写真1●紅白歌合戦の「ワンセグ審査員」投票画面
ワンセグ初めての紅白で視聴者投票も用意した。資料提供:NHK
 「ワンセグ」のサービスが始まっておよそ8カ月。日本放送協会(NHK)はワンセグにどのように取り組んできて,これからどんなメディアに育てようとしているのだろうか。一つの例として大晦日の紅白歌合戦で,ワンセグを使ったサービス提供と視聴者による勝敗投票を計画している(写真1)。

 BSデジタル放送,地上デジタル放送のデジタルコンテンツ制作に長年従事し,2005年夏からワンセグのデータ放送の総合プロデュースを行っている編成局デジタルサービス部 副部長の田中寛氏に,ワンセグ放送の取り組みと2007年への展開を聞いた。

(聞き手は隅倉 正隆=IT放送技術ジャーナリスト兼コンサルタント)




ワンセグサービスの開始前と現状を比べて,利用者の反応で変化してきた点は何でしょうか?

 総論としては,予想以上に端末の普及ペースが早いことに驚いています。サービス開始前には,楽観的な視点から悲観的な視点まで多くの予想がありました。しかし,携帯電話事業者の協力もあって,極めて早いペースで普及が進んでいます。携帯電話購買者のワンセグに対するニーズの強さを実感しています。非常に大きな期待を感じますし,実際に驚いている点でもあります。

写真2●2007年の大河ドラマ「風林火山」のサイトイメージ
 各論の1つ目は,こうした視聴者の期待がありながら,ワンセグでの放送と通信の利用の仕方に関して,放送局も通信事業者もまだ決定的な答えを出せていないことです。現時点は,トライアルや開発中の状態であることは否定できないでしょう。

 つまり,放送と通信が手を取り合ってサービスを提供する場合に,「どういった事ができるのか」「本当にどうして行くべきか」が,課題として浮き上がってきていると思っています。当初は,もう少しゆっくりとしたペースで端末の普及が進んでいくと考えていました。そして,その流れの中でゆっくり開発しながら,答えを見つけようと考えていました。しかし,現状の普及スピードは想定よりもちょっと速く,それに対してサービスとしての答えが追いついていない印象があります。

 サービスは理想や技術開発だけでうまく作れるものではなく,実際に視聴者の皆さんに使っていただき,さらにその反応を見て開発していくものだと思っています。来年は,こうした行動を素早くやらなければいけないと感じていますし,視聴者の皆さんに満足してもらえるサービス開発に向けて早急な対応が必要と考えています。

 各論の2つ目ですが,これは予想以上に自宅でワンセグサービスを視聴している方が多いとうことです。うすうすこの傾向は把握していましたが,どの調査会社のレポートでも,またNHKによるアンケート結果でも,「自宅視聴」が必ず一番上位の回答を得ていることから実態が裏付けられました。

写真3●「ためしてガッテン」のサイト
 ワンセグは外でテレビを見るものという意識も強くありましたから,こうした現実を踏まえて心の中の切り替え,この現実とどう向き合ってコンテンツやサービスを作るかが課題です。

データ放送コンテンツに関して,視聴者の反応はいかがですか。

 NHKでは,2006年は3つの番組で視聴者のデータ放送利用動向を統計として取っています。この3つの番組とは,毎週日曜日午後8時からの「大河ドラマ(写真2)」,毎週水曜日午後8時からの「ためしてガッテン」(写真3),そして毎週月曜日~金曜日の午前8時35分からの情報番組「生活ほっとモーニング」です。この3番組と特番で番組連動コンテンツの提供を行っています。

 この3番組では,基本的に番組中に連動コンテンツを提供していますが,NHKでは番組を放送している時間帯以外にもコンテンツにアクセスできるような作りにしています。この理由として,視聴者から番組が終わった後からもコンテンツを見たいという要望が多くあることと,プロモーションとして見てもらいたいということです。データ放送は,番組の放送時間という枠を超えて情報提供できるメリットがあり,それを積極的に活用しているのです。