本連載ではリッチ・インターネット・アプリケーション(RIA)開発におけるマネジメント領域の課題とその解決策というテーマで,RIAコンソーシアムのマネジメント分科会における研究結果をもとにいろいろな面から考察してきました。最終回である今回はRIA開発が求める人材像について考えてみたいと思います。

Web制作会社の採用情報でよく見かける募集職種

 筆者は仕事柄,Webディレクターやシステム・エンジニアの採用に携わることがよくあります。そうした中で「募集内容をわかりやすく伝えるには,どんな説明文にすればいいのだろう? より魅力的な仕事と感じてもらうための文章とは?」と,募集要項を考えるための参考として,ほかのWeb制作会社の採用情報を見ることがよくあります。各社の採用情報は業界内でどんな人材が求められているのかを把握でき,その情報は若いメンバーのキャリア形成をサポートするうえでも有益な情報でもあります。

 募集要項の募集職種で「デザイン・エンジニア」「フロントエンド・テクノロジスト」「インタラクション・デザイナ」なる職種名が目につくようになりました。その言葉だけでは仕事内容が想像し難いそれらの職種,職務内容,応募資格を見てみると,「JavaScript,Flash Action Scriptのオーサリングや設計」を主とした職務内容で,「その実務経験,知識を有する者」となっているケースが多いようです(図1)。

図1:デザイン・エンジニアの募集要項の例

 Web制作会社の募集職種と言えば「Webディレクター」「Webデザイナ」「システム・エンジニア」がお決まりでしたが,Ajax,Flashなど,RIA開発に用いるテクノロジの使い手は,これら従来の募集職種には当てはまらないようです。

デザイン領域とシステム領域,両方の経験とスキルが求められる

 以前にこの連載で,RIA開発ではデザイナにシステム的な思考やシステム開発スキルが求められ,システム・エンジニアにはデザイナ領域まで踏み込んでいくという役割の拡大が求められる,と書きました。先ほど例に挙げた募集要項を見ても,Web業界でのエンジニア経験,フロントエンドの経験とサーバーサイド・テクノロジ,デザイン領域,システム領域の両方の経験とスキルを兼ね備えた人材が求められています。

 しかし,デザイナとエンジニアの両方の経験を短期間に積むのは至難の業でしょう。また本人の志向の問題もあります。「そもそもシステムに興味が無い」「デザイナはデザインセンスのある人しかできない別世界の領域」と言ったように。

 では,どのような人がRIA開発の担い手となるのでしょう?

自ら領域を広げられる人

 例に挙げた募集職種に応募できるFlash Action Scriptの使い手たちは,最初はデザイン表現の手段としてFlashを習得し,次々とバーションアップするFlashの機能拡張を追いかけていくうちにエンジニア領域に踏み込んできたという人が多いのでは,と思います。  筆者が出会ったFlashやAjaxエンジニアの多くは,現在保有しているスキルにしがみつかず,新しい技術に挑戦し自身のスキルの幅,仕事の領域が広がることに純粋に喜びを感じる人達でした。必要なスキルや作業範囲が広範囲にわたるRIA開発に取り組むには,まず,「自ら取り組み領域を広げられること」が求められるのではないでしょうか(図2)。

図2:自ら取り組み領域を広げられる人

のりしろを持てる人

 本連載ではRIA開発における課題を,コミュニケーション,体制,プロセス,見積もりという側面から考察してきました。共通して言えるのは以下のような考慮点です。

  • 担当者の作業範囲,求められるスキルが広範囲
  • 異業種混合の開発体制
  • お客様も含めたプロジェクト・メンバー同士のコミュニケーションが重要

 RIA開発プロジェクトを成功に導くためには,担当者間における役割の相互理解と密なコミュニケーション,プロジェクトのゴールを共有する一体感が重要であることを述べてきました。その中でプロジェクト・メンバーの各々に求められるのは,自分の領域から一歩踏み込んで相手を理解することだと考えます。デザイナはエンジニア領域へ,エンジニアはデザイナ領域へと,お互いが“のりしろ”を持ったコミュニケーションを行う意識が重要となるでしょう(図3)。

図3:のりしろを持てる人

RIA開発は絶好の成長機会

 RIA開発が求める人材像をスキルセットではなく,持つべきマインド,スタンスにフォーカスし考えてみました。「自ら領域を広げる」「のりしろを持てる」,このようなことは何もRIA開発に限ったことではなく,技術を要する職業に携わる者すべてに必要な基本要素であると思います。

 RIA開発は求められることが多種多様であること,異業種混合の共同作業といった状況だからこそ,そのような基本要素が携わる者一人ひとりに強く求められるのです。要求スキルの多様性,異業種間でのコミュニケーション,複雑な開発工程,そして新技術,RIA開発は難題が多くの苦難なプロジェクトとなるケースが多いでしょう,しかしそれはきっと携わる者すべての成長につながる絶好の機会となるはずです。

 RIAに携わる方々の成長とRIAという技術によって一つでも多くの価値あるWebサイトが世の中に誕生することを信じつつ本連載を終了したいと思います。ご愛読ありがとうございました。