日立製作所 古川一夫社長

2007年(1月~12月)の情報化投資の動向をどうみるか。2006年と比べた伸び率「%」と、その理由をお答えください。

 2007年の国内IT市場の伸び率は、前年とほぼ同程度の2~3%とみている。業種別では、2006年に引き続き、金融業と通信業が市場全体を牽引する。金融業は、攻めの経営に転じており、新たな金融商品やチャネルの開発といった、戦略的分野へのIT投資を増やすとみている。通信業では、次世代ネットワーク(NGN)の構築関連投資が継続する。また、コンプライアンスや内部統制関連のIT投資は、引き続き期待している。

 製品やサービス別では、ハードウエア分野はネットワーク機器がNGNの関連投資に牽引されて伸長し、ストレージ・ソリューションも堅調に推移するであろう。ただし、サーバーは、単価下落と低価格機種への需要シフトが続き、金額ベースでは伸び悩むとみている。

 ソフトウエア分野はコンプライアンス強化の高まりを受け、セキュリティや運用管理ソフトウエアを中心に堅調に推移する。サービス分野は、アウトソーシングが安定的に伸長し、業界再編に伴うシステム・インテグレーションの需要が引き続きあるとみている。

 海外は企業活動、資本移動のボーダレス化やBRICs(ブラジル・ロシア・インド・中国などの新興国)の発展が牽引し、好調とみている。ワールドワイドのIT市場は、セキュリティ関連でのソフトウエアやサービス、ネットワークを中心に引き続き伸長する見通し。

2007年に注目する技術とその理由をお答えください。

「ユビキタス関連技術およびセキュリティ技術」
 安全・安心なユビキタス情報社会の実現に向けて、RFIDやセンサー装置、モバイル分野などのユビキタス関連技術に注力していく。流通業をはじめとして、セキュリティや電子決済、交通、アミューズメント、農業、製造管理、物流管理など幅広い分野で、RFIDを利用したトレーサビリティなどの利用が高まっている。

 当社は2001年に世界最小クラスの非接触ICチップ「ミューチップ」を開発し、既に鋼材管理システムや入場券システムなどに採用されている。2006年に終了した響プロジェクトの成果も活用し、今後も、チップとICタグ、ソリューションとすべてを提供可能な数少ないRFIDの垂直統合ベンダーとしての強みを活かして積極展開していく。

 生体認証技術などのセキュリティ技術も重点分野になる。当社は1997年から指静脈認証技術の研究開発を開始して、他社を圧倒する多数の特許を取得している。既に金融機関をはじめ、多くのお客さまから支持を頂いているが、2007年はグローバル事業展開を加速し、デファクト化を目指していく。

「仮想化技術」
 革新的価値の創造のために、ITプラットフォームはその存在に煩わされることなく利用できるように発展するべきと考える。これが「Harmonious Computing」コンセプトの根幹であり、それを支える基本技術が仮想化技術である。当社はこれまでにも、「SANRISE USP」や「JP1」に先進的な仮想化技術を適用してきた。今後、業界に先駆けて仮想化技術を具現化した「BladeSymphony」においても、さらに強化を図っていく。

「Web2.0時代に向けた新技術」
 放送と通信の融合や情報大航海時代の検索技術のように、あふれる情報の中から知的な検索をしたり、あるいは新たな革新的ビジネス・モデルを創出するなど、ITは人間の知的活動を支援する役割が大きくなる。当社は幅広い事業領域を活用してセンシングや検索、解析といった技術を、実社会をターゲットに適用し、ITと実業の融合によるイノベーションを促進していく。

2007年を、御社のコンピュータ事業にとって、どんな年と位置付けていますか。

 2010年に向けてグローバルに成長していく事業基盤強化の年。ストレージのグローバル事業での事業拡大に加え、日立コンサルティングを核にグローバル・コンサルティング体制を拡大する。そして、成長市場での「マーケット・イン」を貫くことを徹底し、グローバル化を推進していく。

 ソリューション事業を強化するため、国内外問わず、お客様、ならびにパートナーやグループ会社と協力して、新たな価値を生み出し、双方にとってメリットのある事業を展開する「協創によるイノベーション」を実現する。

 日立グループがもつ、幅広い事業や技術、ノウハウといったグループ内の多様な経営資源を活用し、自動車機器システムや、都市開発システムなどあらゆる分野でビジネスとITの相乗効果を創出・提供し、成長市場での取り組みを強化する。現状の課題に果敢に挑戦し、「信頼、挑戦、飛躍」をキーワードとしてuVALUEを実践し、社会から信頼される強い日立をつくる。

2007年に特に強化する事業は何ですか。

「プラットフォーム事業」
 オープン化のより一層の進展に伴って大規模・複雑化するIT基盤の統合運用、高信頼性を実現する製品を提供していくことが重要と考えている。サービス・プラットフォーム・コンセプト「Harmonious Computing」に基づいた製品に注力していく。ストレージでは、仮想化技術を中心としたエンタープライズ分野での市場優位性の維持と、ミッドレンジ分野の拡大を目指す。

 また、サーバーでは、「BladeSymphony」の小型高集積モデル、仮想化機構などの技術により、市場競争力を高めていく。さらに、オープン・ミドルウエアを中核とした統合化・仮想化技術にさらに磨きをかけ、「意識せずに利用可能なIT」の実現を目指していく。

各分野別の具体的な注力製品は、
ストレージ:ディスクアレイ・サブシステム「SANRISE USP」
サーバー:統合サービス・プラットフォーム「BladeSymphony」
ソフトウエア:「JP1」や「Cosminexus」などのオープン・ミドルウエア
ネットワーク:通信と情報システムの融合ソリューション「CommuniMax」、ルーター/スイッチ「GR/GSシリーズ」

「ソリューション事業」
 日立の実業ノウハウに基づくコンサルティングとSI力を組み合わせたコンサルティング・ビジネス・モデル(Business consulting & Systems Integrationモデル)により、コンサルティングからSIによる実装を直結し、実現するワン・ストップ・サービスを展開する。

 2007年度は日立コンサルティングを中核としたグローバル・コンサルティング体制強化の効果によるワールドワイドのベスト・プラクティスを国内へ提供する。さらに、指静脈認証システムなど、日本のモノ作り技術やノウハウによる新たなグローバル市場創出を図る。金融分野におけるシステム構築需要増への対応や、当社の経験と総合力を活かした特徴あるソリューションとして、内部統制ソリューションやNGN対応ソリューションなどを展開していく。

2006年のコンピュータ事業を振り返って、100点満点で自己採点してください。合格点は何点からか、合格点に満たない場合の不足分は何かについてもお答えください。

 2006年を振り返って自己評価すると、合格点の分野もあり、不合格点の分野もある。しかし、全体的に見ると、まずまずではないかと考えている。次の成長へ向け、積極的な事業展開に取り組んだ年であったが、事業をやる上でもうこれでいいという合格点はないと考えている。今後は、uVALUEのさらなる深化、ソリューション事業におけるプロジェクト品質向上による収益向上、製品事業におけるモノ作り強化によるグローバルな製品競争力強化を推進し、より一層の事業ポジションの向上を図る。