ヤマト運輸は,取り扱い荷物数の増加に伴うセールス・ドライバー増員に合わせ,au携帯電話「E03CA」を7000台導入する。携帯電話にPOS機能を持つBREWアプリケーションを搭載し,集荷・配送業務に欠かせない役割を託す。同機が持つ耐水性や対衝撃性にも大きな期待を寄せる。

 ヤマト運輸の取り扱い荷物数は年々増加の一途をたどり,昨年度は宅急便だけで11億2899万8000個に達している。特に年末などの繁忙期には荷物数が膨れあがるため,集荷や配達を受け持つドライバー(セールス・ドライバー)が臨時増員される。今年末は7000人の予定だ。

 同社はこの臨時増員を中心とした7000人に対し,12月上旬にもKDDIの新携帯端末「E03CA」を配付する(図1)。狙いはセールス・ドライバーが持ち歩く機器のコストを削減すると同時に,屋外という厳しい利用条件でも携帯電話機が壊れるケースを減らすこと。現在は,主にデータ通信手段に使っている携帯電話にPOSの役割を担わせて端末の数を減らし,その携帯電話機も頑強なものにしたのである。

図1●ヤマト運輸は2006年12月に新しい配送システムを導入
図1●ヤマト運輸は2006年12月に新しい配送システムを導入

業務用機器のコストを下げたい

 現在,セールス・ドライバーはKDDIの「A5504T」とポータブルPOS端末,プリンタ,カード決済機からなる機器一式を携行している。

 このうち中心的な役割を担うのは,ポータブルPOSである。伝票に印刷されたバーコードを内蔵スキャナで読み取り,発送元や配送先をPOSの画面に入力。Bluetoothで連携するプリンタから,荷物仕分け用のラベルを印刷する。そして最大15分おきに,ポータブルPOSに入力したデータを自動的に,携帯電話のパケット通信でヤマト運輸のサーバーに送る仕組みだ。

 これにより本社では,ドライバーが送信した「出荷済み」,「配送済み」の情報を含め,配送状況を把握する。また,同社のWebサイトを通じて,こうした集荷や配達の状況を利用客自らが確認することもできる。

 現状の配送システムにおいて携帯電話が果たす役割は,Bluetoothを使って発信できるモデムである。カード決済機を使う際にも,携帯電話はモデムとして使われる。

 だがこの機器一式は,コスト面では課題を抱えていた。前述したように,同社では季節により配送員の数が変動する。お中元やお歳暮の繁忙期に配送員を増やす際,「フルスペックのセットを購入するとコスト負担が大きい。もっと簡易的なセットを作れないか模索していた」(情報システム部システム開発課の野口修一係長)。

「携帯をもっと活躍させられないか」

 そこでヤマト運輸が採ったコスト削減策が,ポータブルPOSの機能を携帯電話に実装すること。12月に稼働するE03CAを含む機器一式には,ポータブルPOS端末の姿がない(写真1)。その役割をBREWアプリケーションとして開発し,E03CAに搭載したからだ。同機は単なるモデムの域を超え,業務端末として機能する。セールス・ドライバーが持ち歩く機器一式は,携帯電話と小型バーコード・スキャナ,プリンタ,カード決済機に変わる。

写真1●12月に追加導入する機器一式(左)と現行の機器一式(右)
写真1●12月に追加導入する機器一式(左)と現行の機器一式(右) [画像のクリックで拡大表示]

 Bluetoothを使って機器同士が連携するのは,現行と同じだ。スキャナでバーコードを読み取り,配達エリアをPOSアプリに入力して配送ラベルをプリンタで印刷する。最大15分おきに,携帯のデータ通信により配送状況のデータをサーバーに送付する点も同じである(図2)。

図2●セールス・ドライバーが持ち運ぶ新しい機器の使い方
図2●セールス・ドライバーが持ち運ぶ新しい機器の使い方
E03CAが中心的な役割を果たす。POSの機能をBREWアプリケーションで実装。Bluetoothでバーコード・スキャナやプリンタと連携したうえで,集荷や配送の情報をオンライン・サーバーに送る。 [画像のクリックで拡大表示]

 携帯電話はQRコード(2次元コード)の読み取りも可能だが,ヤマト運輸が採用しているバーコードを素早く読み取る機能はない。そこでバーコード・スキャナの役割は,小型スキャナに譲る形にした。

 ただし,全セールス・ドライバーの機器一式を今回のセットでリプレースしていく予定は今のところない。「ポータブルPOSは勤怠管理や車両の燃料計算など,すべての業務にかかわる“何でもできるコンピュータ”。当面はメインであり続ける」(経営管理課の稲葉陽子スーパーバイザー)。

 その一方でE03CAを中心としたセットに,「見極めてみてうまくいくと分かれば,受け持ちが配達だけだったり荷物が少なかったりするドライバーなら,携帯電話で賄えるようになるのではとの期待感もある」(同)。ヤマト運輸は携帯電話にポータブルPOSの全機能を託したいわけではなく,ある程度の業務をこなせればよいと見ている。

POSの機能をBREWで開発し搭載

 POSアプリケーションは,ヤマトシステム開発が中心となって手がけ,KDDIが技術面でサポートした。ヤマトシステム開発の北山佳英・システム運用グループマネージャーは,「アプリケーションの機能は同じだが,携帯で実現できたことが大きい。Javaでは主にセキュリティ面で実現しにくく,BREWでないとだめだと判断した」と話す。

 新しい機器一式のコストは非公開だが,A5504Tを使う現行システムに比べて半分程度に抑えられたという。

汗にも強く,衝撃にも強く

 ヤマト運輸の携帯活用には,もう一つ大きな課題がある。携帯電話機の“タフネス性”だ。セールス・ドライバーの仕事場所はもっぱら軒先や屋外。野口係長は,「夏場は汗もかくし,ハードな環境下で携帯電話を使う。正直な話,壊れてしまうこともある」と明かす。そのためKDDIに「汗や衝撃による故障が起こりにくい端末が欲しい」との要望を出していた。

 今回ヤマト運輸が導入するE03CAは,常温で水道水(静水)の水深1メートルの水槽に沈めておいても約30分間浸水しない「IPX7」(旧・JIS保護等級7)相当の耐水性と耐衝撃性を売りにする。同社のセールス・ドライバーにはうってつけの端末となった。

評価次第で導入台数の増加も

 12月上旬の利用開始後は,「セールス・ドライバーが1日の業務の流れを止めずに使えるかどうか,バッテリーの持続時間はどの程度かなどをヒアリングする」(野口係長)。有効性を確認できれば,導入台数をさらに増やすことも視野に入れている。

 野口係長は,以前A5504Tに対し耐久性の要望を出したように,次世代端末への要望も口にする。その一つが携帯電話のメモリー容量だ。E03CAは内蔵アプリケーションが使う分を含めて,62Mバイトのメモリー領域を持つ。それでも,本格的な業務に使えるアプリケーションを動作させるには不足気味だという。「できれば5倍くらい欲しい」(野口係長)。同社の業務で使えるレベルのバーコード・リーダー機能を携帯電話機に内蔵することも,要望として挙げている。