ユーザー企業での活用に本格化の兆しが見えてきたおサイフケータイだが,ソリューションが高額なのが難点だ。おサイフケータイを店舗などで活用するには,(1)携帯電話に入れるICアプリの開発と配布,(2)バックエンド・システムの構築,(3)リーダー/ライターの店舗などへの導入,(4)POSシステムの改修,といった作業が必要になる。すべて独自に開発すると,中小企業が導入するにはあまりにも高額なコストを求められることになる。

 特にICアプリのコストは負担が大きい。新規開発のコストがかかるだけでなく,新機種が発売されるたびに対応できるかどうかの検証が必要になるからだ。あるユーザー企業の担当者は「複雑な機能は搭載していないのに,検証だけで1機種当たり10万円前後のコストがかかる」とため息をつく。複雑な機能を使うユーザー企業では,さらに高額な検証コストがかかってしまう。携帯電話の発売機種は年々増え続け,今では1事業者で年間数十機種にも及ぶ。おサイフケータイ対応はその一部だが,今後,搭載機種の割合はさらに増えていく。サービスを維持するための検証だけで,年間数百万円から数千万円のコストがかかる。

 こうしたコスト負担が難しいユーザー企業に向くのが,ASP(application service provider)サービスだ。ASP事業者が用意した汎用のICアプリを利用して,配信とバックエンド・システムの運用をASP事業者に任せることができる。ただし,サービス内容はASP事業者が用意するものに限定される。会員証やクーポンなどに使える代表的なサービスは,NECの「トクトクポケット」やソニーの「FeliCaポケット」などがある。

会員証などのアプリを他社と相乗り

図 ASPサービスを使うとICアプリの開発や配布コストを削減できる。図はNECの「トクトクポケット」を利用した例。
図 ASPサービスを使うとICアプリの開発や配布コストを削減できる。図はNECの「トクトクポケット」を利用した例。 [画像のクリックで拡大表示]

 NECのトクトクポケットを例に,ASPサービスの概要を説明する()。このサービスでは,NECが会員証やスタンプカードなどを収納する“カード入れ”に当たるICアプリを配布する。さらにNECは,このICアプリ上でユーザー企業が発行する“カード”の申し込みも受け付ける。つまりユーザー企業から見ると,NECと契約することで,会員証などのカードを汎用アプリであるトクトクポケット上で配布することが可能になるわけだ。

 トクトクポケットを利用する代表的なユーザー企業が,大手コンビニのサークルKサンクスだ。同社のポイントカード「KARUWAZA CLUB」の携帯電話版は,トクトクポケット上で展開されている。NECの奥山祐一ユビキタスソリューション推進本部FeliCaビジネスソリューションセンターマネージャーは,「期間が決まっているような使い方にも向く」とアピールする。導入実績としては,フジテレビジョンのイベント「お台場冒険王」がある。指定された時間帯ならば並ばずに入場できる「優先入場券」を事前配布する用途に利用した。具体的には,顧客が携帯電話にトクトクポケットをインストールした上で,アプリ上でお台場冒険王のサービスに登録。その後,発券場などでリーダー/ライターに携帯電話をかざすと,優先入場券を発行されるという仕組みだ。

 トクトクポケットのアプリケーションには,NECが顧客固有のIDを割り当てている。顧客がトクトクポケットのアプリ上で新たに会員証などを申し込むと,会員証を発行するユーザー企業に対して,NECがトクトクポケットの顧客IDを通知する。ユーザー企業は,トクトクポケットの顧客IDと自社の顧客情報をひも付けて管理する。ひも付けるための手段はいろいろと考えられる。一つは,トクトクポケットのアプリ上で会員証申し込みを受ける際,顧客の情報を入力してもらう方法。ほかにも,事前にカードなどの形で会員証を発行しておき,トクトクポケットでの申し込み時に会員番号を入力してもらう方法などがある。

 顧客がユーザー企業の店頭で利用した場合は,リーダー/ライターを通じてトクトクポケットのIDを読み取ることになる。ユーザー企業はこのIDを使って顧客を識別し,顧客向けサービスを提供する。また,トクトクポケットには,アプリケーションを通じて情報配信やクーポンの配布などを行う機能も持つ。これらのサービスを利用する場合は,ユーザー企業が配信したい情報やクーポンをサービス・センターに登録する必要がある。

 トクトクポケットの料金は月額25万円から。この金額で,ID管理,電子クーポン,情報配信を提供できる。ただし,会員数に応じて料金は変動する。また,トクトクポケットに対応したFeliCaリーダー/ライターの用意やPOS(販売時点情報管理)システムの改修などの初期費用が別途必要となる。

モバイルSuicaのポイント・サービスを活用

 トクトクポケットのほかにも,電子マネー事業者のサービスに相乗りする方法もある。その一つが,JR東日本が2007年6月に開始する予定のSuicaを利用したポイント・サービスだ。Suica電子マネーを利用した決済を対象に,ポイントカードの機能を提供する。

 サービス形態には,ユーザー企業独自のポイント・サービスを導入するタイプと,加盟するユーザー企業共通の「Suicaポイント」を導入するタイプがある。前者のタイプは,ユーザー企業以外では利用できない独自のポイントを発行する。後者のタイプは,加盟するユーザー企業とJR東日本で共通するSuicaポイントを発行する。顧客の囲い込み,新規顧客の開拓などユーザー企業の狙いに応じた使い分けが可能だ。

 ユーザー企業が負担するコストは,二つのタイプで異なる。加盟企業で共通のポイントを発行するタイプは,システムの利用料は不要。ただし,Suicaポイントを発行した分だけのコスト負担が必要になる。一方,ユーザー企業で独自のポイントを発行するタイプは,システムの利用料が必要になる。料金設定は決まっていないが,「かなり低料金にするつもり」(JR東日本の会田雅彦IT事業本部ITビジネス部課長)としている。