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日経ニューメディア
編集長
高田 隆

 少し遅くなりましたが,ITpro読者の皆様,新年明けましておめでとうございます。

 日経ニューメディアは,放送業界と通信業界を主にウォッチしている週刊のプロフェショナルレポート(ニューズレター)です。今回は,通信との融合(連携)が本格化して大変革期に入った放送業界の2007年を展望したいと思います。地上波放送と衛星放送,ケーブルテレビ(CATV)の3業界で,これから何が起こるのかを見て行きましょう。

NHK受信料の支払い義務化が政治日程に乗る

 地上波放送に関する総務省の政策で今年の重要なテーマは,NHK改革の推進です。具体的には,(1)インターネット事業の容認,(2)受信料支払いの義務化,(3)ガバナンスの強化,(4)国際放送の強化──といった内容を盛り込んだ放送法改正案が,1月下旬に召集される通常国会に提出される予定です。このうちインターネット事業の容認は,NHKが過去に放送した番組をインターネット経由で視聴者に有料配信できるようにするものです。実際の事業化は2008年になりそうですが,これにより民放事業者のインターネット事業への進出も加速するでしょう。

 現在,受信料の支払いは法律で義務付けられていません。テレビを購入した人がNHKと受信契約を交わすことを放送法で義務付けているだけで,罰則規定もありません。今回の改正案では,受信料の支払い義務を放送法に明記し,支払いを怠った人に対する延滞金制度や割増金制度を放送法で規定することになりそうです。総務省は今回の放送法改正案を,春にも通常国会に提出する見通しです。政府与党も受信料の義務化に前向きですので,順調に行けば今年6月にも改正法が成立し,2008年度から義務化が実現することになるでしょう。

「地上アナログ放送の円滑な終了」に政策の焦点が移る

 地上波放送業界では,地上デジタル放送が2006年12月1日に全国展開されました。今年から総務省の政策の焦点は,「視聴者を混乱させずに,地上アナログ放送をいかにして2011年7月24日までに終了させるか」に移ります。そのために総務省が検討しているのが,デジタルチューナーの購入に対する助成や,段階的な地上アナログ放送の終了です。

 地上デジタル放送の受信機能を内蔵した薄型デジタルテレビは順調に売れていますが,アナログ放送終了時までにすべての視聴者がテレビを買い替えられるとは限りません。そこで,やむを得ない事情でデジタルテレビを購入できない視聴者に対する助成金制度の導入が,総務省で検討されています。STB(セットトップボックス)型のデジタルチューナーを購入する際に,購入代金の一部を国が負担しようというものです。

 また,2011年7月24日に全国の地上波放送事業者が一斉にアナログ放送を終了すると,「急にテレビが映らなくなった」というクレームが放送事業者に殺到する恐れがあります。こうした混乱を防ぐために,可能な地域から順に地上アナログ放送を終了させようという案が,総務省で浮上しています。今年は,これらの制度を導入するかどうかの検討が本格化することになるでしょう。

競争の構図が変わる衛星放送業界

 衛星放送業界では,「競争」から「協調」へと業界の構図が大きく変わります。FTTH回線を利用したブロードバンドサービスについても敵視するのではなく,自社の番組を視聴者に届けるための有力なメディアとして活用する動きが加速します。その典型例が,BS放送事業者のWOWOWの動きです。

 WOWOWは2006年12月1日から,長年のライバルだったスカイパーフェクト・コミュニケーションズのCSデジタル放送「スカイパーフェクTV!」に参入しました。WOWOWのBSアナログ放送(BS-5)と同じ内容の番組が,スカイパーフェクTV!でも視聴できるようになりました。2007年1月1日からは,NTT東西地域会社のFTTHサービスを利用した多チャンネル放送「スカパー!光」でも,スカイパーフェクTV!で見ることができるのと同じWOWOWのチャンネルが放送されています。「本業の衛星放送に軸足を置き,あらゆるメディアで自社の番組を提供する」というのが,衛星放送業界の今年の基本戦略になりそうです。

CATVは生き残りをかけた正念場

 CATV業界では,FTTH回線を利用した「トリプルプレーサービス」を提供する大手通信事業者との競争が激化します。これらの事業者との競争を勝ち抜くための鍵は,(1)M&Aによる企業規模の拡大,(2)多チャンネル放送の番組内容の強化──などになります。M&Aについては,CATV統括運営会社のジュピターテレコム(JCOM)やメディアッティ・コミュニケーションズが,昨年に引き続き今年も加速させるでしょう。通信事業者によるM&Aもありそうです。

 番組内容の強化では,「放送しているチャンネルを減らしてでも,番組の質を向上させたい」(JCOM)という声が出ています。CATV事業者が提供している高速インターネット接続などの通信系サービスはいずれ,NTTグループなどの大手通信事業者との料金競争に追い込まれる公算が大きい。番組供給事業者を選別してでも,CATV事業者の強みである多チャンネル放送の内容を強化して加入者を増やさないと,将来の成長は期待しにくいというわけです。今年はCATV業界にとって,生き残りをかけた正念場になります。

 このように2007年の放送業界は,通信業界を巻き込んだ変革期の真っただ中にあります。何が起きても不思議ではない状況といえます。「日経ニューメディア」はこうした激動の放送・通信業界の最新情報を,より早くより深くお届けしてまいります。今年も,よろしくお願いいたします。