国内携帯音楽プレーヤ市場は,2005年度で1000億円を超える市場に成長した(社団法人 電子情報技術産業協会の統計)。それに追随して,PC用や携帯音楽プレーヤ用のパワード・スピーカ(アンプ内蔵スピーカ)も急成長中であり,多数の製品が登場している。松下電器産業によると,このような携帯音楽プレーヤやPC用パワード・スピーカの市場は単価3000円から1万円が売れ筋で,年間200万台以上に達しているという。

 ロジクール(米国ではLogitech)は,本格的なPC用パワード・スピーカ「Z-10」を2006年11月30日に出荷開始した。実勢価格は,2台1組で1万4000円から1万6000円程度。寸法は,幅114mm×高さ246mm×奥行き119mm。重さは3740g(スピーカ本体)。


図1●ロジクールのパワード・スピーカ「Z-10」

 Z-10の最大の特徴は,低価格でありながら高域用と低域用に合計4台のAB級パワー・アンプを装備(バイアンプ)していることだ。バイアンプ駆動は,高級オーディオやスタジオ・モニター・スピーカに使われている方式であり,ダイナミック・レンジを広く取れる,高域での混変調歪の低減にも役立つ,低域のダンピング・ファクタが大きくなり,低域の解像度,明瞭度が向上する,などの特徴がある。

 クロスオーバー・ネットワークを使うスピーカでは,低域のレベルが最大の音量でなくても,高域と低域が混合した状態では,高域をクリップさせてしまうことがある(図2の上)。図2の下では,低域は歪んでいないが,高域が歪んでいる。


図2●クロスオーバー・ネットワークを使ったときの高域と低域の音声波形

 バイアンプ駆動では,アクティブ・クロスオーバー(OPアンプで実現)が低域と高域を分離し(クロスオーバー周波数は1800Hz),それぞれ別々のアンプで増幅する。左右のスピーカで合計4台のアンプが装備されている。

 バイアンプ駆動の利点は,低域スピーカにより大きなパワーを供給でき,劇的に高域の歪みを低減し,よりクリアーな音質を再生できる。クロスオーバー・ネットワークで使用されるL(コイル)やC(コンデンサ)は電力を消費するが,このようなLやCが存在しないバイアンプではストレートにアンプのパワーをスピーカに供給できる。

 図3では,低域は最大出力でも歪がなく,高域も低域の影響を受けずに歪んでいない。


図3●バイアンプ駆動時の高域と低域の音声波形

 フラットに近い周波数特性を得るために,デジタル処理のパラメトリック・イコライゼーションが施されている。

 スピーカ・ユニットは独自に設計したものだ。低域は3インチ(7.62cm)で,エッジにはブチル・ゴムを使用し,大ストロークに耐えられる設計になっている。ボイス・コイルには放熱用の穴が開けられている。高域ユニットは,2.54cmのシルクのソフト・ドーム型である。


図4●スピーカ・ユニット

 箱(きょう体)の設計も音響的な配慮がなされている。


図5●Z-10の箱の内部

 Z-10の周波数特性は,図6に示すようにかなりフラットである。


図6●Z-10の周波数特性(赤の実線)

 アンプの全高調波歪み率は,通常の音量で0.05%から0.1%で,クリップ直前で1%である。ノイズ・フロアは,高域用アンプで-105dB,低域用アンプで-110dBである。

 単一のプロセッサによって,USB入力,A/D変換,DSP計算,D/A変換を行っている。

 Z-10の右側のユニット下部にタッチ・センサー式の操作パネルがあり,楽曲情報,時計,ボリュームなどを表示できる。iTunes,Windows Media Player,Winamp,Musicmatch Jukeboxなどのメディア・プレーヤをこの操作パネルから,次の曲へ,停止,再生などコントロールできる。タッチパネルの外観はなかなか良い。ボリューム調節の反応がやや遅い。

 より低価格のPC用スピーカに比べ,はるかに音質は良い。iPodのライン出力をZ-10のライン入力に接続しても,なかなか良い音で楽しめた。

 Play Station 3のライン出力もゲーム「リッジレーサー7」と,CD/SACDの再生で試したところ,なかなか楽しめた。デザインがPS3と似た質感なのでよくマッチする。PS3のライン出力は,CD(The Well by Jennifer Warnes)の場合,レベルが高過ぎるためか,PS3のCD再生画面で出力レベルを下げる操作が必要であった。SACDでは問題なかった。CD/SACDのハイブリッド・タイトル「The Well by Jennifer Warnes」で,SACDの良さがよく出た。

 対象マーケットが異なるとはいえ,ピュア・オーディオと比較してどの程度の実力があるか試聴した。用いた機材は次の通りである。

・CDプレーヤ Studer D-730
・DAC Assemblage DAC3改
・パワー・アンプ Flying Mole DAD-M100dc+
・スピーカ D.A.S. Monitor 6,ALR Jordan Entry Si

 結果は,ライン入力の増幅度が不足気味であった。

 高音質のオーディオ趣味用の小型スピーカ,例えば,ALR Jordan Entry Siやスタジオ・モニター・スピーカのD.A.S. Monitor 6に比べると,やはり,音の品位は落ちている。だが,アンプ付きで1万4000円程度の実勢価格であることを考えると,かなり価格性能比は高いと言える。

 クラシックでは,管楽器の定位が不自然な感じであったが,全体としては,BGM的には一応は聴けるという感じである。じっくり聴くには,やや力不足だ。弦の瑞々しさが,不足している。

 ポップス系では,山下達郎のボーカルの鮮度に不満が残った。Eric Clapton “Clapton Chronicles”のChange the Worldでは空間的広がりが不足している。同じアルバムのLayraでは,アコースティック・ギターの質感がもう一息である。Wonderful Tonightでは,スネア・ドラムのリムショットの空間的広がりが不足している。Jennifer Warnes “The Hunter”のSomewhere, Somebodyでは,イントロのベースの音が痩せた感じである。

 このようにピュア・オーディオと厳密に比較すると差はあるが,PC用としてはかなり良い音質である。