システムと台帳を突き合わせ
もちろんショップ自身が情報活用に積極的にならなければ意味がない。販促を主体的に行うのはショップだからだ。そこで東急はショップの店長のデータ活用を促し始めた。例えば、担当者とショップ店長とが毎週行うミーティングの中身も変わってきた。これまでは商品の消化率などまず商品ありきの議論が中心で、得意客をどうつなぎ留めるのかには力点が置かれていなかった。
本店で紳士服売り場を担当する神澤秀明統括マネジャーは、ショップの店長と話し合う際に、CSPシステムにある情報を持ち込む。そして、店長とそのショップにおける得意客へのアプローチ法を一緒になって考えていく。
CSPシステムで把握できる情報は「ジャケットやシャツ」など商品分類までしか分からない。ショップが管理する顧客台帳には色などより詳細な情報が含まれているので、それらと突き合わせる。そして、「顧客一人ひとりへの攻め方を考えていく」(神澤マネジャー)。
得意客のうち、次回の販促でターゲットとなる顧客について動向を掘り下げる。例えば、得意客100人から「前年購入履歴があるのに今年はない」といった離反しそうな顧客を取り出す。
得意客を維持するためには、顧客一人ひとりのニーズは異なるため画一的な提案をしても意味がない。DM発送も一度に大量に出さず、1回当たり10~50通に絞り込む。狙った顧客が必ず来店してもらえるように取り組むのだ。
売り上げ増の命綱にまでなる
加えて、顧客を理解していることを示すために、得意客をショップとして迎える体制を築く。神澤マネジャーは1日に数回ぶらりと店内を回る。そこでショップの店員に声をかけて聞くのが、「あのお客様誰だか分かる?」という一言だ。
得意客の顔と名前を、店長や一部の店員だけが把握しているだけでは不十分。全員で共有しているかどうか確認する意味で行っている。「全員が理解できる店舗運営をしていかないと、知っている担当者がいなければ帰ってしまう」(森下マネジャー)。これが何回か続いてしまえば離反してしまう可能性が高まる。全員が得意客を理解している店作りが重要になる。
こうした取り組みが功を奏して、得意客の維持率が向上した。「いまではショップの店長からCSPシステムが売り上げ確保の命綱だと言われるまでになってきた」と神澤マネジャーは語る。
●CSPシステムの推進体制 [画像のクリックで拡大表示] |
売れない店ほど消極的
神澤マネジャーによると、顧客維持への取り組みは売り上げが好調なショップほど積極的だという。一方不調な店の顧客動向を分析すると、得意客が離反しているケースが多い。東急の売り上げの底上げには、不調なショップへの喚起が必要不可欠となる。
こうした店ほど、顧客情報はショップにとってマル秘情報であり各社が独自に集めるものだと考えていることが多い。だがショップ同士で得意客が重なっていることが分かった例が出てきた。カードを軸に分析すれば売り場全体の動向が分かるため、顧客への提案の幅が広がる。
実証したのが、化粧品売り場だった。CSPシステムで顧客の動向を分析してみると、各ショップの得意客が重なっていることが分かった。口紅やアイシャドーなどの購入ブランドを季節ごとに変えているケースが少なくなかったのだ。
そこで6つのショップが年4回、合同で販促を展開したところ、年間5万円以上購入する得意客が前年比約10%で伸び続け、売り上げも前年比10%ずつ増えた。子供服でも同様の成果が表れたという。こうした取り組みが成功したことで、不調なショップでもCSPシステムへの関心が高まっていった。
さらに、新しい取り組みも始めている。昨年9月から本店で買い物の相談にマンツーマンで乗るサービス「ゲストソリューションズ」を始めた。あらかじめ予約しておけば、カードの履歴から顧客の好みを把握して商品を提案する。何でも相談できる窓口があれば、得意客の東急における購入比率も向上する。差異化できるサービスを展開することでさらなる固定化を狙う。
渋谷の本店で始めたコンシェルジュサービス「ゲストソリューションズ」 |
●東急百貨店における業務革新のポイント |