スパム(迷惑メール)が大きな問題になっています。スパムの問題は今に始まったことではありませんが,あるISPの方の話では,2006年になってから特に増えているといいます。そのISPが調べたところでは,全メールに占めるスパムの割合は,2006年6月には4割強だったものが7月には5割を超え,9月には7割を超えたといいます。これは国内だけではなく,世界的な傾向だそうです。海外のあるベンダーは,同社が処理したメールの93%がスパムだったと伝えています(関連記事:スパム・メールの割合は過去最悪の93%に)。

 数が増えているだけではなく,スパムの内容も“多様化”しています。筆者が受け取ったものを見る限り,日本語で書かれたスパムとしては「お金持ちの女性との出会い」を提供するというものが主流でした。「会うだけで×万円のお小遣いが…」といった記述を読むと,「ほんとかな」と思う以前に,笑ってしまいます。そんな“夢”のような話があるわけないですよね。

 しかし最近では,“出会い系”以外の日本語スパムも多数送られてくるようになりました。例えば,違法性の高い製品を売り込むものや,ワンクリック詐欺サイトへ誘導するものが増えているように感じます。「××な動画を見たければリンクをクリック!」といった内容のメールは,“高確率”で詐欺サイトへ誘導するものです。気をつけてください。

 海外では,スパムの多様化はもっと進んでいます。セキュリティ・ベンダーなどの情報を見ると,今のスパムは何でも売り込むようです。

 例えばロシアでは,スパム送信の代行を宣伝するスパムが確認されています(関連記事:「500ドルで1100万通のスパムを送信します」)。「スパムを送信するためのメール・アドレスのリスト」を売り込むスパムは数年前に見たことがありますが,今では送信まで代行してくれるようです。

 作成したウイルスをパソコンに感染させることを請け負うスパムも出現しています(関連記事:「25ドルで1万台のPCにウイルスを感染させます」)。指定したWebサイトにDDoS攻撃(分散サービス妨害攻撃)を仕掛ける“サービス”を売り込むスパム(IMスパム)まであるそうです(関連記事:DDoS攻撃を売り込むスパム)。今なら,「buy two, DDoS the third for free!」――2サイト分の料金で3サイトを攻撃するキャンペーンを実施しているそうです。

「この株が買い!」

 モノやサービスを売り込むことなく金儲けしようとするスパムもあります。代表例が,「pump-and-dump」と呼ばれるスパムです。このスパムは,モノもサービスも売り込みません。特定企業の株が上がるだろうという情報を提供するだけです。もちろん,その情報は嘘です。スパム送信者が安値で買っておいた株の値段を吊り上げるための「風説の流布」です。偽情報で株価が上がったところを売り抜けて利益を得るのです。

 「こんなのにだまされる人がいるのか?」と思う人は多いでしょう。知らない人から送られてきたメールの情報をうのみにして株を買う人がいるとは思えません。しかし,買う人は少なくないようです。pump-and-dumpスパムを送信していたある夫婦は,およそ100万ドルの利益を得たそうです(関連記事:偽情報のスパムで100万ドル儲けた夫婦が告発される)。実際に儲かるのです。それを裏付けるように,pump-and-dumpスパムの流通量は増えています。あるセキュリティ・ベンダーによれば,2006年6月時点で,全スパムの15%を占めていたといいます(関連記事:「スパムの15%は『風説の流布』,株価を吊り上げる偽情報」 )。

 今のところ,日本語で書かれたpump-and-dumpスパムを見聞きしたことはありませんが,今後は,国内ユーザーをターゲットにしたpump-and-dumpスパムが出回る可能性は高いと思います。“日本語版”が出回ったとしても,相手にしないように。儲かることが確実なら,わざわざ人に教えるわけはないのですから。

 とはいえ,「そんなにうまい話はない」と分かっていても,「もしかしたら…」と思って相手にしてしまう人がいるからこそ,スパムは減らないのでしょう。“怪しい”製品についても,違法性が高いと思いつつ購入(あるいは申し込み)してしまう人が実際に存在するからこそ,スパムがビジネスとして成り立っているのだと思います。

 スパムはビジネスです。実際の郵便を使ったダイレクト・メールに比べれば低コストとはいえ,送るコストはゼロではありません。いくら出しても誰からも反応がなければ,コストだけがかさんで商売になりません。どんなに魅惑的なスパムが送られてきても絶対に相手にしないことが,スパムを撲滅するためにできることの一つだと思います。

 少し前の話ですが,知人が「××(使用方法によっては違法性があると思われる製品)を購入しようと思うのだが,どうだろうか」と相談してきました。聞けば,スパムで案内が送られてきたそうです。その製品を購入するかどうかは本人の自由ですから止められませんが,「スパムで商品を宣伝している業者からは,絶対に購入すべきではない」と忠告しました。

 スパムで宣伝された製品やサービスを購入しないことはもちろん,スパムに書かれたリンクをクリックしないことも重要です。そのサイトが詐欺サイトである恐れがあります。そればかりではなく,そのサイトにバナー広告などが置かれていれば,アクセスするだけでスパム送信者を利することになります。どんなに魅惑的な内容でもクリックは禁物。残念ながら,うまい話なんてありません。