多店舗チェーンにより多色展開が可能に

 さらにホームセンターと差異化を図るために、多店舗展開しているメリットを生かす。それが多色展開である。店内には、青や赤、黄色などさまざまな色の展示車が800~1200台並ぶ。1車種当たり最低でも4色あるので、あさひトータルのSKU(常備在庫品)単位では800以上にもなる。一般的な自転車販売店では1色だけ展示し、ほかの色はカタログから選ぶといったことが多い。あさひは、色違いを見て比べられるように大量陳列している。「効率を考えれば売れ筋の色だけを展示しておくほうがいいが、それでは選ぶ楽しみがない。車種ごとにメリハリをつけた展開を心がけている」と白石課長は話す。

稼いだ利益を人材育成に費やす

 ここでも多店舗展開が生きている。コンテナ単位で輸入しているため1回の発注は約150台にもなる。たとえ1店で1台であってもチェーン全体で見ればまとまった数字が作れる。多店舗展開によって、希少な色でも発注できるようになったのだ。

 収益面でも、PB商品はメーカーからの仕入れ商品よりもよい。同一の性能で比較すると、PB商品は販売価格で2~3割安く、粗利益率は平均15%高い。あさひは、PB商品で稼いだ利益を人材開発に充てる。自転車技士(旧自転車組立整備士)の資格養成である。

●あさひの強みとあさひのプライベート商品の開発と販売の流れ
●あさひの強みとあさひのプライベート商品の開発と販売の流れ
自転車修理コーナー。手際よく作業して大抵の修理なら10分以内に終了する
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ダイエーなど量販店にノウハウと商品を供給

 自転車技士は、自転車の点検整備と安全利用の指導に専門的な技能を持つ人材であることを証明する資格。受験資格として実務経験が2年以上必要で、受験可能な社員のうち8割強が取得している。

 店舗には業務マニュアルを整備し標準作業の方法を提供しているほか、先輩から教えられながら学べる。「毎日さまざまな修理が持ち込まれるので、整備の習熟は格段に早い」(下田社長)という。整備部門が収益を稼ぐだけでなく、若手の鍛錬の場ともなっているのだ。

 育てた人材とPB商品を核に独自の店舗展開だけでなく、ほかの手法も模索している。ホームセンターやスーパーマーケットにある自転車売り場の運営を任せてもらう。人材を送り、供給するだけでなく売り方の提案もする。

 既にダイエーのほか、関東を中心にホームセンターを展開するヤサカ(東京都福生市)の合計60店舗に対して、PB商品の8モデルを中心に商品供給している。このうち、ダイエーの横須賀店は昨年10月からあさひの商品だけを販売している。定期的にあさひの担当者が巡回し、陳列の提案や技術指導などを行っている。今後もこうした店舗を増やしていく考えで、販売力とものづくり力の両輪で300店体制に向けて出店攻勢をかける。


下田 進 社長
しもだ すすむ氏●1948年生まれ。あさひの設立は75年。1992年から父親の跡を継ぎ、社長に

主役を奪われた10年を取り戻したい

 当社が大型店を出店するようになったのは15年前からだ。きっかけとなったのが、私にとって2号店となる大阪府北部の千里への出店だった。GMS(総合スーパー)などの攻勢に遭い、価格競争に巻き込まれ思い悩んでいた時期があった。高価格帯を中心としたプロショップへとシフトした際に、一般車を軒先に並べたら、公園が近かったこともあり売れるようになった。この店の成功で駐車場も備えた大きな店構えでたくさん陳列すれば来てもらえるというヒントを得たのがきっかけだった。

 この10年間で、ホームセンターなどが主体となって売る低価格の自転車が主役となった。そんななか、整備に力を入れることは、人材育成にコストがかかるなど安く売るということに対しては大きなハンデにはなる。

 だが、自転車を雑貨ととらえるか、乗り物ととらえるかの違いだと考えている。こだわりの強い顧客向けの人材教育を強化してプロショップとしてやっていたので、レジを通過した後のアフターサービスこそが重要だと考えているから力を入れているのだ。

 人材教育を強化して専門家をたくさん養成することは、大きな参入障壁になると考えている。次の10年間でホームセンターに取られた販売の主役を奪還していきたい。(談)