12月のある寒い晩,Wiiがわが家にやって来た。

 「よしよし・・・」。届けられた荷物の上に折り重なり,獲物を漁る野生動物のごとく包装紙をはぎ取っていくわが子たちを眺めながら,母(筆者)はある計画を実行に移そうと目論んでいた。「今度こそ,母の権威を復活させて見せる・・・!」

 筆者のつぶやきの真意は後ほどお話しすることとして,任天堂のゲーム機「Wii」の売れ行きの凄まじさは,大方の予想を超えていたのではないだろうか。北米地域では11月19日の発売から8日間で60万台を出荷,日本でも12月2日の発売日に出荷した40万台程度を即日完売してしまった。品薄状態は今でも続いていて,大手量販店でも年内入荷は難しいという。このときとばかりにオークションは花盛りで,Wii本体が定価よりも1万円ほど高い価格で取り引きされているようだ。

 発売早々,リコール騒ぎも起きている。ゲーム中にWiiリモコンが手から離れ,ストラップが切れてしまうという事件が複数起きたため,任天堂がWiiリモコン用ストラップを自主回収すると12月15日に発表した。米国での回収数は200万本ともいわれる。また携帯型ゲーム機の「ニンテンドーDS」「ニンテンドーDS Lite」についても,ACアダプターに不具合があるため無償交換するとのことだ。

親が子供に勝てる「初めてのゲーム」

 出鼻をややくじかれた形になったが,Wiiの快進撃はまだまだ続くだろう。なぜこれほどのヒットになったのか。

 家族みんなで楽しめるゲームというコンセプトをうまく製品化した,と言えばそうなのだが,最大のポイントは,任天堂の岩田聡社長が言うように「お母さんに嫌われないゲームにする」ことに成功したからではないか。嫌われないどころか,筆者の感覚では「お母さんをとりこにするゲーム」なのである。巷では,子供と母親のリモコンの奪い合いが始まっていると聞く。何を隠そうわが家も同じ状況だ。

 「親が子供に勝てる初めてのゲーム機」,それがWiiだ。「Wii Sports」はそのための代表的なソフト。テニス,ボウリング,野球,ゴルフ,ボクシングの5つのスポーツが楽しめるこのゲームは,そのスポーツに習熟した経験者のほうが勝てる,良いスコアが出るように調整されている。既存のゲームのようにコントローラのボタンを複雑に操作するテクニックは「Wii Sports」では必要ない。Wiiリモコンをバットやラケットに見立て,これまで練習を重ねて身に付けてきた「動き」と「戦術」がそのまま生きるのである。

 これをいち早く察知したスポーツ好きの筆者は,Wiiをわが家に受け入れる算段を始めた。これまで散々,家族対抗のゲーム対戦で痛い目に合ってきた筆者が「Wii Sports」なら勝てると値踏みし,「Wiiで母親の復権を果たす」という目論見を立てたのである。

 何を大げさな・・・と思われる読者も多いだろう。しかし,世の母親のゲームに対する恨みは根深いものがある。ゲームに熱中している子供たちを放っておけば,勉強も外遊びもせず,何時間も遊んでいる。「とっとと外に出て遊びなさい!」と,筆者も小学3年の息子と仲間たちを何度部屋から追い出したことだろう。

 このように母親がゲームを嫌う理由の一端には,ゲームの内容に興味が持てないことのほかに,子供と対戦しても絶対に勝てないくやしさも潜んでいる。その点,Wiiの「操作が簡単」「経験が生かせる」という要素は大きい。家庭の主婦を狙ったソフトでは,今後,ダイエット(ヘルスケア)や英会話などの学習ソフトなどが候補として挙がっているが,最初に「Wii Sports」によって「親が経験を生かして子供に勝てるゲーム」を打ち出した意味は決して小さくない。

 Wiiはどのように家族(特に母親)をとりこにして行くのか。わが家のキーワードは「復権」だった。筆者がWiiに託した思いと,事の顛末の一部始終をご紹介しよう。

家族全員をとりこにしたWii。週末の夜ともなればリモコンの争奪戦が始まる