2万円未満で買える30W+30W(4Ω)のD級アンプがある。ラステーム・システムズのRSDA302というアンプだ。「RSDA302P」と「RSDA302U」の2種類があって,RSDA302Pは光デジタル入力1系統とアナログRCA入力1系統を装備し,RSDA302UはPCのオーディオ・デバイスとして使用するためのUSB端子1系統とアナログRCA入力1系統を装備している。


図1●ラステーム・システムズのRSDA302P


図2●RSDA302Pの端子

 大きさは,幅150mm×高さ35mm×奥行き90mm(突起部含まず)と小型で,重さは約600g(本体のみ,付属品含まず)と軽い。

 RSDA302Pの光デジタル入力は,24ビット/48kHzまで対応している。RSDA302UのUSB入力は,16ビット/44.1kHzまで対応している。Windows 98SE,Windows Me,Windows 2000,Windows XP SP1以降,Mac OS X 10.1以降で利用できる。ライン入力は24ビットのA/Dコンバータによってデジタル信号に変換される。低域,高域のトーン・コントロールが可能である。


図3●ラステーム・システムズのRSDA302U


図4●RSDA302Uの端子

 出力は,30W+30W(4Ω,DC18V 5A時)。周波数特性は,20Hz~20kHzで,ライン入力の感度を-15dBm~+3dBmに変更できる。電源電圧はDC+11V~DC+20Vで,電源アダプタは別売り(4095円)である。本体は1万9945円である。電源はスイッチング電源であることが必須である。安定化電源を使うとハムが出てしまう。

 音質はごく普通で,変な色づけはない。低能率の小型スピーカでも十分鳴らせる。テストしたスピーカの中で,ALR Jordan Entry Si,DIAPASON ADAMANTES IIIでは問題なく動作したが,D.A.S. Monitor 6では,クロスオーバー・ネットワークとの相性のせいか,正常に音が出ず,ノイズが発生した。RSDA302UをPCに接続すると,なかなか良い音で楽しめる。


図5●RSDA302Pの構成


図6●RSDA302Uの構成

 このアンプの心臓部は,Apogee Technology社製「DDXi-2101」というICである。このICにかかわる技術をSigmaTel社が2005年10月にApogee Technology社から取得した。ワンチップで,デジタル・オーディオ処理,デジタル・アンプ(D級アンプ)のコントロール,アナログ出力段を実現している。特徴はデジタル・データを直接入力でき,DAC(D/A Converter)が不要なことである。アナログ信号はデジタルに変換して入力する必要がある。

 DDXi-2101は,2.1チャンネル(2×30W4Ω+1×60W6Ω)やモノラル・モード(120W4Ω)で動作させることも可能である。だが,RSDA302にはこれらのモードは実装されていない。ステレオ・モードでは,ICとしては2×60W(8Ω)の出力は出せる。

 DDXi-2101には,BBE(基本波に対して遅れた高調波成分を基本波の前に移動し,波形を自然界の音と同じ構成とし,次に減衰しやすい高域を若干ブ-ストすることで,より自然に明瞭度を回復させる技術)や,BBE+ViVA(ステレオ・スピーカで3次元的な音響効果を再現する新しい3Dサラウンド技術),QXpander(ステレオ・サウンドを3Dステレオ・サウンドに変換する技術)が実装されているが,RSDA302ではこれらの機能は利用できるように設定されていない。

 RSDA302にはヘッドフォン入力がないので,ラステーム・システムズ社長の三上 忠道氏が考案したヘッドフォンを使えるようにする回路を紹介する。


図7●RSDA302でヘッドフォン出力を可能にする回路

 抵抗2個と小型トランス2個,ヘッドフォン・コネクタで実現できる。これでヘッドフォンが使えるようになったので,iPodの音を聴いてみた。iPodにiPod Dockを接続し,Dockからのアナログ出力をRSDA302に入力し,ヘッドフォンに接続した。iPodのヘッドフォン出力に比べてドライブ能力が高いので,格段にダイナミックさが増加した。

 RSDA302はDC11V~20Vの電源(5A)で動作するので,単3乾電池(1.5V)を8個直列接続して,アウトドアで実験してみた。なかなかよい音ではあるが,消費電流が多く,電池があっという間になくなってしまった。

 RSDA302Uのアナログ入力端子の直後にあるオペアンプIC「JRC 5532D」を,新日本無線が開発中のJ-FETオーディオ用高音質オペアンプ「muses」に交換してみた。このオペアンプは試作品で,サンプル出荷の時期は未定である。フレーム材に4N-OFC(99.99%無酸素銅)を使用している。5532Dに比べてかなり透明感が増しているのがよく分かった。RSDA302のアナログ入力段のオペアンプを交換して音色の変化を楽しむのもなかなか面白い。

第26回の補足

 本連載第26回で,CD-Rメディアによって音が変化すること,DACによってはメディアの違いが出ないことを説明した。

 ここでは,メモリーにデータを溜める方式のDACを3種類試聴した結果を報告する。目的は,CD-RとプレスCDの音色の差がこのようなDACで差が出るか出ないかを検証することである。

 試聴したのは以下の組み合わせである。使用したアンプとスピーカは,本連載第26回で紹介した多田氏のシステムである。

・ESOTERIC P-01+D-01
・ESOTERIC P-03+D-03
・SONY SCD-1+SOULNOTE dc 1.0
・SONY SCD-1+藤原DAC
・Pioneer DV-585A
・Pioneer DV-585A 改


図8●手前左からESOTERIC P-01+D-01,ESOTERIC P-03+D-03,上からPioneer DV-585A,Pioneer DV-585A 改,SOULNOTE dc 1.0,プリアンプSANSUI C2301コーリアン補強ケース仕様,SONY SCD-1+藤原DAC


図9●中央がSOULNOTE dc 1.0。その左は開発中のスピーカ。InterBEE 2006にて

 結果は,P-70+D-70の場合と同じように,ESOTERICとSOULNOTEのメモリーにデータを蓄積するタイプのDACを使う組み合わせでは,差が非常に少なくなることが分かった。

 P-01(231万円)+D-01(115万5000円)は,ESOTERICのフラグシップ機で,D-01のDAC ICは,24ビット・マルチビット型Burr-Brown PCM1704を贅沢に8個組み合わせて使うことにより,S/Nとリニアリティの向上が図られている。これによりアンビエンスやプレゼンスの音楽情報までもより正確に再現することが可能になっている。D/A変換された信号を出力するドライバ回路には,ドライブ力とスルーレートにこだわり,±42V電源を使ったディスクリート回路構成になってい。これにより,より瞬発力に富んだ音楽表現が可能となっている。D-01はモノラルDACなので,ステレオ再生には2台必要である。

 P-03(126万円)+D-03(126万円)は,P01+D-01の後に発売されたやや低価格の組み合わせで,ステレオDACの構成である。DAC部にはAnalog DevicesのDSD・PCM対応DAコンバータ「AD1955」を採用,さらに入力ジッターを取り除き,高精度クロックによりDA変換を行う同社独自のRAM LinkをDSD信号にも対応するなど,ESOTERICの最高峰2チャネルDAコンバータである。

 SOULNOTE dc 1.0は25万2000円のDACで,DAC ICに24ビット精度を持つ,Burr-Brown PCM1792Aをデュアルで採用し,その電流出力のドライブ力を活かすため,I/Vコンバータを抵抗にて構成している。直後に無帰還ディスクリート・バランス・アンプを搭載し,100dB以上の繊細で広大なダイナミック・レンジを実現している。