CCNP BSCIの試験範囲の中で最も異色ともいえる学習ジャンルが,Integrated IS-IS(統合IS-IS)です。Integrated IS-ISは,OSIプロトコルとして誕生したルーティングプロトコルである「IS-IS」で,IPルーティングを可能にしたものです。今回は,Integrated IS-ISのベースになっているOSIプロトコルを学びましょう。

Integrated IS-ISとは

 Integrated IS-ISはもともと「IS-IS」というルーティングプロトコルをベースとしています。IS-ISはTCP/IPプロトコルスタックとは別のOSI(Open System Interconnection)プロトコルスタックのルーティングプロトコルで,TCP/IPプロトコルスタックでは使用できません。そこで,TCP/IPでもIS-ISを利用できるようにしたのがIntegrated IS-ISです。

 IS-ISは,OSPFが採用しているリンクステート型のルーティングプロトコルです。そのため,OSPFとよく似た部分を持っています。OSPFとの類似点と相違点の主な点を挙げてみます。

  • 類似点
    • 経路計算にSPFアルゴリズムを使い,SPFツリーとリンクステートデータベースを保持する
    • エリアを使って経路情報をやりとりする
    • Helloパケットを使って隣接ルーターの存在を確認する
  • 相違点
    • IS-ISは「OSIプロトコルスタック」,OSPFは「TCP/IPプロトコルスタック」を使う
    • Integrated IS-ISはIPv4とIPv6を同時に扱えるが,OSPFはIPv4を扱うOSPFv2とIPv6を扱うOSPFv3が別々にある
    • OSPFではバックボーンエリアが必ず必要になるが,IS-ISでは必要ない

 次に,そもそもの「OSIプロトコル」について見てみましょう。

OSIプロトコル

 OSIプロトコルはISO(国際標準化機構)とITU-T(国際電気通信連合電気通信部門)によって規定されたプロトコルです。異なるベンダー間での相互接続のために考案されました。

 OSIプロトコルを理解するには,まず,OSIプロトコルで使われる用語を覚える必要があります(図1)。

  • ドメイン ・・・ 共通の管理下にあるOSIネットワーク。AS(自立システム)に相当
  • エリア ・・・ ドメイン内を分割した領域。OSPFのエリアに相当
  • ES(End System) ・・・ ホスト。ルーティングを実行しないマシン
  • IS(Intermediate System) ・・・ 中継システム。ルータのこと

 図1 OSIプロトコルで使われる用語
OSIプロトコルの用語

 そして,OSIプロトコルには次のようなものがあります。

OSI参照モデルOSIプロトコル
レイヤ7:アプリケーション層VTP,MHS,FTAM,CMIP
レイヤ6:プレゼンテーション層プレゼンテーションプロトコル
レイヤ5:セション層セッションプロトコル
レイヤ4:トランスポート層トランスポートプロトコル
レイヤ3:ネットワーク層CONP,CLNP,ES-IS,IS-IS,ISO-IGRP
レイヤ2:データリンク層IEEE802.2,IEEE802.3,IEEE802.5
FDDI,X.25
レイヤ1:物理層

 ポイントは,TCP/IPでも重要な役割を果たしているネットワーク層(レイヤ3)のプロトコル群です。OSIプロトコルでは,以下の二つのプロトコルを使って,レイヤ3のデータの転送を行います。

  • CONP(Connection-Oriented Network Protocol) ・・・ コネクション型レイヤ3プロトコル
  • CLNP(ConnectionLess Network Protocol) ・・・ コネクションレス型レイヤ3プロトコル

 TCP/IPで言えば,TCP/IPのレイヤ3はコネクション型サービスを実装していません。TCP/IPのレイヤ3はコネクションレス型サービスを実装しており,それを実現するのがIPです。つまり,OSIプロトコルのCLNPが,TCP/IPのIPに相当します。

 OSIプロトコルのルーティングプロトコルには,次の3種類が存在します。

  • ES-IS(End System to Intermediate System) ・・・ ホストとルータ間で使用されるルーティングプロトコル。「ディスカバリプロトコル」とも呼ばれる
  • IS-IS(Intermediate System to Intermediate System) ・・・ 同一ドメイン内で使用されるルーティングプロトコル
  • ISO-IGRP(ISO-Interior Gateway Routing Protocol) ・・・ Cisco独自のドメイン間ルーティングプロトコル。IGRPがベースとなっている

 また,アプリケーション層のプロトコルとしては,以下のようなプロトコルが用意されています。

  • VTP(Virtual Terminal Protocol) ・・・ 仮想端末接続プロトコル。Telnetに相当
  • MHS(Message Handling System) ・・・ メッセージ処理システム。SMTPに相当
  • FTAM(File Transfer, Access, and Management) ・・・ ファイルの交換や管理プロトコル。FTPに相当
  • CMIP(Common Management Information Protocol) ・・・ ネットワーク管理プロトコル。SNMPに相当

ES-ISとIS-IS

 OSIプロトコルでのルーティングプロトコルは,ES-ISとIS-ISが中心になります。ES-ISは,BSCIの試験範囲ではありませんが,OSIプロトコルの全体像を理解するために,まずES-ISを説明します。

 ES-ISは,ホストとルータ間のルーティングプロトコルです。TCP/IPであえて近いプロトコルを挙げるならば,ARP(Address Resolution Protocol)です。ARPは,特定のIPアドレスを持つホストのMACアドレスを調べ,ホストへのデータ転送を可能にするためのプロトコルです。一方のES-ISは,ESがISを,ISがESを調べ,それぞれでデータの転送を可能にするためのプロトコルです。

 ES-ISでは,ES側からESH(ES Hello),IS側からISH(IS Hello)を送り,接続されているES,ISの情報をそれぞれ取得します(図2)。

 図2 ES-IS

 ES-ISで,ISはESの存在を確認し,情報として保持します。この情報はIS-ISでも使用します。

 一方のIS-ISは,ルータ間でのルーティング情報を交換するためのプロトコルで,TCP/IPでのIGPに相当します。つまり,ES-ISでホスト・ルータ間のルーティングを,IS-ISでルータ間のルーティングを担当します(図3)。

 図3 ES-ISとIS-IS
図3 ES-ISとIS-IS