出勤前に荷物や服装を整えるとき,あるいは次の休暇の予定を立てるとき,気象情報をチェックするのが習慣になっているという人は多いはず。では,この気象情報,どうやって観測,集計されているのだろう。ふと考えてみると,筆者自身,「気象情報を集めるのはアメダス」と知っていても,このアメダスがどんなシステムなのかはよく知らない。

 まずは,気象庁のホームページで調べてみた。アメダスの正式名称は「地域気象観測システム」。アメダスというのは英語名「Automated Meteorological Data Acquisition System」の頭文字を取った略称とのこと。てっきり“雨”に引っかけた名前と思っていたのだが,違うのだろうか。運用開始は1974年11月1日から。ということは,結構歴史は長い。ただ,ホームページでわかったのはこの程度で,具体的なシステムについてはよくわからなかった。

 そこで実際に気象庁を訪ねてみることにした。官庁に取材をすることはよくあるが,多いのは総務省や経済産業省。記者生活6年にして,気象庁に取材に来るのは初めてだ。取材に対応していただいたのは,気象庁観測部観測課の課長補佐の大島広美さんと調査官の鈴木久さん,広報室報道係の宝田司さんである。

全国の観測地からISDN回線でデータを収集

 まずは念のため,アメダスの名前の由来を聞いてみる。ホームページによると英語名の略称ということだが,どうしても“雨”に引っかけた名前なのではという疑念が払えなかったからだ。すると,「確かに雨に引っかけたみたいです」という答えが宝田さんから返ってきた。なんでも「最初,アメダスの英語名はAutomatic Meteorological Data Acquisition Systemだったんです。これを普通に略すとAMDASですよね。でも,当時の観測部長がMの後ろのeまで取れば,AMeDAS(雨出す)になっておもしろいと言いまして,決まりました。その後,正式名称はAutomaticからAutomatedに変更されましたが,略称はそのままです」ということだ。やはりである。

 すっきりしたところで,本題に入った。アメダスはどんなシステムかと聞いてみる。すると,大島さんから「全国に点在する観測所で観測したデータを10分ごとに気象庁のアメダス・センターに集め,解析しています」という答えが返ってきた。

 日本全国には有人,無人を併せて1300カ所の観測所があり,そのすべてで降水量を測定している(写真1)。さらに,このうちの840カ所は降水量に加えて風向/風速,気温,日照も,積雪地帯にある280カ所は降雪量も測定しているそうだ。各観測所には「感部」と呼ばれる各種の測定器と「処理部」と呼ばれるコンピュータが設置されていて,感部で測定されたデータが処理部で処理され,アメダス・センターに送られるしくみになっている。

写真1●福井県福井市にある越廼観測所
写真1●福井県福井市にある越廼観測所
左の柱に感部(各種測定器)が設置してあり,降雨量,風向/風速,温度,日照が観測できる。右に見える白い箱が処理部で,地中を通るケーブルで感部と接続されている。処理部は右の電柱とつながっていて,そこからISDN回線でアメダス・センターに接続する。
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 2001年から運用されている現在のシステムでは,各観測所とアメダス・センターはNTTのISDN回線で結ばれている。伝送速度は16kビット/秒(Dチャネル・パケット通信を使用)だという。「なんだ,結構遅いんだな」と思ったとたん,鈴木さんに「ブロードバンドの時代にしてはとても遅いでしょ」と言われた。心の中を見透かされてしまったようだ。正直に「そうですね」と答えると,鈴木さんは「1回に送る観測データは200~300バイトと小さいし,センターには10分に1回届けばいいのでその速度でも十分なんですよ」と笑顔で話してくれた。ISDNは信頼性が高いので,当面ブロードバンド回線にする予定はないという。

センターでチェックして各機関に配信

 各観測所からアメダス・センターに届いたデータは,センター内の専用サーバーでまず精度をチェックされる(写真2)。観測所はなるべく正確なデータを集めるため,風や日光の遮蔽物や街灯,照明などがないところに設置されている。だが,それでもまれに論理的に矛盾するデータが観測されることがあるそうだ。例えば,夜なのに日照があったり,同じ地域のほかの観測所では雨が降ってないのに特定の観測所だけ降雨データがあるという具合だ。その場合は,システムがほかの観測所のデータなどと照合して論理的にチェックし,矛盾をつぶしてくれる。このあたりは,アメダスを30年以上運用してきたノウハウが一番生かされているところだそうだ。

写真2●アメダス・センター内のルーターと処理サーバー
写真2●アメダス・センター内のルーターと処理サーバー
全国の観測所から送られてきたデータはアメダス・センター内の処理サーバーで分析,処理され,全国に配信される。システムが正常に動いているかどうかは監視サーバーが常に監視している。

 精度のチェックが終わると,気象データはアメダス・センターから気象庁本庁の気象データ集配信システムに送られる。そして,そこから国の防災対策機関や地方気象台,気象業務支援センターへ,さらには地方自治体やメディアなどへと配信されるようになっている。このとき,気象に関する警報や注意報,地震情報などがあれば,それも併せて配信する。

 「アメダスはね,結構レガシーなシステムなんですよ」と大島さんは言う。16kビット/秒のISDNを使うネットワークは,ブロードバンド化が進んだ今のネットワークに比べると確かに遅く,古ぼけたものに見える。だが,全国に張り巡らせた大規模なネットワークを確実に運用する場合,「必要な性能を押さえたらあとはなるべくシンプルで安定性が確認されているものを使う方がいい」そうだ。今の時代はついつい回線速度の向上に目がいってしまうけれど,速くデータを届けるだけが通信のニーズじゃないということだ。


【12月22日15時訂正】記事中,写真1のキャプションにある「福井県越廼村にある観測所」は「福井県福井市にある越廼観測所」の,本文第7段落中「2000年から運用されている現在のシステム」は「2001年から運用されている現在のシステム」の誤りでした。お詫びして訂正いたします。本文は修正済みです。
【1月4日14時訂正】本文第7段落中にある「回線速度は64kビット/秒」は「伝送速度は16kビット/秒(Dチャネル・パケット通信を使用)」,「1回に送る観測データは200K~300Kバイト」は「1回に送る観測データは200~300バイト」がそれぞれ正しい情報でした。また最終段落の「64kビット/秒のISDN」も「16kビット/秒のISDN」に併せて変更いたします。本文は修正済みです。