ファイル交換ソフト「Winny」を開発した金子勇被告に対し,京都地方裁判所は有罪判決を言い渡した(関連記事)。これに対して,賛否両論さまざまな議論が巻き起こっている。筆者の考えを先に述べると,判決理由や量刑などを勘案すると妥当な判決だとは思う。ただし,どこか釈然としないものが残るのも確かだ。

 議論の中には,「HTTPサーバーやSMTPサーバーの開発者も同じではないか」,「包丁を作った人が殺人罪のほう助になるのか」などというものがあるが,それは違う。判決の趣旨を読むと,「技術自体の価値は中立的で,技術を提供すること一般が犯罪行為となりかねないような無限定なほう助犯の成立範囲の拡大は妥当でない」と明確に記されているからだ。ではなぜ金子氏は有罪となったのか。地裁が問題としたのは,「著作権者の有する利益を侵害するであろうことを明確に認識していたにもかかわらず,ウィニーの公開,提供を継続していた」こと。つまり,開発に問題があるのではなく,運用形態に問題があったということだ。

 金子氏は,「Winnyの公開に当たって違法なファイルのやり取りはしないでほしいと注意した。(ソフトの違法コピーなど著作権の侵害を)あおるようなことは間違いなくやっていない」と発言している(関連記事)。それに対して,地裁も「ウィニーによって著作権侵害がネット上にまん延すること自体を積極的に企図したとまでは認められない」としている。

 しかし開発者であるからこそ,金子氏にできた対策はあっただろう。匿名性を制限するような改修をWinnyに施すこともできたはずだし,著作権を侵害する行為に広く使われていると認識した時点でWinny自体の公開を取りやめることもできた。それを放置したからこそ,罪に問われたのだ。ただ「まん延すること自体を積極的に企図したとまでは認められない」などの点を考慮し,懲役1年の求刑に対して判決は150万円の罰金刑となった。金額の多寡は別にして,罰金刑というのも妥当な線だろう。

 とはいえ,冒頭に述べたように筆者には釈然としないものが残った。それは,著作権法違反のほう助と呼べそうなものはWinny以外にも数多くあり,しかもそれで利益を得ている企業があるにもかかわらず,それらに関しては黙認されているかのように見えるからである。「法の下の平等」に反するのではないかと感じるのだ。

 例えば,世の中には「画像安定化装置」なるものが開発,製造,販売されている。この装置の本来の目的は,ビデオのダビングなどの際の画質を改善するというものだ。しかし中には,ほとんど「コピーガード・キャンセラ」として販売されているものもある。もちろん販売者はその点を大々的にうたってはいないが,購入者の多くはコピーガード・キャンセラとして認識している。上記判決に照らし合わせれば,有罪の可能性は高いといえないだろうか。私的利用の複製であっても,コピーガードを外す行為は著作権に反する。しかし画像安定化装置の販売者が摘発されたという話はあまり聞かない。

 また筆者は,レンタルビデオ店がDVD-Rメディアを販売することもどうかと思う。コピーガードのかかっているDVDでも,フリーソフトなどを使えば容易にリッピング(パソコンに取り込むこと)でき,DVD-Rに複製できることはよく知られていることだ。著作権侵害のほう助の罪に問われるかは別にしても,販売店が違法行為を助長していると言われても仕方ないだろう。

 このように,著作権侵害を「助長」する行為は世の中にあふれているにもかかわらず,ほう助罪に問われるケースは少ない。ただ単にWinnyの場合は「目立ちすぎた」というだけなのか。

 金子氏は判決当日にすぐさま控訴した。高裁ではこうした点も含めて判断し,きちんと説明をしてもらいたい。