaris 10、RFID、グリッド、教育分野、コンテンツ管理ソリューションなど、様々な分野で協業を開始し、非常に充実した1年だったといえる。

 今後、100点になるためには、お客様およびパートナー様の満足度の向上が必要であり、課題は多岐にわたり、たゆまぬ努力が必要と感じている。