クレディスイスファーストボストン証券株式調査部アナリスト 福川 勲 氏 福川 勲 氏

クレディ スイス ファースト ボストン証券 株式調査部アナリスト
アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア),大和総研を経て現職。現在,情報サービスセクターの株式調査を担当。

 上場ITサービス各社の2006年度上期決算が出そろった。当社が継続して業績動向をウォッチしている主要73社ベースでは前年同期比7.3%の増収,26.0%の経常増益となった。前上期が0.5%の減収,4.2%の経常増益であったのと比較すると,情報化投資の活発化がITサービスセクターの各社の業績に,素直に反映される結果となったと言えよう。

 この好調な中間決算を好感し,当社が算出している「クレディ・スイス情報サービス株価指数」は,今年6月半ばから10月末にかけて約17%上昇。同期間のTOPIXの上昇率7%を大きく上回る結果となった。

 2006年度上期の最大の特徴として挙げられるのは,業績のけん引役が下請け的な企業が多いソフト開発会社から,元請業者が多い大手SIerに移ったことである。中でもNTTデータ,野村総合研究所,伊藤忠テクノソリューションズ,CSKホールディングスなど最大手企業の好調さが際立った。大手SIerの好調が目立ったのは,(1)中堅ソフト開発会社と比較して2005年度中間期の業績が比較的低調だったこと,(2)外注比率を上昇させることで増員率以上の生産能力拡大が可能だったこと,などが理由と当社では分析している。

 一方,2005年度上期に先行して業績回復局面を迎えたソフト開発会社は,有償稼働率がほぼ上限まで達したことが響いた。各社の増員率はおおむね数%にとどまっており,業界全体にまん延するSE不足で思うような人員確保が進まず,機会損失が発生するケースや外注単価上昇が利益率低下を招くケースがみられた。

 同じ主要73社ベースの2006年度通期予想の集計値は7.4%の増収,17.3%の経常増益となり,引き続き好調な業績推移が見込まれている。

 直近では,民間設備投資の先行指標である機械受注統計の減速がみられるなど,拡大局面が続いてきた国内景気にも不透明感が漂い始めている。しかし,中間決算後のITサービス各社に対する取材では,足元の受注の鈍化を指摘する声は皆無だった。ITサービス市場が機械受注統計に対して,半年から1年程度遅行する傾向があることを踏まえると,少なくとも2008年3月期までは良好な市場環境が期待できる。

 その一方で,ITサービス市場の拡大には天井が見えつつあることも見逃せない。経済産業省の「特定サービス産業動態統計(特サビ)」によると,直近の2006年度第2四半期(2006年7月-9月)の業界売上高成長率は前年同期比1.2%と,同第1四半期(2006年4月-6月)の同5.6%から大幅に鈍化した。2005年度第2四半期の伸び率が3.4%だったため,比較的ハードルが高くなったことも響いた。

 この事実が示唆するのは,受注環境は好調であるとはいえ,ITサービス各社のキャパシティには,さらなる拡大を達成する余力がさほど残ってないということである。特サビの業界常用就業者数の伸び率はほぼ横ばいになりつつあり,来年度は「SE不足問題」がより深刻化するとみられる。

 この需給バランスを反映し受注単価が広範囲で上昇しない限り,2007年度のITサービス業界の成長率はやや鈍化に向かうだろう。11月以降のITサービスセクターの株価の低迷は,この点が意識されているためとみている。