急成長中の不動産会社、四星地所では、従業員数が500人を突破したのを機に、本格的なERPの導入を検討していた。ITに疎い社長は、情報システム部の奥井部長にERP導入を一任した。

 奥井部長は、ライバル企業も導入しているというウワサの大手ベンダー、ジャパンITシステムズの製品が気になっていた。そこで営業担当者に来てもらい、話を聞くことにした。

 さっそくジャパンITシステムズの営業、山下さんは、製品カタログと企業パンフレットを携えて四星地所を訪れた。

 「まず、当社について説明いたしますと、組織はこのようになっていまして・・・」
 「資本金は○△億円になりまして、社長は△山×男と申します・・・」
 「当社の方針は・・・」

 山下さんは奥井部長の顔も見ずに、企業パンフレットを開いて一方的にこと細かな説明を始めた。それが終わると、今度は製品カタログを机に広げた。

 「当社製品の最大の特徴としましては、Webベースで使える・・・」
 「ECやワークフローまで標準機能として搭載しておりまして・・・」
 「常に顧客の視点を持った開発を進めておりまして・・・」

 奥井部長がつまらなそうな顔をしているのにも気がつかず、山下さんは延々と話し続けた。

 山下さんの説明がなかなか核心に触れないので、奥井部長はついに質問してみることにした。「それで御社の製品では、現在当社が使用しているデータベースを移行できるんですか?」

 すると山下さんは、「それは各社の仕様によって事情が異なります。御社については勉強不足のため分かりかねます」と答えるだけだった。

 自社製品のことばかり、まくし立てる営業がいます。なかには、持ってきたパンフレット10冊以上にわたって延々と説明している営業も見かけます。顧客に興味があるのかどうかなどはお構いなしに、まるで“プレゼンテーション・モード”にスイッチが入ってしまったかのようです。

 売りたい気持ちは、よく分かります。せっかく持ってきたのだから、パンフレットに沿って説明したい気持ちも分かります。とはいえ、顧客の顔を見ながら話をするという基本が分かっていない営業は少なくありません。営業には顧客の表情を見ながら、何を必要としているのかを読み取ろうという姿勢が大切なのだと思います。

 「説明してみないと、相手に興味があるかどうかは分からない」と思う営業もいるかもしれません。ならば、説明に入る前に一度、顧客に聞いてみてはいかがでしょうか。顧客が必要としているのは、機能ではありません。本当に必要としているのは、その商品やサービスを導入した結果得られる「効用」なのです。

 その製品やサービスを導入することによって、
・これまでの業務がどう変わるのか
・これまでよりどれだけ多くのメリットがあるのか
・自分の悩みは解消されるのか
・同業他社は導入してどんな効果を上げているのか
ということを聞きたがっているのだと思います。

 これらのことを質問すると、「御社のケースについては分かりかねます」と答える営業がいます。このような対応をしていれば、親身になって対応してくれないと顧客から思われても仕方ありません。

(川口 克己=日揮情報システム

著者プロフィール
1984年法政大学卒業後、日揮情報システムに入社。管理部門、営業部門、マーケティング部門を経験。現在、日揮情報システムと日揮情報ソフトウェアに在籍。日揮情報システムでは、営業本部J-SYSグループマーケティング統括部長。著書に『IT営業現場・面と向かっては言えない22のホンネ』(IDGジャパン)『面と向かっては言えない22のホンネ―知ってビックリ相手のキモチ』 (サンブックス刊)がある。